中学で「現在完了」はこのように習うはずです。
「have + 過去分詞」は完了形
おなじ過去分詞を使う場合「be + 過去分詞は受身(受動態)」と習います。
どうやら have と一緒の場合は「受身」の意味はなくなるようです。
そもそも have は「持つ」という意味の「動詞」だったはずです。
一体、have の「持つ」という意味はどこへ行ってしまったのでしょうか?
そしてさらにみなさんを混乱させる現在完了の英文が存在します。
I am become Death.
(我は死神となれり)
実はこれは英語圏では比較的よく知られた「現在完了の文章」なんです。
少し古風な文章であるのは事実ですが、ちゃんと英文法の基本は機能しています。
「ええ!? I am become ってどうやって現在完了になるの!?」
と思いませんか?思いますよね?
以上のような疑問はすべて正しい疑問です!
私は日本で英語を勉強していたころ、同じように思っていました。
英文法をシステム的に理解しようとするなら、こういう疑問があって当然です。
ところが実は、その疑問への答えはシンプルです。
なぜなら「have + 過去分詞」の用法は「例外」だからです。
「例外ルール」なのに「基本ルール」として理解できるわけがありません。
もちろん英語にはイディオム・語法に代表されるように「例外」がいくつかあります。
しかし「have + 過去分詞」は「ただの例外」ではありません。
これは本来の文法から「ちょっと変化した例外」なんです。
つまり昔の用法ではちゃんと「基本ルール」で機能していたものなんです。
では「have + 過去分詞」のカラクリを理解するために、まずは「過去分詞」のおさらいをします。
「過去分詞」と「受動態」を理解して「完了」に進む
最初に申し上げました通り「have + 過去分詞」は「例外ルール」です。
次のポイントが理解できているなら、そのまま進んでください。
- 過去分詞に「過去時制」は関係が無いことを知っている。
- 過去分詞が「受身」と「完了」の意味を持つことを知っている。
- 分詞とは「動詞を形容詞化したもの」だと知っている。
- 受動態の「態 voice」の意味を理解している。
- 完了相の「相 aspect」の意味を理解している。
- 「能動態」と「受動態」の関係性を文法的に理解している。
「過去分詞の基本ルール」は次のブログで確認できます。
では基本から例外に変化していくプロセスをみていきましょう。
完了の have を「動詞」と理解する
文法書には「have + 過去分詞」の『have は助動詞』と載っています。
助動詞は英語で「auxiliary verb」といいます。
日本語では「助動詞」の解説はあまり詳しくないことが多いです。
ところが、この「助動詞 auxiliary verb」をさらに細かく分類した2種類の文法用語が存在します。
・法助動詞(modal verb)
(例)will, would, can, could, must など
・第一助動詞(primary verb)
(例)do, have, be動詞 など
これら2グループがまとめて「助動詞 auxiliary verb」と呼ばれているんです。
しかし詳しく見ると have + 過去分詞の場合は「第一助動詞 primary verb」というグループに入ります。
「完了の have」は will や can とは別物なんです。
第一助動詞 have は do や be動詞と同じで「助動詞と動詞のどちらの解釈もありえる」というグループに所属します。
つまり過去分詞とペアになって「完了をつくる have」は「動詞と解釈しても文法説明が可能」というところがポイントです。
それでは 「動詞 have + 過去分詞」を「完了状態を持っている」と理解して次に進みます。
HAVE IT DONE から HAVE DONE IT に
では「have + 過去分詞」の成り立ちを見ていきます。
この話はすべて英語の Wikipedia に載っています。
ではちょっと長いですが、みていきましょう。(日本語は私が注釈しながら訳したものです)
The have-perfect developed from a construction where the verb meaning have denoted possession, and the past participle was an adjective modifying the object, as in I have the work done.
「have を使った完了表現は、所有を意味する動詞(have)と『 I have the work done.』のように目的語(the work)を修飾する形容詞である過去分詞(done)を組み合わせたものから発展したものです。」
https://en.wikipedia.org/wiki/Perfect_(grammar)
過去分詞は「動詞が変化した形容詞」です。
これは英文法では「超基本ルール」なので確認しておきます。
そして次のように続きます。
This came to be reanalyzed, with the object becoming the object of the main verb, and the participle becoming a dependent of the have verb, as in I have done the work.
「ここから文法理解が再分析され、『I have done the work』のように目的語(have の目的語としての the work)が過去分詞(done)を動詞と解釈した場合の目的語(done の目的語としての the work)になり、そして過去分詞(done)は have(動詞)に従属するものとなった。」
https://en.wikipedia.org/wiki/Perfect_(grammar)
そもそも「他動詞の過去分詞」には「受動態+完了相」の両方がデフォルトで発動します。
そのため「完了相」を意味するためには「受動態」が同時に発動してしまいます。
それゆえ have it done の構造がもともと採用されていました。
この構造は英語の基本ルールに従っているものです。
The construction could then be generalized to be used also with intransitive verbs.
「次に、(本来なら be + 過去分詞 で完了を構成するはずの)自動詞でも使われるまでに(have + 過去分詞の)構文が一般化されたと思われる。」
https://en.wikipedia.org/wiki/Perfect_(grammar)
自動詞の場合、形容詞を繋げるのは have ではなく be動詞でなくてはなりません。
にもかかわらずムリヤリ「have + 過去分詞」の構造をつくるのが現代英語です。
ここまで見て分かるのは have を「動詞」ととらえるところからスタートしています。
ちょっと Wikipedia の解説だけではわかりにくいかもしれませんので、詳しく見ていきましょう。
さっそく、よく見る現在完了の例文をみていきます。
“I have done it.”
しかし昔はちょっと違う形をしていました。
それが “I have it done.” なんです。
過去分詞とは「完了相」と「受動態」の意味を加えた動詞の変化形です。
過去分詞の品詞は「形容詞」として扱われます。
形容詞なので「補語 C」に入れることができます。
それゆえ、動詞 have の第五文型(SVOC)の「補語 C」にハマる形で使われていました。
- I have it done.
- 私は現在、それが完了した状態を持っています
上の場合は・・・
- have は現在時制の動詞
- done は過去分詞(完了相と受動態)
・・・の2つのコンビネーションという理解になります。
もともとはこれが本来の完了形の使い方でした。
ここから「have + 過去分詞」で「完了状態を持つ」という意味の「動詞」として機能するようになります。
それではわかりやすく図解してみます。

このような経緯を経て「have + 過去分詞」が一つの「動詞」となるため例外用法になります。
動詞 have だけでは「完了相」の意味を持つことはできません。
過去分詞だけなら「完了相」と「受動態」の形容詞になってしまいます。
それゆえ「have + 過去分詞」がセットになって初めて「完了の動詞」という理解が必要になります。
こうしてみると have だけ切り取ってを「助動詞」と理解することはむしろ不可能です。
have のない過去分詞は「形容詞扱い」になってしまいますから。
もちろん過去分詞だけで「完了の動詞」になる用法は存在していません。
ところが、実はこれで話は終わりではありません。
この「have + 過去分詞」の昔の使い方にはある一つの条件がありました。
それは have の後に来る「O C の関係が受動でなければならない」ということです。
図解するとこうなります。

このことは言い換えれば、過去分詞が「受動態」を持たないとダメだということです。
なぜなら「他動詞の過去分詞」でなければ「受動態」をつくれないからです。
つまり昔の用法では「補語 C」に入るのは「他動詞の過去分詞」に限定されていたんです。
では「受動態」をもつ他動詞の過去分詞だけが「完了相」をつくることができたのでしょうか?
そんなことはありません。
ちゃんと「自動詞」でも「完了相」を作ることができます。
では次に、自動詞の完了相を見ていきましょう。
自動詞は「have + 過去分詞」に使えなかった
ではまず「自動詞」の確認です。
まず動詞には五文型(SVOCの5パターン)があります。
その5種類の中で「目的語 O」をもたない動詞のことを自動詞と言います。
- 第1文型「SV」をとる動詞は「自動詞」
- 第2文型「SVC」をとる動詞は「不完全自動詞」
自動詞(SV と SVC パターンの動詞)には「目的語 O」が存在しないため「能動態」を作れないのです。
能動態を作れるのは他動詞だけです。
それゆえ、能動態の作れない自動詞の過去分詞には「受動態」が適応されないのです。
そうなると、自動詞の過去分詞には「完了相」のみ適応されます。
その結果、自動詞の過去分詞の場合は have を使うことはできなかったんです。
では自動詞で「完了を表現する」には、どうすればいいのでしょうか?
実はもうすでに中学1年でその答えを習っています。
自動詞の過去分詞は be 動詞とペアで完了を表す
中学でならう「現在進行形」とは「be動詞 + 現在分詞」のことです。
現在分詞は「進行相(行動がすすんでいる)」を意味する表現です。
自動詞の過去分詞には受動態の機能がありません。
だから have をつかいません。その代わり、ただの形容詞として扱います。
つまり自動詞の過去分詞も現在分詞と同じ扱いでOKです。
ということは・・・普通に be動詞と組み合わせればいいんです!
★現在分詞は「進行相」の意味を持つ形容詞です。
- He is walking.
- 彼は歩いている
- I am feeling sick.
- 私は気分が悪い
★過去分詞は「完了相」を意味を持つ形容詞です。
- He is risen.
- 彼は蘇った。
- I am become Death.
- 我は死神となれり。
いかがでしょう?
2つ目はブログの冒頭で紹介させていただいた文です。
一見「意味不明」にみえるのには理由があります。
これらの表現は古典から引用したものだからです。
- 「聖書 the Bible」
- 「古代インドの叙事詩 バガバッド・ギータ the Bhagavad-Gita」
この完了用法は古い形ですから、あえて例文を引用するとなると原典が古くなってしまうんです・・・悪しからず。
ちょっと現実離れした表現ではありますが、それはさておき、文法構造を詳しく見ていきましょう。
He is not here for he is risen
“he is risen” は聖書にでてくる表現です。
2000年近くの歴史をもつ聖書には英訳だけでも様々なものがあり、現代の表現から、古めかしい英文まで様々なものがあります。
ここで紹介するのは New King James Version です。
では、実際に使われている英文を引用し、解説に移ります。
He is not here; for He is risen, as He said. Come, see the place where the Lord lay.
『もう(He = イエスは)ここにはおられない。かねて言いわれたとおりに、よみがえられたのである。さあ、イエス(the Lord)が納おさめられていた場所をごらんなさい。』
マタイの福音書28章6節(Matthew 28:6 NKJV)
rise は自動詞で「立ち上がる、上る」を意味します。
その活用形は rise – rose – risen となります。
イエス・キリストが死後、「もう復活した」ということを表現するため risen という完了相をもつ過去分詞が使われています。
それゆえ “He is risen.” で「彼(イエス・キリスト)が蘇った」いう意味になります。
ただ、あくまでもこれは古い表現になります。
より現代の用法に近い “has risen” も載っていますので、参考までに見ていきましょう。
“He is not here; he has risen, just as he said. Come and see the place where he lay.”
Matthew 28:6 (New International Version)
こちらは「has + 過去分詞」を使って現在完了の動詞として表現しています。学校でもよくみる現代の表現です。
そして文法的な解釈も変わります。

現代では「自動詞」であっても「have + 過去分詞」でまとめて「動詞」としての解釈になります。
これこそが過去分詞の意味を「受動態」と刷り込まれた直後に、中学3年で習う「現在完了」というものです。
これが be 動詞をむりやり have に置き換えた「例外用法」です。
これによって「自動詞(受動態なし)」か「他動詞(受動態)」かの区別をせずに「完了の動詞」をつくれる便利な表現ができました。
では続けて SVC の過去分詞をみていきましょう。
I am become Death, the destoryer of the worlds.
I am become Death, the destroyer of the worlds.
『我は死神なり、世界の破壊者なり(私は死神、世界の破壊者となった)』
the Bhagavad Gita
これは古代インドの叙事詩である the Bhagavad Gita(バガヴァッド・ギーター)の一節からの引用です。
このフレーズは原子爆弾の開発者である J. Robert Oppenheimer が核実験後(1945年)に使ったことでより有名になりました。
これは古風な表現ではあるものの現代でも通用しています。
アメリカのドラマで「Heroes」のシーズン3エピソード4(2008年)のタイトルにもなっています。
ちゃんと Wikipedia のページもあります(↓)

では、文法構造をみていきましょう。
become は「~になる」という意味で SVC の文型をとります。
また活用形は become – became – become となります。
「補語 C」は「目的語 O」ではないので「受動態」は機能しません。
それゆえそのまま過去分詞化した become のあとに置いたままになります。

オッペンハイマーによって、”I am become Death” はよく知られる表現とため、英語で検索をかけるといろんなものが見つかります。
【 I am become Death の文法解説(英語)】

こちらでは完了形をつくるのに be から have に変わった経緯などを解説しています。
このブログを書くのにもたくさん参考にさせて頂きました。
【 I am become Death の元の意味(英語)】

ちょっとここで小ネタに入ります。
オッペンハイマーは「Death 死神」と言っていますが、原典のバガヴァッド・ギータでは「Time 時」と訳すのがより正確なようです。
これは「時の流れの中では万物はいずれ滅び去る」ということで「Time 時」が「世界の破壊者」となるようです。
また英語の「死神」には Reaper / Grim Reaper(命を刈るもの)という言い方もあります。
欧米の「死神」が「(大型の)鎌 scythe」を持つ姿で描写されるのも reap(刈る)からだと思われます。
昔の「自動詞の完了相」は英語の Wikipedia に載っている
現在では自動詞・他動詞など関係なしに「have + 過去分詞」で「完了の動詞」を作れます。
しかし昔は「be動詞 + 自動詞の過去分詞」で完了相を作ることパターンが基本ルールでした。
この経緯を再確認するためブログの冒頭の Wikipedia の記述を引用します。
”This came to be reanalyzed, with the object becoming the object of the main verb, and the participle becoming a dependent of the have verb, as in I have done the work. The construction could then be generalized to be used also with intransitive verbs.”
「ここから文法理解が再分析され、『I have done the work』のように目的語(have の目的語としての the work)が過去分詞(done)を動詞と解釈した場合の目的語(done の目的語としての the work)になり、そして過去分詞(done)は have(動詞)に従属するものとなった。(本来なら be + 過去分詞 で完了を構成するはずの)自動詞でも使われるまでに(have + 過去分詞の)構文が一般化されたと思われる。」
Perfect (grammar) – Wikipedia
昔の用法である SV と SVC の過去分詞を be動詞と組み合わせるパターンは Wikipedia にもいくつか載っていますので紹介します。
SV の完了
- Madam, the Lady Valeria is come to visit you. (The Tragedy of Coriolanus, Shakespeare)
- Pillars are fallen at thy feet… (Marius amid the Ruins of Carthage, Lydia Maria Child)
- I am come in sorrow. (Lord Jim, Conrad)
- I am come in my Father’s name, and ye receive me not (John 5:43, The Bible)
SVC の完了
- Vext the dim sea: I am become a name… (Ulysses, Tennyson)
- I am become Time, destroyer of worlds. (Bhagavad Gita)

最後の例文はバガヴァッド・ギータからですが、オッペンハイマーの訳とは違って「Time 時」になっています。
これは上述した通りで、本来はこちらの意がより適切な英訳として Wikipedia にも載っているのではないでしょうか。
つまるところ「have + 過去分詞」はなんで便利なの?
さてここまで「have + 過去分詞」が「例外ルール」であることはみてきました。
実際にそんなことまでしてお得なことはあるんでしょうか?
ここからは「私個人の視点」になりますが、プラスなことは「大あり」です。
やはり最大の利点は、他動詞の過去分詞から「受動態」を消し去ることができるからです。
つまり「完了相だけの表現」が生まれます。
そうなると「完了相」を「能動態」で運用できるようになります!!!

日本の英文法ではほぼ無視されていますが「他動詞の過去分詞」には「受動態」と「完了相」の両方がデフォルトでセットされています。
表現によっては「受動態メイン」だったり「完了相メイン」だったり、両方の意味を含んでいたりします。
そこから「have + 過去分詞」を使って「受動態」の無い「完了相」を他動詞の過去分詞にセットできるようになりました。
そうすれば「完了」や「受身」それぞれの意味をより明確に区別して示せるようになります。
では実際に見ていきましょう。
- I have raised him.
- 私は彼を育てあげた(完了相のみ)
- I have him raised.
- 私は彼を育ててもらった(受動態メイン)
上記のように「have + 過去分詞」を使えば「完了オンリー」の意味を示せます。
同時に「過去分詞(単独)」の場合にも「受動態」の意味をより強く示せるようにもなりました。
ただこれは「過去分詞(単独)」が「受動態オンリー」になったわけではありません!!!ここは要注意です!!!
自動詞の過去分詞はより形容詞に近いイメージに
これまで「他動詞の過去分詞」を見てきました。
実は「自動詞の過去分詞」にも「have + 過去分詞」の用法が加わることで変化が起きています。
現代では「 have + 過去分詞(自動詞)」で「完了相の動詞」を表現できます。
さらに「自動詞の過去分詞」には「受動態」はありません。
そもそも「完了相」しかセットされていないので「受動態」と使い分ける理由はありません。
その代わり「品詞」の違いにフォーカスして使い分けがされているようです。
- 自動詞の過去分詞 ⇒ 形容詞
- have + 自動詞の過去分詞 ⇒ 動詞
実際に例文で見ていきましょう。
- The bridge is fallen.
- その橋は = 落ちている(状態)
- The bridge has fallen.
- その橋は落ちた(行動)
これを文法解説すると以下のようになります。

自動詞でも「have + 過去分詞」で「完了相の動詞」で運用できます。
それゆえ、「自動詞の過去分詞」は昔より形容詞としての意味が強まり「状態」を示すニュアンスが強くなっていっているようです。
実際に、自動詞 go の過去分詞である “gone” は「もういない、無くなっている、死んでいる」といった意味でよく使われています。
- He has been gone for 10 years.
- 彼は10年間ずっとここにはいない(行方知れず)
この文であれば “has been” で「完了(動詞)」を示し、”gone” で「どっかにいってしまった」という「状態(形容詞)」を組み合わせていると考えられます。
私の勝手な感覚ですが、やはりこちらの意味のほうがメインな気がします。
例外ルールには意味がある
英語の場合は「文の要素 SVOC」と「品詞の使用ルール」が基本ルールになります。
中にはこの have + 過去分詞のように「例外ルール」があります。
でも、それが「間違い」ではなく「例外として認められる」のには理由がある可能性が大きいです。
古い英語では機能していた文法が現代英語で「例外」になってしまっているケースもあります。
歴史を振り返る視点から一度、英文法を見直してみると意外な発見があるはずです。