なぜ過去分詞や現在分詞と呼ぶ?その名前と意味の歴史

Phrase-past-participle-etymology 英語の仕組み

英語を学んでいると、ふとこう思ったことはありませんか?

あれ? eaten(食べられた)って受け身なのになんで “過去分詞” って言うんかな?

もしくはこんな疑問が湧いてきたりしませんか?

cooking(料理している)って “現在分詞” なのに “I was cooking.”(料理していました)みたいに過去の文で使われるんかな?

こうなると「現在」「過去」という言葉は時制と関係なさそうにも見えてきます。

実は、私自身も長いあいだこの疑問に悩んでいました。

ところが、アメリカ留学中にエスペラント語を学んだことで、ついに謎が解けたのです。

そのカギとなったのは、英語の分詞の歴史的背景です。

というわけで今回は、英語における「現在分詞」と「過去分詞」という名称の成り立ちその機能を明らかにしていきます!

分詞の機能は「時制」じゃない!

まずは英語の2種類の分詞をざっくりおさらいします。

分詞主な機能
現在分詞
(present participle)
cooking(料理している)
eating(食べている)
進行相
能動態
過去分詞
(past participle)
cooked(料理される/られた)
eaten(食べられる/られた)
完了相
受動態

どうみても現在分詞と過去分詞の機能は「名称」と一致していません。

なぜなら、分詞の本質的な役割は時制 tense ではなく「相 aspect(動作の進行度)」と「態 voice(動作の方向性)」を表すことだからです。

このことにピンときたきっかけが、エスペラント語でした。

エスペラント語では、分詞がなんと3つの相2つの態の組み合わせで、まるでレゴブロックのように組み立て可能なシステムになっています!

エスペラントの分詞は3つのパーツで成り立ちます。

  • 動詞の原形分詞(相&態)+ 語尾(品詞の切り替え)
相\態能動 Active(〜する)受動 Passive(〜される)
未然相/予期相
Prospective aspect
-ont-(する予定)-ot-(される予定)
進行相
Progressive aspect
-ant-(している)-at-(されている)
完了相
Perfect aspect
-int-(した)-it-(された)

実例をあげてみましょう:

  • manĝanta(食べている)
    • 進行相 × 能動態(形容詞 -a)
  • manĝita(食べられた)
    • 完了相 × 受動態(形容詞 -a)

このロジカルな体系を見て、ハッと気づかされたのです。

あっ!英語の現在分詞と過去分詞も “時制” やなくて “” を表しとったんか!

英語ではこの2種類の分詞を「現在」「過去」と呼びますが、実際の機能とはズレた名称だったわけです。

ではエスペラント語英語の分詞の機能をくらべてみましょう。

エスペラント語の分詞の「相 aspect」と「態 voice」:未然・進行・完了・能動・受動
エスペラント語の分詞の「相 aspect」と「態 voice」:未然・進行・完了・能動・受動

英語は「未然能動分詞」の代わりに「不定詞 to do(する方向へ)」を使うことができます。

英語の不定詞・現在分詞・過去分詞の「相 aspect」と「態 voice」
英語の不定詞・現在分詞・過去分詞の「相 aspect」と「態 voice」
  • be going to do:〜しようとしている
  • be about to do:今にも〜しようとしている
  • be yet to do:これから〜する予定である

これらは不定詞 to do の「未然相/予期相 prospective aspect」の応用ですね。

Prospective aspect - Wikipedia

こうして整理してみると、英語の分詞も本来の機能(相と態)がクリアに見えてきます。

ではここから英語の「分詞」そして「現在過去」という名称の成り立ちに進んでいきましょう。

分詞 “Participle” の由来とは?

英語だけでなく、世界中の多くの言語に「分詞」は存在します。

もっとも基本的な分詞の定義は「動詞の性質を持つ形容詞(または副詞)」のことです。

では「participle(分詞)」という用語の由来を見てみます。

これはラテン語の「participium(分詞)」が動詞形容詞副詞の役割を「共有 particeps」していたことが由来となります。

実際に Wikipedia の引用を見てみましょう。

The word participle comes from classical Latin participium, from particepssharing, participation‘, because it shares certain properties of verbs, adjectives, and adverbs. The Latin grammatical term is a calque of the Greek grammatical term μετοχή ‘participation, participle’.

『英語の「participle(分詞)」は、動詞形容詞そして副詞の特性を共有していることから、古典ラテン語の「particeps(共有、参加)」という用語に由来します。 このラテン語の文法用語は、ギリシャ語の文法用語「μετοχή’(共有)」から翻訳されたものです。』

Participle – Wikipedia

ヨーロッパ系言語の文法用語はローマの公用語だった「ラテン語 Latin」に由来する(もともとはギリシャ語)ものが多くあります。

それではほかの言語でも「分詞 participle」の表記を見ておきましょう。

言語名称英語に直訳意味
ドイツ語 German①Partizip
②Mittelwort
①participle
②middle word
①分詞
②中間語
オランダ語 Dutchdeelwoordpart-word分けられた語
フランス語 Frenchparticipeparticiple分詞
スペイン語 Spanishparticipioparticiple分詞
イタリア語 Italianparticipioparticiple分詞

こうみるとオランダ語の「分詞」が日本語の感覚と似ていてます。

江戸時代からのお付き合いもあるお国ですし、なんだかより親近感がわいてきます。

deelwoord - Wiktionary, the free dictionary

現在分詞と過去分詞の由来とは?

さて、いよいよここから「現在」と「過去」のナゾに迫ります!

まずは英語 Wikipedia から現在分詞過去分詞の命名の経緯を引用します。

The linguistic term, past participle, was coined circa 1798 based on its participial form, whose morphology equates to the regular form of preterite verbs. The term, present participle, was first used circa 1864 to facilitate grammatical distinctions.

Despite the taxonomical use of “past” and “present” as associated with the aforementioned participles, their respective semantic use can entail any tense, regardless of aspect, depending on how they are structurally combined.

『言語学上の用語「過去分詞 (past participle)」は、その分詞形が規則動詞の過去形と同じ形態をしていることに基づいて、およそ1798年頃に作られた。それに対し「現在分詞 (present participle)」という用語は、文法的な区別を容易にするために、1864年頃に初めて使われるようになった。

過去」や「現在」という語がこれらの分詞に分類上(分類学上)使われているものの、実際の意味的な用法においては、いずれの「相」であるかに関係なく、どの時制にも関わる可能性があり、それはそれぞれの分詞が文の中でどう使われるかに依存する。』

Participle – Wikipedia

ややこしい解説ですので、内容をまとめてみます。

過去分詞の「過去」とは時制ではなく “形” のことだった!

“過去”分詞 と区別するために “現在”分詞と名付けた!

まさか!ホンマかいな?!・・・と思うようなネーミングですよね。

  • talk – talked – talked
  • 現在形 – 過去形 – 過去分詞

このように、規則動詞では過去形と過去分詞形が同じ形をしています。

そのため近代の言語学者たちは・・・

この分詞、過去時制の形past tense form)と同じやから「過去分詞(past participle)」にしよか!

・・・という発想に至ったらしいのです。

なんと「過去分詞」の“過去”とは、時制(tense)ではなく、形(form)の話だったというわけです。

さて「過去分詞」という名前が誕生したので、進行や能動を表すもう一つの分詞にも名前を付けないといけません。

そこで・・・

過去分詞があるんやから、それに対応させて「現在分詞(present participle)」にしたろ!

・・・となりました。

つまり「現在分詞」の “現在” という語もまた時制の機能ではなく、過去分詞との対称性を保つためにすぎなかったのです。

ここまで来て、ふと素朴な疑問が湧いてきませんか?

えっ? past participle の命名は1798年?そんで present participle1864年!?

イギリスの歴史はもっと長いのに、そんな最近の言葉なん?

……と思ってしまいそうですが、ご安心ください!

これはあくまで「英文法用語としての正式な命名」の話です。

実際、分詞という文法的な概念そのものには、とても長い歴史があります。

たとえば、仏教の原典は古代インドのサンスクリット語で書かれているので「仏陀(Buddha)」という言葉も、実は 目覚めた (awakened)”という意味の過去分詞から来ています。

さて、この分詞たち――インド・ヨーロッパ語族という言語の大家族に属する諸言語に、太古の昔から共通して見られるものなんです。

分詞は数千年の歴史をもつ

英語は「インド・ヨーロッパ語族(Indo-European language family)」という、世界最大級の言語ファミリーに属しています。

この大家族には以下のような言語が含まれます:

  • 英語(English)
  • ドイツ語(German)
  • フランス語(French)
  • ラテン語(Latin)
  • 古代ギリシャ語(Ancient Greek)
  • ロシア語(Russian)
  • サンスクリット語(Sanskrit)など

そして英語と近い親戚はゲルマン語ロマンス語の2グループに分かれます。

こういった広大な言語ファミリーの共通のご先祖様とされるのが、およそ紀元前3000年ごろ存在していたとされるインド・ヨーロッパ祖語(Proto-Indo-European, PIE)です。

Proto-Indo-European verbs reflect a complex system of morphology, more complicated than the substantive, with verbs categorized according to their aspect, using multiple grammatical moods and voices, and being conjugated according to person, number and tense. In addition to finite forms thus formed, non-finite forms such as participles are also extensively used.

インド・ヨーロッパ祖語の動詞は、名詞よりも複雑な変化形のシステムを持ち、動詞は「相 aspect」に基づいて分類され、さまざまな「法 mood」と「態 voice」を用い、多くの「人称 person」「数 number」そして「時制 tense」に従って形が変化します。このような「定形 finite」の構造に加えて、分詞などの「非定形 nonfinite form」も広く用いられます。』

Proto-Indo-European verbs – Wikipedia

なんとすでに数千年も前に「動詞としての様々な機能を持ちながら、形容詞や副詞的な働きをする分詞」があったと推定されています。

ですが「分詞」の歴史と英文法用語の名称の歴史はそれぞれ別の話です。

英文法用語の命名はラテン語に大きく影響されてきた歴史があります

英文法はラテン語で書かれていた?

英語は今でこそ世界言語ですが、その文法が昔から英語として説明されていたかというと、実はそうではありません。

ちょっとここで英語の歴史の概要を確認しておきます。

中世から近代にかけてのヨーロッパにおいて、教育や学問の世界ではラテン語の文法がスタンダードとされていました。

つまり英文法も、当時広く影響力を持っていたラテン語の文法書をお手本にして書かれていたのです。

ラテン語の文法書としては、特にプリスキウス(羅: Priscianus / 英: Priscian)の『Institutiones Grammaticae』が代表作として挙げられます。

Priscian - Wikipedia

いまでも英文法用語にはラテン語の用語を、そのまま英語に当てはめたものが多いのはそのためです。

当然ですが、英語の分詞も次のようなラテン語の原文のままで記述されていました:

  • Participium praesens
  • Participium perfectum

これらの表現は「現在分詞」「完了分詞」といった意味を持ち、英語の文法書でもそのまま引用されて使われていたのです。

そしてさらに時代が進むと、これらのラテン語表現の英訳が文法書などで見られるようになります:

  • participle of the present tense
    • 現在時制の分詞
  • participle of the perfect tense
    • 完了時制の分詞

なんとこれらの表現は「〇〇時制の分詞」と呼ばれています!

さらに驚いたことに「完了時制 the perfect tense」という英語に存在しない時制が使われています!

こうなると多くの方にある疑念が生じるかと思います。

ホンマにそんなん使われとるんかな? イマイチ信用できへんねんけど?

ご指摘はごもっとも!

というわけで・・・この時代の文法書における実際の表現を調べるには Google Books を使うのが有効です。

検索エンジンでは古い書物のデータにアクセスするのが難しいことがあります。

ですがおそらく近代以降であればデジタル化されている可能性もあるので、運がよければ直接、確認できます!

Google Books

ぜひ一度 Google Books で検索してみて下さい!

  • “participle of the present tense”
    • 現在時制の分詞
  • “participle of the perfect tense”
    • 完了時制の分詞

さて、ここまでみたように「〇〇時制の分詞」はラテン語を英訳した用語でした。

もちろん分詞の英訳にはいくつかのバリエーションがあり、特に一つに決まっていたわけではありません。

それでも分詞の命名がラテン語文法では時制に由来するものだったということを確認できました。

ちょっと記憶をたどると、なんだかヘンな話だと思いませんか?

分詞の本来の機能は「相 aspect」と「態 voice」のはずです。

ではなぜ、そのような「時制」をもとにした名前がつけられてしまったのでしょうか?

実はその背景には、英語とは大きく異なるラテン語の「時制システム」が深く関わっているのです。

ここからは、ラテン語の時制がどのように分詞と結びついていたのかを見ていきましょう。

ラテン語の分詞と「時制」の真相

ラテン語はインド・ヨーロッパ語族の中でも特に文法が精緻なことで知られる古典語です。

ここでは、そのラテン語における分詞の形と機能をざっと見ておきましょう。

主要なラテン語の分詞は以下の3つです:

分詞の名称ラテン語原形相・態
未来分詞
(future participle)
amātūrus
(愛しようとしている)
未然相/予期相
能動態
現在分詞
(present participle)
amāns
(愛している)
未完了相(進行を含む)
能動態
完了分詞
(perfect participle)
amātus
(愛された)
完了相(完結を含む)
受動態

このようにラテン語と英語そしてエスペラント語の分詞も機能に大きな違いはありません。

ラテン語の分詞も「相と態」の機能が中心であり、やはり完了分詞には「完了受動」の2つの機能があります。

ラテン語の未来分詞・現在分詞・完了分詞の「相 aspect」と「態 voice」
ラテン語の未来分詞・現在分詞・完了分詞の「相 aspect」と「態 voice」

ここで注目したいのは「現在・完了・未来」という分詞の名前です。

実は分詞のネーミングはラテン語の時制に由来しているんです。

え?それってラテン語には「完了時制 perfect tense」があるってことなん?

…と思われた方はスルドイ! 

その通りです! ラテン語には「完了時制」があるんです

まさに「名前は時制!中身は!」――これは英語と同じ落とし穴ですね!

ではここから「ラテン語の時制 Latin tense」を深堀していきます。

実はラテン語は「時制」と「相」をきっちり分離しません

これは英語とのとても大きな違いです。

つまりラテン語では時間」と「相」をセットで「時制」とするシステムだったのです!

それゆえ「どの時間枠どのぐらい動作が進んでいた?」を「時制(1つの動詞の変化で表現可能)」として表現します。

例えばこんなふうに:

時制(ラテン語)時間使われる場面
praesens
(現在)
現在未完了相今まさに進行中
習慣的にやっている
imperfectum
(未完了過去)
過去未完了相昔よくやってた
途中だった
futurum
(未来)
未来未完了相これからする予定
perfectum
(完了)
現在完了相もうやった・終わってる
*現在から見てすでに完了
plusquamperfectum
(大過去)
過去完了相過去よりも前に完了
futurum exactum
(未来完了)
未来完了相未来の時点で完了するはず

注意点としてはラテン語の完了時制perfectum” は “今の時点で完了している”という感覚をもちます。

そのため文脈次第で英語の過去時制現在完了のどちらにも訳されます

Latin tenses - Wikipedia

このように、ラテン語では「時間」が 「時制」として機能していたことが大きなポイントです。

ラテン語の時制は「時間枠」だったので 」の機能をもつ分詞のネーミングとして使用するのに違和感がなかった

つまり「時制⇒分詞」にそのまま「相」の機能を利用できるんです。

  • これから行動する(未来時制 ⇒ 未来分詞)
  • いま行動する(現在時制 ⇒ 現在分詞)
  • もう行動し終えた(完了時制 ⇒ 完了分詞)

つまり「現在分詞」や「完了分詞」といった呼び方は、ラテン語的には非常に自然だったのです。

そしてこのラテン語的な分詞の呼び方が、そのまま英文法にも利用されていたというのが近代までの英語の歴史なんです。

過去分詞はラテン語からの独立宣言

ラテン語が支配的だった近代から時は流れ、注目すべき転換期が訪れます。

それが「past participle 過去分詞」という用語が使用された始めた18世紀頃です。

そもそもラテン語と英語とでは「時制 x 相」のシステムが異なります。

そのため英語の教育者や文法学者たちは徐々にこう考え始めました。

ラテン語をムリヤリ使うのやめて、英語に合わせた文法の解説が必要やないんかな?

つまり「past participle(過去分詞)」という呼称は、ラテン語文法から独立するための英語の独自の試みだったんです。

この時代の状況を英語の Wikipedia から引用してみましょう。

The use of grammar descriptions in the teaching of language, including foreign language teaching and the study of language arts, has gone in and out of fashion.
As education increasingly took place in vernacular languages at the close of the Renaissance, grammars of these languages were produced for teaching.
Between 1801 and 1900 there were more than 850 grammars of English published specifically for use in schools.

(ラテン語に準拠した)文法解説を言語教育に用いるという方法は、時代とともに流行したり廃れたりしてきました。ルネサンスの終わり頃になると、教育は次第にラテン語ではなくそれぞれの国の言語で行われるようになり、それに伴って国ごとの言語の文法書が教育目的で作られるようになりました。そして1801年から1900年の間だけでも、学校教育専用に出版された英語の文法書は850冊以上もありました

Traditional Grammar – Wikipedia

このような時代に「過去分詞(past participle)」という呼び方は生まれました。

そしてそれは英語という言語の中で独自に選び取られた表現だったんです。

とはいうものの「動詞の時制」に由来するネーミングであったことは共通です。

  • ラテン語 ⇒ 完了時制の分詞
  • 英語 ⇒ 過去時制と同じ形の分詞

つまりラテン語は「時制 tense」そのもの、そして英語は「時制の形 tense form」に由来する点が異なります。

ところがこの「過去分詞」は英語だけのオリジナル名称というわけでないんです。

ここからすこし寄り道をしてほかの言語の「過去分詞」を見ていきましょう。

ロマンス語は「完了」より「過去」派?

ラテン語の影響を最も素直に受け継いだのが、ロマンス語の言語たちです。

実は彼らのほうが「過去分詞(past participle)」という名称を、英語よりも早く使い始めたとされています。

では実際にみてみましょう:

  • フランス語:participe passé
  • スペイン語:participio pasado
  • イタリア語:participio passato

具体的な初出時期は不明ですが、16世紀にはすでに文法的な議論の中で使用されていたと考えられています。

ラテン語では「完了」は「現在の時点で既に終わっていること」を意味しており完了=過去」という感覚が自然でした。

そのためロマンス語ではラテン語の perfect participle の機能を受け継ぎつつ、「過去」という語を分詞に採用しています。

このような「完了=過去」という発想は、日本語ともよく似ています。

たとえば「食べた」「行った」など、完了を示しながら時間的には過去として理解されることが多いです。

これは英語の「過去 past」は「もう過ぎ去った passed」にも共通する感覚と言えます。

ここで注意点ですが、英語では「過去時制」という時制のシステムになると話は変わります。

英語の「過去時制」と「完了相」はきっちり区別が必要です。

なお、英語の「past participle(過去分詞)」のネーミングに、フランス語の「participe passé(過去分詞)」などの影響があった可能性は完全に否定はできません。

とはいえ、前述の英語版 Wikipediaの記述にも見られるように、ロマンス語の影響はあったにせよ、ラテン語の文法用語を英語独自のネーミングで適応させたものと考えられています。

ドイツ語の孤高の選択 “第〇式”

英語と近いゲルマン語派の中でも、あえて独自路線を切り開く言語があります。

それがドイツ語です。

ドイツ語は現在過去の2時制システムという、ゲルマン語に共通するすっきりした構造をもちます。

これまた英語と同じ問題を抱えていて、ラテン語の時制をムリヤリ採用すると、やはりズレや誤解が生じてしまいます。

それゆえドイツ語は過去分詞でも完了分詞でもない、新たな分詞を識別する名称を開発します。

それが次の2つです:

  • Partizip I(分詞第Ⅰ式)
    • もともとは「現在分詞」と呼ばれる
  • Partizip II(分詞第Ⅱ式)
    • もともとは「完了分詞」と呼ばれる

なんとドイツ語では「現在 / 過去」ではなくナンバリング(Ⅰ/Ⅱ)で識別しています。

注意点ですが、日本で一般的なドイツ語文法では「現在分詞 & 過去分詞」と訳す例も多いです。

しかしながらドイツ語の分詞も、英語と同様に」の両方の機能を備えています:

分詞相(aspect)態(voice)
Partizip I進行相能動態
Partizip II完了相受動態

このようにあえて「過去分詞」や「完了分詞」といった一面的な呼称を避けています。

ドイツ語に忠実な和訳をすると「第〇分詞」または「分詞第〇式」といった名称が候補になるかと思います。

さらにこのナンバリング識別は「接続法(Konjunktiv)」でも使用されています

  • Konjunktiv I(接続法第Ⅰ式)
    • 英語の仮定法現在に相当
  • Konjunktiv II(接続法第Ⅱ式)
    • 英語の仮定法過去に相当

ここである違和感をもたれる方も多いかと思われます。

「ん? 接続法なんて文法用語、聞いたことないで?」

この理由は「接続法」が日本の英文法では「仮定法」とよばれるからです。

実は「仮定法」と「接続法」はどちらもラテン語の subiunctivus(接続されたもの)に由来しています。

  • 英語では subjunctive(仮定法)
  • ドイツ語では Konjunktiv(接続法)
  • フランス語では subjonctif(接続法)

残念なことに日本語では、英語やドイツ語のように一貫した訳語が定まっていません。

そのため「仮定法」そして「接続法」に加えて「叙想法」といった複数の用語が並存しています。

一方でドイツ語の命名は、独自の視点から分詞接続法にナンバリングを採用しました

これには「現在過去という用語を時制でないところで使用しない」という明確な意図があるはずです。

エスペラント語の分詞は希望

ここまでいろいろな分詞のネーミングをみてきました。

それでもやはりエスペラント語の分詞をぜひ覚えておいていただきたいと思います。

私はアメリカ留学中に、エスペラント語のおかげで、英文法用語に惑わされずに「分詞の機能」を習得できました。

特に秀逸なのは、エスペラント語の分詞は「能動 vs 受動」の切り替えが可能なことです。

エスペラント語の分詞の変化パターン:未然・進行・完了・能動・受動
エスペラント語の分詞の変化パターン:未然・進行・完了・能動・受動

実は英語にもほぼ同じことが可能なんです。

英語の場合は「相 x 態」の切り替えを連携で表現します。

英語の不定詞・現在分詞・過去分詞の連携表現(相&態)
英語の不定詞・現在分詞・過去分詞の連携表現(相&態)

英語の過去分詞は「完了相+受動態」に機能が限定されています。

それゆえ「have 過去分詞(完了相能動態」のような連携も生まれてきました。

こうして機能だけを見れば、英語を理解するのに、エスペラント語がとても役に立つ気がしませんか?

ちなみに “Esperanto” とはエスペラント語で「希望する」という意味の動詞 esperi の「能動進行分詞 + 名詞語尾」にあたります。

esper-anto = 希望しつづける人(希望者)

このブログ記事が分詞を極めるための「希望」となれば幸いです。

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