古英語に由来する代名詞 thou thy thee thine を解説

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英語になじんでくると、広く深く英語の世界を冒険してみたくなってきます。

日本語にも古文や漢文がありますが、古い表現は英語にも当然あります。

その代表的なものが「thou(汝、そなた)」です。

日本の学校では習わないものの、英語版のゲームなどの太古の碑文や古文書などにはよく使われています。

「thou」のような表現をつかうと「いにしえ」感を出せるのでしょう。

それでは、そんな代名詞の一覧をさっそく見ていきましょう。

代名詞 thou thy thee thine

  • thou:汝は、汝が(主格)
  • thy:汝の (所有格:所有限定詞)
  • thee:汝に、そなたに (目的格)
  • thine:汝のもの、そなたのもの (所有格:所有代名詞)

これらは「you / your / you / yours」の古く堅い表現です。

現代では「you」が「あなた/あなたたち」という単数複数の両方を担当します。

それゆえ現在の英語では「you」が「あなた」「あなたたち」になるかは文脈判断になります。

もともとは昔はこんな感じでした。

単数 Singular

  • わたし(一人称単数)「I my me mine
  • あなた(二人称単数)「thou thy thee thine

複数 Plural

  • わたしたち(一人称複数)「we our us ours
  • あなたたち(一人称複数)「ye your you yours

つまり you とは「二人称複数の目的格」で「あなた達に、あなた達を」という意味だけだったんです。

いやはや you は大出世です。 

そのせいで私のような日本語ネイティブは英会話の時に「you って単数? 複数?」と悩むことになりました。

複数の you でわかりやすいのは複数表現とペアリングされているものです。

  • He knows you both.
  • 「きみたち両方」
  • You two should stay here.
  • 「きみたち二人」
  • I will ask every/each one of you.
  • 「あなたたち全員/それぞれ」
  • You have to take care of yourselves.
  • 「複数の再帰代名詞 yourselves」

リスニングだと “you two” は “you too” との区別がつきません。

どのみち文脈で判断するクセをつけておかないと、会話ができませんので要注意です。

もしかすると「you = あなた」と自動で脳内和訳していませんか?

英会話がしたい人は you の単数・複数を見分けるクセをつけてください。

実際の英語は、こんなことは日常茶飯事ですが、瞬時に正確に理解するのは難しいと思います。 

もし「you」の単数は「thou」に戻せば、そんな悩みはなくなるんですけど・・・。

英語は聖書から学ぼう!

英語で古く格式あるものとして一番有名なものは「聖書 the Bible」です。 

聖書の中には「thou」や」「thy」がたくさん出てきます。 

では、その聖書の中にある「God」との守るべき約束である「十戒 じっかい Ten Commandments」を見てみましょう。 

ちなみに日本語の読みは「×じゅっかい ⇒ 〇じっかい」です。

聖書にはユダヤ教の教えも含まれていて、十戒もカトリックやプロテスタントなど宗派によって中身や順番がすこし変わってきます。

とはいえ「God との約束」である点は変わりません。「欧米は契約社会」とよく言われるのもこれが理由です。

God の言いつけを守ることで、God に守ってもらうことになります。

信仰そのものが契約なんです。

これは神道、仏教、儒教がごちゃまぜになった文化圏で生きてきた日本人にはすこしつかみにくい考えです。

十戒 Ten Commandments

さて、話を十戒に戻します。

ここではプロテスタントの十戒をご紹介します。

shalt」がたくさんできてきますが、ミススペルではありません。「thou」が主語のときだけにつかう「shall」の変化形です。

shall は will と近い言葉で「義務・運命」を表す表現です。

日常会話にあまり登場しないせいで、日本の学校ではあまり詳しく習いませんが、聖書や契約文書などでは、山ほど登場します。

人の行動や物事のあり方を規定する」shall の感覚を、ぜひ知っておいてください。

(1) Thou shalt have no other gods before me.

汝はわたしのほかに神をもってはならない。』

キリスト教は一神教です。神様は一人しか認めません。

一神教がほかの宗教に排他的なのはここが根本的な理由です。

別の神が存在すると信じる者は偽物を崇める邪教の信者になります。

戦国時代にはキリシタンによる神社仏閣の焼き討ちなどが頻繁に行われました。長崎を中心とする九州は特にひどかったようです。

キリシタン大名で有名な高山右近は領土内でキリシタンによる神社仏閣への焼き討ちを秀吉にとがめられたのに対応策をとりませんでした。

それゆえ高山右近は追放になっています。一方でヨーロッパでは彼は「聖人 saint」に列せられています。

高山右近の行いはキリスト教的には正しいのかもしれませんが、多くの信仰が融合する日本では一神教のほうが異端になります。

秀吉も家康もこの一神教の排他性を非常に警戒していました。

自分たちだけが正しいと決めつけた信仰が、ここまで徹底的に日本とぶつかることになった理由も、日本人はよく知っておくべきだと思います。

(2) Thou shalt not make unto thee any graven image.

汝は汝に向けて、いかなる彫像(偶像)をつくってはならない。』

これが「偶像崇拝の禁止」に関連する項目になります。

十戒の中には graven image(彫像) の代わりに idol(偶像) を使用したバージョンも存在します。

とはいえ歴史の事実としては、信者の獲得や信仰対象を明確にするために、聖像や聖像画(icon イコン)がつくられていきます。

東ヨーロッパに基盤があった東方正教会(現在はロシア正教が中心)では「聖像画」がたくさんつくられました。

その理由は graven image という表現がポイントになっています。grave とは「彫る」という意味です。

それゆえ draw(描く)ものである「聖像画」は「絵画なので対象外!」という解釈になりました。

つまり十戒が禁止しているのは『彫像崇拝(graven image worship)であり偶像崇拝(idol worship)ではない!』という解釈です。

しかし、偶像崇拝を徹底するイスラムに軍事的に圧倒されるようになると「聖像破壊運動 iconoclasm」が起こるようになります。

そのイスラムの脅威に対し、God との約束をより厳格に守ることで加護を得ようとするキリスト教徒による対抗措置でした。

15世紀ごろまではキリスト教国を中心とするヨーロッパは、イスラム圏(アラブ・トルコ)に軍事的にはほぼ一方的に守勢にまわっていました。

8~13世紀は「イスラム黄金期 Islamic Golden Age」とよばれ、イスラム圏がはるかに強大な力を誇っていて、キリスト教圏にも大きな影響を与えています。

アラブ世界の優位性が崩れるのが、さらに驚異的な軍事力を誇るモンゴルによる世界侵略です。これによりイスラム圏から世界最高レベルの人材・知識・技術が西側へとながれルネサンスの下地へと変わっていきます。

(3) Thou shalt not take the name of the Lord thy God in vain.

汝は汝の神である主の名をみだりに唱えてはならない。』

よく「Oh my God!」と言わない方がいいとされるのはこれが理由です。

もちろん、これは英語圏に限らず、キリスト教圏共通です。英語では「goodness」や「gosh」などで代用します。

(4) Remember the Sabbath Day to keep it holy. 

『安息日を心にとどめ、これを聖とせよ。』

God が世界を創造し、7日目に休まれたという聖書の最初に載っている「創世記 Genesis」の内容に由来します。

1週間が7日で日曜が休みなのはこれが理由です。

(5) Honor thy father and thy mother. 

汝の父母を敬え。』

(6) Thou shalt not kill. 

、殺す無かれ。』

(7) Thou shalt not commit adultery. 

、姦淫する無かれ。』

(8) Thou shalt not steal. 

、盗む無かれ。』

(9) Thou shalt not bear false witness against thy neighbor. 

、隣人に関して偽証する無かれ。』

(10) Thou shalt not covet anything that belongs to thy neighbor.

、隣人の財産を欲する無かれ。』

いかがだったでしょうか?

英語の表現や感覚にはキリスト教由来のものがたくさんあります。

キリスト教の基本をすこし知るだけで、英語ネイティブ感覚にちょっと近づきます。

母音つながる thine と mine はちょっと特殊

所有目的格の「thine」は十戒にはありません。

ですが「thy」と「thine」には特殊なルールがあります。

さっそく例文をみていきましょう。

  • Follow thy heart.
  • 「汝のこころに従え」
  • Follow thine own heart.
  • 「汝自身のこころに従え」

違いがお分かりいただけますか?

実は母音(a, i, u, e ,o)につながる所有格は thy ではなく thine になります。

「thy heart」と「thine own heart」の違いですね。細かい!

このような表現はかの有名なイギリスの作家、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の作品にも使われています。

では代表作である「ハムレット Hamletの一節をみていきましょう。

To thine own self be true, and it must follow, as the night the day, thou canst not then be false to any man.

実際に thine own となっています。

ちなみに canst とありますが、 thou に対応する「法助動詞 can」の変化形です。

実はこのパターンは thine と似ている mine にも適応されます。

現代の用法では mine は「所有目的格 ~のもの」しか使いません。

しかし母音につながる場合は所有格の mine も存在していました。

続いて mine の例文もシェイクスピアの「ベニスの商人 the Merchant of Venice」から引用いたします。

“He hath disgraced me and hindered me half a million, laughed at my losses, mocked at my gains, scorned my nation, thwarted my bargains, cooled my friends, heated mine enemies – and what’s his reason?”

the Merchant of Venice

最後だけ mine enemies になっています。thine と同じで、母音に対して mine の所有格が使われています。

ここではシェイクスピアを取りあげましたが、聖書(King James Version)にも mine と thine の所有格はよくでてきます。

ちょっと昔の英語(Middle English)にはこのような特徴があります。

なんと現代でも「古英語」が生まれている?

実は「古文」的な英語は現代でも作られています。 中世ファンタジー世界が舞台になっているゲームなどでは「古英語」が会話文に普通に登場します。

聖書やシェイクスピアだけが古英語を使っているわけではなく、現在も「古英語」の文章が増えているのが面白いところです。

私が経験した中では「ファイナルファンタジータクティクス(リメイク版)」と「ファイナルファンタジー12」がかなりの難易度が高いです。

ということでゲームをネタに古語に特化して記事も書いています。

実は奥深い代名詞

おそらく thou / thy / thee / thine はニュースや日常会話ではほとんどでてこない表現です。

ですが歴史や伝統や宗教に触れるケースではよく目にします。

「英語で視野を広げる」というのはとても大切です。

でも、それはただ「海外旅行」や「留学」をすればいいということでもないと思います。

日本にいたとしても歴史、文化、信仰をテーマに「英語を深く探ってみる」と新たな発見がたくさんあると思います。

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