英語の「助動詞」にお困りではありませんか?
私自身もよく「助動詞の解説がわからない」というお悩みを伺うことがあります。
まず重要なこととして、助動詞が理解できないのは、みなさんの能力のせいではありません。
そもそも「英語の助動詞」そのものが一筋縄ではいかない複雑な仕組みを持っているんです。
ですが御心配には及びません!
英語の助動詞の成り立ちの歴史を学べば、ちゃんと答えは見つかります。
では「助動詞のナゾ解き」を基本の確認から始めていきましょう!
英語の助動詞は2種類ある
まず日本の英語学習で「助動詞」と習うのは will や can などだと思います。
これらには特殊な機能があり、動詞に対して「話し手の認識・判断」を追加することができます。
- will:未来への意志
- ~するつもり
- ~になるだろう
- can:可能性・能力
- ~できる
- ~かもしれない
このような「話し手の認識・判断」のことを文法用語では「法 mood」といいます。
そのため、これらの助動詞はより正確には「法助動詞」と呼ばれています。
ちなみに「法 mood」という用語は「仮定法 subjunctive mood」にも使われています。
次に使い方ですが「動詞の原形」の前に置いてセットで使えばOKです。カンタンですね!
- I will do it.
- I can do it.
ここで少し注意点です。
英語の動詞は「現在形 present form」と「原形 base form」が同じ形をしています。
- I do it.
- I will do it.
ですが be動詞だけは例外で、原形が be なので、現在形と区別できます。
- I am here.
- I will be here.
- I can be here.
さて be動詞だけいろいろと変化するのは、be動詞が昔の英語の特徴を残しているからです。
ドイツ語やフランス語などのヨーロッパ系言語の動詞は、英語の be動詞のように変化するのが普通です。
さて法助動詞の意味はいろいろありますが、文法の超基本の知識は今はこれで大丈夫です。
ところが助動詞の話はこれで終わりではありません。
英語には機能が大きく異なる別のタイプの「助動詞」が存在します。
それらは日本の英文法書で「進行形」や「完了形」と呼ばれる文に登場します。
- She is doing it.
- He has done it.
さらに「受動態」と呼ばれる文にも登場します。
- It is broken.
なんと be動詞 でも have でも「助動詞」になります。
これらの3種類の文をみると共通点が見つかります。
それは be と have が「分詞」とペアを組むということです。
- She is doing it.
- 現在分詞 doing
- He has done it.
- 過去分詞 done
- It is broken.
- 過去分詞 broken
このように現在分詞や過去分詞と組むときにも「助動詞」が登場します。
『一体どうなっているのか意味がわからない!!』
もしそう思われたとしたら、みなさんが正解です!
なぜなら英語には2種類の大きく異なる助動詞があるからです。
そして全然違う2つのものが同じ「助動詞」と呼ばれるのにも、ちゃんと理由があります。
その理由を探るため、まず「助動詞」という文法用語の意味を確認することにします。
助動詞の意味は「助ける動詞」
まず文法用語の「助動詞」の意味を正しく理解するところから進めましょう。
助動詞は英語で auxiliary verb と呼ばれます。
英単語 auxiliary は「補助的な」という意味の形容詞です。
そして verb は「動詞」という意味です。
英語の表記はいくつかありますが「助ける動詞」であるのは共通です。
- auxiliary verb(補助的な動詞)
- helping verb(助ける動詞)
- helper verb(補助者である動詞)
- verbal auxiliary(動詞による補助)
ここから助動詞とは英語の意味そのままで「助ける動詞」だと理解できます。
つまり助動詞とは「補助する機能を持つ動詞」ということです。
多くの日本の英語解説では「動詞を助ける=助動詞」となっているようですが、これは「日本語の助動詞」の解釈です。
そのため「英語の助動詞」に関していえば、これは正確な解釈とは言えません。
もちろん英語に限らず、フランス語やドイツ語でも「助動詞」は「動詞の仲間」です。
これが英語に近いヨーロッパ系の言語で共通する「助動詞」の定義です。
そうなると疑問点が2つ浮かんでくることになります。
- 助動詞は「何」を助ける動詞ですか?
- will や can も「動詞」ですか?
私の考えでは、英語の助動詞がややこしい理由はこの2つの疑問に集約されます。
そして、この2点への回答がそのまま英語の助動詞が2種類あることの回答になります。
つまり英語の「助動詞」を2つに分類すれば、英語の助動詞をマスターできるんです。
法助動詞 & 第一助動詞
ではここから「助動詞=助ける動詞」という理解のもとに進めていきます。
英語の2種類の「助動詞」にはちゃんと別の名前が存在します。
それが次の2つです。
- 法助動詞:modal auxiliary verb
- 第一助動詞:primary auxiliary verb
ではそれぞれどんなものがあるか見ていきます。
- 法助動詞
- will / would
- shall / should
- can / could
- may / might
- must
- 第一助動詞
- be
- have
文法用語になじみがなくても大丈夫です。
どの単語も中学でならうものなので、見覚えさえあれば OK なので安心して下さい。
ここで、ちょっと注意点です。
どちらも英語表記の場合には「auxiliary 補助的な」を使わないときもあります。
- modal verb
- primary verb
その理由はカンタンで、助動詞は「動詞 verb」だからです。
実際に英語の Wikipedia を参照してみましょう。
Definitions of auxiliary verbs are not always consistent across languages, or even among authors discussing the same language. Modal verbs may or may not be classified as auxiliaries, depending on the language. In the case of English, verbs are often identified as auxiliaries based on their grammatical behavior.
『助動詞の定義は、言語間で、または同じ言語について議論する著者間でさえ、必ずしも一貫しているわけではありません。 法助動詞は、対象とする言語に応じて助動詞として分類される場合と分類されない場合があります。 英語の場合、動詞は、それが文法的に果たす役割に基づいて助動詞として識別されることがよくあります。』
Auxiliary verb – Wikipedia
日本でよく見る助動詞の解説とは一線を画す内容となっています。
英語に限らずヨーロッパ系言語でも「助動詞の定義はバラついている」という解釈が基本となります。
とはいえ助動詞を「動詞の機能」として理解すること自体には問題はなさそうです。
ではここから英語とほかの言語も加えながら、助動詞のナゾに迫っていきます。
英語と同じくドイツ語やオランダ語も2種類の助動詞を使い分けます。
この2種類の助動詞はゲルマン語とロマンス語という2つの言語グループにわけることで、正体がわかりやすくなります。
では英語に近い親戚のヨーロッパ系の言語を例に見ていきましょう。
- ゲルマン語グループ Germanic languages
- 英語 English(英)
- ドイツ語 German(独)
- オランダ語 Dutch(蘭)
- ロマンス語グループ Romance languages
- フランス語 French(仏)
- スペイン語 Spanish(西)
- ポルトガル語 Portuguese(葡)
- イタリア語 Italian(伊)
そして法助動詞はゲルマン語の仲間がもつ助動詞です。
では実際に語源を見ていきます。意味は同じではないものも多いので参考でお願いします。
あくまでも「法助動詞」はゲルマン語の中で独立グループとして分類されています。
一方で、ロマンス語には「法助動詞」として明確に区別されたグループがありません。
たとえばフランス語には「未来を意味する法助動詞」がなくて、「動詞の未来時制の変化形」が存在します。
ではまず英語の動詞 speak(話す)に相当する parler を使って現在時制をみていきます。
- I speak French.
- Je parle français.(動詞 parler の現在時制形)
では未来表現を次に見ていきます。
英語は「法助動詞 will の現在時制形」をつかいますが、フランス語は動詞がそのまま変化します。
- I will speak French.
- Je parlerai français.(動詞 parler の未来時制形)
またフランス語では can や must に相当する表現も普通の動詞のように変化します。
英語における have to(義務の表現)のように考えてもらうとイメージがつきやすいかと思います。
- I have to do it.
- He has to do it.
- I had to do it.
- You don’t have to do it.
- Do I have to do it?
文構造としては動詞 have が不定詞 to do を目的語として使っているのがわかります。
つまり意味は「義務(話し手の認識・判断)」であっても普通の動詞の仕組みで表現できます。
フランス語には英語の法助動詞と同じ使用法はなく、「法 mood」は普通の動詞の機能で表現します。
そのためフランス語をはじめとしたロマンス語にある「助動詞」は、基本的に「第一助動詞」を意味します。
つまりフランス語の文法書で「助動詞 auxiliary verb」と書いてあるのは être と avoir (英語の be と have)です。
これが be や have のほうが正統派の「助ける動詞」であることとつながってきます。
- 法助動詞
- ゲルマン語:あり
- ロマンス語:なし
- 第一助動詞
- ゲルマン語:あり
- ロマンス語:あり
ゲルマン語とロマンス語のどちらにもある第一助動詞が「正統派の助動詞」になることがお判りいただけるかと思います。
それは形容詞 primary が「主要な、第一の」を意味することからも明白です。
さて英語の場合は、ゲルマン語グループに所属するので「法助動詞」と「第一助動詞」は分けて理解する必要があります。
その理由は、これら2つの助動詞では「助ける機能」に大きな違いがあるからです。
このことは「法助動詞」と「第一助動詞」では「助けるもの」が違うことを意味します。
ここでいう「助けるもの」とは助動詞から連結できる品詞のことです。
- 法助動詞が助けるもの
- 動詞の原形 base form
- 第一助動詞が助けるもの
- 分詞 participle
- 現在分詞 present participle
- 過去分詞 past participle
- 分詞 participle
ここからそれぞれ確認していきます。
法助動詞は「動詞の原形」を助ける
まず「法助動詞」が助けるものは「動詞の原形」です。
- I will do it.
- I will be there.
ここで重要になるのは「動詞の原形」の品詞です。
動詞の原形というと「命令文」が浮かぶと思いますが、これは英語の歴史から見ると新しい用法なんです。
昔の英語には「命令を意味する動詞の変化形」がありましたが、これが「動詞の原形」に置き換わっていったんです。
なんと、もともと古英語の時代は「動詞の原形」は名詞用法でした。
つまり「動詞の原形」は法助動詞の目的語になる名詞のような扱いだったんです。
ですが英語の参考書や文法書には「動詞の原形 = 名詞」とは書いてありませんよね?
それは古英語から現代英語の流れの中で、動詞の原形の解釈が大きく変わってしまったからです。
後ほど詳しく解説しますので、ひとまず法助動詞は「動詞の原形を助ける」とご理解下さい。
第一助動詞は「分詞」を助ける
次に「第一助動詞」が助けるものは「分詞」です。
英語には「現在分詞」と「過去分詞」の2種類があり、どちらもサポートします。
- She is doing it.
- 現在分詞 doing
- He has done it.
- 過去分詞 done
- It is broken.
- 過去分詞 broken
まず「分詞 participle」とは「動詞」を「形容詞」に変化させて「特殊な機能」を発動する形です。
英語の分詞のもつ「特殊な機能」は「相」と「態」の2種類です。
- 相 Aspect
- 行動の進行度を表現する
- 態 Voice
- 行動について「する or される」を区別する
ではそれぞれの品詞と機能を見ていきます。
- 現在分詞 Present Participle
- 形容詞(品詞)
- 進行相(相 Aspect)
- 行動が進行している
- 能動態(態 Voice)
- 主語と行動の関係が「~する」
- 過去分詞 Past Participle
- 形容詞(品詞)
- 完了相(相 Aspect)
- 行動が終わっている
- 受動態(態 Voice)
- 主語と行動の関係が「~される」
ではここから第一助動詞が分詞とペアを組む理由の解説に進みます。
そもそも英語をはじめヨーロッパ系の言語では、主語や時制に合わせて形を変えて動詞を使う必要があります。
この文の中心として機能する動詞のことを「定形動詞 finite verb」といいます。
- I am here.
- 1人称単数 & 現在時制
- I was here.
- 1人称単数 & 過去時制
- We are here.
- 1人称複数 & 現在時制
- We were here.
- 1人称複数 & 過去時制
同じ be動詞ですが、主語や時制にあわせて形が定まるのが、お判りいただけると思います。
一方で、分詞は主語や時制によって形が変化しないという特徴があります。
この特徴を「非定形 nonfinite」といい、文の中心としての動詞(定形動詞)の機能がないことを意味します。
なぜか非定形動詞は日本では「準動詞」と呼ばれることのほうが多いようですが、どちらも英語では全く同じものです。
では試しに現在分詞 walking をつかってみましょう。
- I am walking here.
- 1人称単数 & 現在時制
- I was walking here.
- 1人称単数 & 過去時制
- We are walking here.
- 1人称複数 & 現在時制
- We were walking here.
- 1人称複数 & 過去時制
おわかりのように、分詞は形が変化しないので「非定形動詞 nonfinite verb」であることが分かります。
そのため現在分詞も過去分詞の品詞は「形容詞」として扱う決まりになっています。
これはヨーロッパ系言語に共通の用語で、フランス語もドイツ語も「分詞」は形容詞とするのが基本です。
では、ここでそれぞれのポイントを押さえておきます。
- 定形動詞
- 品詞は動詞になる
- 主語・時制に合わせて形が変化する
- 非定形動詞
- 品詞は動詞にならない
- 主語・時制に合わせて形が変化しない
- 現在分詞と過去分詞もこの仲間!
英語の動詞を普通に使うだけでは「進行相(~している)」や「受動態(~された)」を発動できません。
なぜなら英語では「進行相」や「受動態」は分詞(非定形動詞)だけが発動できる機能だからです。
ところが非定形動詞である「分詞」の品詞は形容詞なので、もう動詞として使えません。
そうなると「分詞」を使うときには「定形動詞」が必要になります。
つまり「第一助動詞」とは「分詞を助ける定形動詞」という意味なんです。
この「第一助動詞」は日本では「進行形」や「完了形」と呼ばれる文に登場します。
そもそも日本の英語教育でよくみる「〇〇進行形」や「〇〇完了形」は「複合時制 compound tense」という解釈をしているので、これらは「時制」として解説されます。
では例文を見ていきましょう。
- She is doing it.
- 第一助動詞 is
- 現在分詞 doing
- He has done it.
- 第一助動詞 has
- 過去分詞 done
このように分詞を助けるために「第一助動詞」が使われています。
英語と同じくフランス語でもドイツ語でも分詞を助けて「複合時制」をつくる be や have は「第一助動詞」です。
There are two auxiliary verbs in French: avoir (to have) and être (to be), used to conjugate compound tenses
フランス語には、avoir(英語の have)と être(英語の be)という2つの助動詞があり、複合時制を活用するために使用されます
French conjugation – Wikipedia
つまりフランス語も英語と同じで「第一助動詞 avoir + 過去分詞」で表す形があります。
- You have visited Paris.
- Tu as visité Paris.
- as = 動詞 avoir (英語の have に相当) の2人称単数の現在形
このフランス語の構造を「複合過去 composite past / passé composé」と言います。
英語の「現在完了 present perfect」と同じ形でフランス語の複合過去は「過去時制+完了(完結)」に近い意味を持ちます。
しかし細かく文法解釈すると「進行」や「完了」は時制ではなく「相 Aspect」のグループに入ります。
そもそも文法用語の「相 Aspect」は「時制 Tense」とは別の機能を意味します。
英語は「時制 x 相」を完全分離するシステムを採用している言語なので、複合時制を分解して理解することが可能です。
英語の場合は動詞と分詞で機能が分担されています。
- 時制:動詞で表す
- 現在時制 Present Tense
- 過去時制 Past Tense
- 相:分詞で表す
- 進行相 Progressive Aspect
- 完了相 Perfect Aspect
そのため「動詞+分詞」をつかって「時制+相」の連携を表現します。
- 現在時制+進行相(現在進行形)
- I am doing it.
- 過去時制+進行相(過去進行形)
- I was doing it.
- 現在時制+完了相(現在完了形)
- I have done it.
- 過去時制+完了相(過去完了形)
- I had done it.
進行形と呼ばれるものは「〇〇時制+進行相」でカンタンに理解できます。
現在分詞の品詞は形容詞なので、be動詞を使って第2文型 SVC を作ります。
めちゃくちゃ単純な話なので楽ですね!
ところが「have+過去分詞」でつくる「〇〇時制+完了相」には注意が必要です。
過去分詞の品詞は形容詞なのに他動詞 have からつなげるのはヘンテコな話ですよね?
こうなった理由は英語の歴史に関係しているので、詳しくはこちらをどうぞ。
では次に「受動態 passive voice」に進みます。
受動態は「完了相 perfect aspect」とおなじく「過去分詞」の機能です。
より正確には「他動詞の過去分詞」の機能ですが、品詞が形容詞であることに変わりはありません。
そのため受動態を発動したいときは「定形動詞」である be動詞が「第一助動詞」として必要になります。
- The door is opened.
- 第一助動詞 be
- 過去分詞 opened
このカラクリも過去分詞の品詞が形容詞であることを知っていればカンタンですね。
もちろんフランス語でも受動態を発動させるのに「第一助動詞 être+ 過去分詞」を使います。
- The ship is built by my father.
- Le bateau est construit par mon père.
- est = être(英語の be動詞 に相当)の三人称単数の現在形
英語でもフランス語でも「過去分詞を助ける動詞」が必要なのは共通なんです。
さて受動態をつくる文法はちょっと複雑な仕組みになっています。
下に①過去分詞と②受動態の2つの解説ブログを載せてあります。
受動態が苦手な方は「①過去分詞 ⇒ ②受動態」の順に確認ください。
ここまでで「第一助動詞」が「分詞を助ける定形動詞」とご理解いただけたと思います。
助動詞 do does did(do-support)
英語の助動詞で注意するものに助動詞 do があります。
英語では「do-support」と呼ばれ、一般動詞の否定文や疑問文などで使われるものです。
- You know it.(肯定文)
- Do you know it?(疑問文)
- You do not know it.(否定文)
この助動詞 do の仕組みは、英語の歴史の中で比較的最近になって一般動詞にだけ使われるようになりました。
事実、古英語には助動詞 do をつかった否定文や疑問文は存在しないですし、フランス語そしてドイツ語などにもありません。
この助動詞 do の機能は「強調 emphasis」を加えると「法助動詞」と同じように機能するのが分かると思います。
- You make it.(元の文)
- You do make it.(強調 emphasis)
- Do you make it?(疑問 question)
- You do not make it.(否定 negation)
さて「助動詞 do」についてもキチンと分類するには難しい立ち位置にあります。
そのため次の2点を覚えておいてください。
- 法を発動しないので第一助動詞に分類されることが多い
- be や have と違って、分詞とペアを組むことができない
- 実際の使い方は法助動詞と同じでよい
- 「法 mood」の機能ではなく強調・疑問・否定を表す
このように2種類の助動詞のどちらかに「助動詞 do」を割り振ることは難しいです。
助動詞 do の仕組みと成り立ちの詳しい解説はこちらをどうぞ。
古英語の法助動詞の仕組み
さきほど法助動詞は「動詞の原形を助ける動詞」とお伝えしました。
ところが日本では「助動詞」のことを「動詞を助ける」と理解されている方が過半数かと思います。
これは現代英語を運用する上では、とても便利な視点です。
ただ残念ながら、これは本来の「助動詞」の定義ではありません。
第一助動詞と同じく、法助動詞にも「助ける動詞」の視点が必要です。
そのため、ここで2つ目の助動詞の疑問点を再確認します。
『will や can も「動詞」ですか?』
この質問の回答はもう確定しています。
『はい、昔は動詞でした。ところが今は動詞ではありません。』
こんなことが起こっている理由は、英語の「法助動詞」の使い方が今と昔で変化したからです。
そのため、この変化を無視して英語を学ぶと混乱するだけになるでしょう。
それならいっそのこと、英語の法助動詞の使い方の変化を理解してしまいましょう!
めちゃくちゃテキトーですが、まず基本の知識はこうなります。
- 昔の法助動詞:動詞として使える
- 動詞の原形が「名詞」として使える
- 今の法助動詞:動詞として使えない
- 動詞の原形が「名詞」として使えない
現代まで文字として残っている古い英語は「古英語 Old English」といって約1000年ほど前までの英語になります。
そして我々が日常的に目にする英語は「現代英語(もしくは近代英語)Modern English」と呼ばれます(区分や用語には様々な見解があります)。
英語の歴史を詳しく知りたい方はデュオリンゴのブログが非常に参考になります。
1000年以上にわたる時を経て「古英語」から「中英語」そして「現代英語」に行きつくまでに、単語や発音そして文法などに大きな変化が起こりました。
そして法助動詞の解釈も大きく変わってしまいました。
その最大の原因になっているのは「動詞の原形」の役割です。
古英語の「動詞の原形」は名詞用法
まず基本的にヨーロッパ系言語の文法用語では「動詞の原形 base form」のことを「不定詞 infinitive」といいます。
たとえばフランス語では「不定詞 infinitif」とは「動詞の基本形(名詞用法)」を意味します。
もちろんフランス語では「動詞の原形」と「不定詞」は同じものなので、区別する理由がありません。
ところが、現代英語では「to + 動詞の原形」をワンセットで「不定詞 infinitive」と呼びます。
つまり現代英語では「不定詞 infinitive」と「動詞の原形 base form」は区別が必要な言語なんです。
- 英語:動詞の原形と不定詞が違うもの
- フランス語:動詞の原形と不定詞が同じもの(実はこちらが多数派!)
そもそも古英語での「不定詞(動詞の原形)」の品詞もフランス語と同様に「名詞用法 nominal」が基本です。
しかし我々の知る現代英語の「不定詞」はヘンテコな仕組みになってしまっています。
そもそも現代英語の不定詞の “to” は古英語の時代は前置詞として使用されたものでした。
- to do(~することへ向けて)
- 前置詞 to(~の方向へ)
- 動詞の原形 do(名詞用法:~すること)
同様にドイツ語にも前置詞 zu(英語の to) と不定詞を組み合わせる用法があります。
もちろんドイツ語でも不定詞を単独で使用すれば名詞用法(~すること)です。
つまり本来であれば「動詞の原形だけ」を「不定詞 infinitive」と呼ぶのが正解です。
ところがいつの間にか、英語では「to 不定詞」を固定するというヘンテコ用法が標準になってしまいました。
その結果「to 不定詞」のことを「不定詞」と呼ぶのが、広く認められています。
とはいえ現代英語を除けば「不定詞=動詞の原形」であり、名詞用法が基本なのは変わりません。
現代英語では「動詞の原形」は命令文をつくるイメージが強いのですが、これは古英語から変化するなかで生まれたものです。
元々は古英語では「命令法の専用形」と「不定詞」では別の形で区別されていました。
古英語の動詞の変化パターンは下記を確認ください。
こういった使いたい機能に合わせて形が変わる動詞の仕組みは、古英語をはじめヨーロッパ系言語で共通であることは絶対に覚えておいてください。
古英語と現代英語の「不定詞」のナゾに深く踏み込んだ話はこちらのブログを参照ください。
そして当然ながら、古英語の時代の「動詞の原形=名詞用法(~すること)」は、法助動詞にも適用されます。
つまり法助動詞の本来の仕組みは「名詞用法(動詞の原形)とワンセット」で考える必要があるんです。
古英語の法助動詞は「定形動詞」
英語の法助動詞はもともと動詞として機能していました。
例えば法助動詞 can は「~のやり方を知る」という動詞 cunnen に由来します。
ここから「能力がある ⇒ 可能性がある」のように意味が広がりました。
そして英語の法助動詞はもともとは「普通の動詞」でした。
つまり be動詞や一般動詞と呼ばれる動詞と同じです。
そのため現在と過去の2種類の時制を表現する形があるので「定形動詞 finite verb」として機能します。
- 法助動詞の現在形
- will
- can
- may
- shall
- must
- 法助動詞の過去形
- would
- could
- might
- should
このなかで must だけ過去形がありませんが、これも英語の歴史が関わっています。
実は元々 must は過去形で使われていたものが、現在形に置き換わっていきました。
それゆえ昔は下記のような使い分けになっていました。
- moten 現在形
- must 過去形
現代英語では現在形 moten は消滅したので、過去形の法助動詞が一つ少なくなっています。
とはいえ現代英語では have to do で代用できるので問題にはなりません。
- 現在時制:have to do
- 過去時制:had to do
法助動詞は時制だけでなく、主語によって形が変化する特徴がありました。
さらにすこし昔の英文などには、法助動詞の変化形が残っています。
- I can ~.
- Thou canst ~. (≒ You can ~.)
この thou は「二人称単数の主格の代名詞」で、昔は複数の you と使い分けがありました。
ちなみにフランス語をはじめ二人称の単数と複数を使い分ける言語はたくさんあります。
実際に英語とフランス語の動詞 be/être と have/avoir でくらべてみましょう。
- You are ~. / You have ~.
- 2人称単数・複数は同じ形
- あなたは・あなたたちは
- Tu es ~. / Tu as ~.
- 2人称単数形(フランス語)
- あなたは
- Vous etes ~. / Vous avez ~.
- 2人称複数形(フランス語)
- あなたたちは *敬語として単数で使うときもあるので注意
このように、ほかの英語の法助動詞も同様に thou にあわせて変化する形があります。
- thou shalt (≒ shall)
- thou wilt (≒ will)
- thou mayst (≒ may)
聖書やシェイクスピアの作品などには登場するので、見たことがある方もいらっしゃるかと思います。
二人称単数の代名詞 thou について詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
このように法助動詞は定形動詞として「ホンモノの動詞(英文の中心構造)」として機能していました。
ではここから法助動詞の例文を can を使って文構造を確認していきます。
- I can do it.
もともとは動詞の原形は「名詞」です。
そうなると法助動詞が「動詞」です。
では先ほどの to 不定詞と並べてみましょう。
- to do = 前置詞 + 名詞用法(動詞の原形)
- ~することの方向へ
- can do = 動詞 + 名詞用法(動詞の原形)
- ~することのやり方を知っている
どちらも「動詞の原形」が名詞用法であることで正しい文法が成立しています。
これが古英語の解釈にあわせた法助動詞の「助ける動詞」としての文法解説です。
さらに古英語の法助動詞 cunnen は普通に「動詞」としても使用可能です。
その理由はあたりまえですが「動詞の原形(名詞用法)」だけでなく「名詞」も目的語にすることができるからです。
英文法のナゾは「古英語から現代英語への変化」を知るだけで、背後にあるカラクリがわかります。
あまり知られていないかもしれませんが、古英語の文法は現代英語よりも現代ドイツ語のほうによく似ています。
そのため英文法で悩んだらドイツ語の文法書が驚くほど参考になることは覚えておいてください!
実際に法助動詞もゲルマン語の語源を共有しているでので、よく似ています。
- can(英語)
- cunnen(古英語)
- können(ドイツ語)
というわけでドイツの法助動詞 können を例にして、古英語の法助動詞の仕組みをみていきましょう。
ドイツ語の法助動詞は普通の動詞なので、主語や時制などで変化する「定形の動詞」となります。
- Ich kann singen.(I can sing.)
- Du kannst singen. (Thou canst sing.)
二人称単数の主語に対し、動詞の語尾が「st」になるのも昔の英語とそっくりですね!
さてここからドイツ語と現代英語の違いに進みます。
ドイツ語の法助動詞は「定形動詞」であることが普通の動詞としても使える証拠になります。
それゆえ法助動詞 können は名詞を目的語にできることを意味します。
- Ich kann Japanisch.(ドイツ語)
- I know Japanese.(英語に翻訳)
- I “can” Japanese.(あえて古英語っぽくムリヤリ変換!)
英語の can と違ってドイツ語の können(~のやり方を知る)は名詞 Japanisch(日本語)を目的語にできるんです。
そうなると、この場合は「(動詞の原形を)助ける動詞」ではないことになります。
そのため「助動詞」と呼ばれることはなく「動詞」として扱われます。
- Ich kann Japanisch.(ドイツ語)
- 辞書には「動詞」と「法助動詞」の2つの見出しがある
- このケースでは kann は普通の「動詞」と解釈される
つまりドイツ語では「法助動詞 modal auxiliary verb」と呼ばれるには2つの条件が必要になります。
- 法 Mood
- 話し手の判断・認識である「法 Mood」を発動する
- 助動詞 Auxiliary Verb
- 動詞の原形を助ける定形動詞である
ここまでくれば「法助動詞」の成り立ちがご理解いただけたかと思います。
ところが残念ながら、この古英語やドイツ語の解釈は現代英語には応用できません。
その原因は、現代英語の法助動詞の特徴は「動詞の原形とペアを組む形でしか使えない」ということにあります。
では最後の関門である「動詞の原形」の品詞の解釈について、さらに話を進めていきましょう。
現代英語の法助動詞はヘンテコ
古英語やドイツ語の法助動詞は文字通り「助ける動詞」でした。
前述のように「話し手の認識・判断である『法 mood』を発動し、名詞用法である不定詞を助ける動詞」としての成り立ちがあるからです。
ところが現代英語ではその解釈を変更する必要があります。
まず最大の違いは、現代英語の法助動詞は名詞を目的語にとることができません。
実際に「名詞」になるものを法助動詞の後ろに置いてみます。
- ✖ She can Japanese.
- 名詞を置くのはダメ
- ✖ She can it.
- 代名詞を置くのもダメ
- ✖ She can running.
- 動名詞 ING形を置いてもダメ!
- ✖ She can to sing.
- to 不定詞の名詞用法ももちろんダメ!
ことごとくダメになってしまいますよね?
なぜなら現代英語の法助動詞には文の中心となる「定形動詞」の機能が無いからです。
このことは「法助動詞から助ける動詞の機能がなくなった」ことを意味します。
一方で「助動詞」とよばれることの多い have to は「ホンモノの動詞(定形動詞)」です。
そもそも have to は「~する方向を持つ」という表現です。
- 動詞 have ~を持つ
- 定形動詞
- 不定詞 to do ~する方向
- 前置詞 to + 動詞の原形(名詞用法)
ここから「義務・必然性」のイメージが派生し、法助動詞 must と言い換えられるようになりました。
義務や必然性は「法 mood」の機能なので、法助動詞と区別されないまま「助動詞」として解説されるのはよくある話です。
しかし文法上は have は完全に「定形動詞 finite verb」として機能します。
実際に3点ほどみていきましょう。
① 普通の動詞と意味が大きく変わりません
- We have it.
- 私は もつ それを
- We have to do it.
- 私は もつ する方向を それを
② 主語(人称&単複)に合わせて変化します
- He has it.
- He has to do it.
③ 現在形 ⇔ 過去形 を切り替えられます
- He had it.
- He had to do it.
このように普通の動詞 have と全く同じように機能しています。
ところが have to が持つ機能は、先ほどの例のように現代英語の法助動詞にはありません。
つまり現代英語の法助動詞は「法を発動し動詞の原形を助ける動詞」と呼べない状況になんです。
現代英語の問題は「動詞の原形」の品詞
ではここから現代英語の法助動詞の文法解釈を分析していきます。
ここまで見てきたように、ずっと論点は1つだけで次のようになります。
『法助動詞を「定形動詞」として解釈できるのか?』
これを検証するには2点の確認する必要があります。
- 法助動詞が「他動詞」として名詞を目的語にとる
- 現代英語でも「動詞の原形」に名詞用法がある
もうすでに1点目の「現代英語の法助動詞は名詞を目的語にとれない」ことは確認しました。
そうなると確認すべきポイントは2点目に絞られれます。
つまり「動詞の原形が名詞で使用できるのか?」を検証できればOKです。
これを検証するのは超カンタンです!
名詞を使用するところに「動詞の原形」を入れてみればいいんです。
では英語の名詞の使用ルールを確認します。
- 主語
- 目的語
- 補語
- 前置詞とペア
名詞の使用ルールが確認出来たら、その次は「動詞の名詞用法」の確認です。
英語では動詞を名詞用法にできるパターンは2つあります。
- 不定詞 infinitive
- to do / to be
- 動名詞 gerund
- doing / being
英語の場合は「動名詞」が名詞用法の機能をより強く持っています。
ですので「動詞の原形」の名詞の機能を確かめたければ、動名詞と比べれば一目瞭然です!
では早速 be動詞を使ってみていきましょう。
- 主語
- ✖ Be here is dangerous.
- Being here is dangerous.
- 目的語
- ✖ I love be funny and cheerful.
- I love being funny and cheerful.
- 補語
- ✖ Our greatest strength is be patient.
- Our greatest strength is being patient.
- 前置詞とペア
- ✖ Thank you for be yourself.
- Thank you for being yourself.
まあ、ことごとく機能しませんね。
当然のことながら、現代英語では「動詞の原形」に名詞用法が存在しません。
そうなると古英語やドイツ語で通用している法助動詞の文法解釈はもう機能していないんです。
こうなったら現実を直視して、現代英語では「法助動詞と動詞の原形はワンセット」として運用します。
理由はカンタンで、もうその解釈しか残っていないからです。
つまり現代英語の「法助動詞 modal verb」はもはや助動詞に分類するには無理がある品詞です。
というわけで助動詞の英文法用語の定義をすこし整理します。
- 助動詞 be & have ⇒ 動詞
- 分詞を助ける定形動詞
- ロマンス語のフランス語の助動詞といえばこの2つ(être & avoir)
- ゲルマン語のドイツ語でも助動詞といえばこの2つ(sein & haben)
- 古英語の法助動詞 ⇒ 動詞
- 「法 Mood」を発動し、名詞用法だった不定詞を助ける定形動詞
- 現代ドイツ語の法助動詞もこれに近い使い方
- 現代英語の法助動詞 ⇒ 法を発動することが中心の品詞
- 古英語からの名残で動詞の原形につながる
- 正確にはもう「助ける動詞」ではない品詞
こういうカラクリであれば「法助動詞=動詞を助ける品詞(結果的に可能な解釈)」となるのも理解できます。
しかしこれは「あくまで現代英語の法助動詞の場合だけ」という事実は忘れないでくださいね!
英語の第一助動詞 be と have やほかの言語では「助ける動詞」という視点がないと、文法が崩壊します。
助動詞と「時制・法・相・態」
では最後に英語圏の助動詞の解説をみてみましょう。
私の解説が根拠のない妄言にすぎないとなれば、みなさんにご迷惑をかけてしまいますから。
でもご心配なく!英語の英文法解説はちゃんとしていますよ!
英語の Wikipedia をみると明確に「助動詞は動詞である」と書いてあります。
An auxiliary verb is a verb that adds functional or grammatical meaning to the clause in which it occurs, so as to express tense, aspect, modality, voice, emphasis, etc. Auxiliary verbs usually accompany an infinitive verb or a participle, which respectively provide the main semantic content of the clause.
『助動詞は、時制・相・法・態そして強調といった(動作・行動の意味よりもむしろ)機能的または文法的な意味を文の中に追加できる動詞です。助動詞は通常、動詞の不定形(英語の場合は動詞の原形)または分詞(英語の場合は現在分詞と過去分詞)を伴います。その場合には、助動詞ではなく「動詞の不定形(動詞の原形)」や「分詞」のほうが主語の行動を意味する役割を担います。』
Auxiliary verb – Wikipedia
*()内は補足です。
当然ですが「動詞を助ける品詞」なんてどこにも書いてありません。
なぜなら助動詞は「動詞の原形もしくは分詞を助ける動詞」だからです。
そして、この英語 Wikipedia の記述は「第一助動詞」と「法助動詞」の両方に通用する解説です。
もちろんこのブログで見てきた2種類の助動詞の解釈とも整合していますよね?
つまり英語の情報だと「助動詞」は動詞の機能として理解することが前提になっています。
英語は動詞の機能さえ完全に見切れば、助動詞も分詞もマスターできるんです。
次のブログでは英語の動詞の機能である「時制・法・相・態」を詳しく解説しています。
助動詞の次は「英語の動詞の機能」をマスターしていきましょう!
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