be 過去分詞も現在完了になる?have 過去分詞の成り立ちに迫る!

i-am-become-death-the-destroyer-of-worlds 英語の仕組み

英語を学ぶと「過去分詞 past participle」には2つの異なった使い方があると気付きます。

  • 完了形といえば… “have + 過去分詞”
  • 受動態といえば… “be + 過去分詞”

まずは「現在完了 present perfect」の文を並べてみましょう:

  • I have eaten lunch.
    • 私は昼食を食べた
  • She has finished her homework.
    • 彼女は宿題を終えた

そして、こちらが「受動態 passive voice」です:

  • The door is closed.
    • そのドアは閉められた。
  • The book was written in 1900.
    • その本は1900年に書かれた。

……これだけでよかったはずが、我々の常識を揺さぶる一つの文が存在します。

Now I am become Death, the destroyer of worlds.

『今や我は死神となりぬ、世界の破壊者なり。』

J. Robert Oppenheimer – Wikipedia

この有名な一文は、アメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマー博士が原爆実験成功(1945年)の直後に引用したもので、原典は『バガヴァッド・ギーター(古代インドの叙事詩)』の18世紀の英訳に由来します。

この文を見たとき、なんともいえない違和感は生まれませんか?

be + 過去分詞なのに受身(passive)やないの?

意味はどう見たって完了(perfect)ちゃうの?

完了やったら I have become Death にせなあかんやん!

ご指摘はごもっとも!

実はこの文こそ、かつて英語が誇っていたもう一つの完了表現 “be perfect” と呼ばれるものなのです。

なんと、かつての英語には “have” だけでなく、“be” を用いた完了形が存在していたのです。

しかもそれは、単なる古(いにしえ)の例外ではありません。

世界を見渡せば、“be” と “have” を使い分けて完了を表す言語は意外と多いんです。

ドイツ語、オランダ語、フランス語、イタリア語そして――もちろん初期近代英語(Early Modern English)とよばれるかつての英語もその仲間でした。

では、英語の “be perfect” はどのように生まれ、そしていかにして “have perfect” に呑み込まれていったのか

このナゾを探るために「言語の歴史」という壮大な旅へ出かけましょう!

過去分詞は形容詞から進化した

現代英語の過去分詞は be や have との連携がどうしても印象に残ります。

ですが古英語から現代英語に至るまでに、過去分詞は大きな変化を経験しています。

古英語(Old English)まで歴史を遡り、その正体を突き詰めてみると「ただの形容詞」だったんです。

つまり名詞につながり「〜された状態」を追加するのが過去分詞の本質です。

  • a broken heart(壊れた心)
  • the chosen path(選ばれた道)

このように過去分詞は「名詞につながる形容詞」としての役割が中心だったんです。

ここですこし古英語形容詞の特性に触れておこうと思います。

それは現代英語とは異なり「形容詞は名詞と同じ変化する」ということです。

これをカンタンにいうと・・・

  • 名詞が単数形 ⇒ 形容詞も単数形
  • 名詞が複数形 ⇒ 形容詞も複数形

それは英語の「adjective 形容詞」の語源となったラテン語の nomen adjectivum(追加的な名詞)という用語からも推測できます。

もう現代英語からは消えてしまった形容詞の特徴は、フランス語をみるととてもよくわかります。

ここでは形容詞の「複数形の -s」をフランス語で確認しましょう。

まずは単数形(singular)です:

  • Le livre est important.
  • The book is important.

次に複数形(plural)をみてみます:

  • Les livres sont importants.
  • The books are important.

フランス語では形容詞と名詞の変化が一致しています。

これと同じことが完全に形容詞として使う過去分詞にも起こります。

まずは単数形(singular)です:

  • Je suis satisfait.
  • I am satisfied.

次に複数形(plural)をみてみます:

  • Nous sommes satisfaits.
  • We are satisfied.

このようなフランス語の過去分詞がもつ形容詞の性質は古英語と非常によく似ています。

そしてもうひとつ重要な点があります。

過去分詞はそもそもが「形容詞」なので時制などを表現できません。

つまり、英語の文を作るうえで、時制などに合わせてまる動詞──behave のサポートが必要になります。

  • The door is opened.
  • The door was opened.
  • I have opened the door.
  • I had opened the door.

このような動詞は「定形動詞 finite verb」と呼ばれ、英語やフランス語などヨーロッパ言語の文法の中心核となります。

*日本の英文法では影の薄い「定形動詞 finite verb」については、こちらの記事でも詳しく解説しています:

そしてこの動詞 be や have が過去分詞と連携して「完了」や「受動」の文をつくると、特別に「助動詞」と呼ばれます。

つまり「過去分詞をける動詞」ということで「助動詞 auxiliary verb」となります。

ここで次のポイントを押さえておいて下さい:

・過去分詞の基本的な役割は形容詞なので、名詞につなげて使用する

・古英語やフランス語などでは名詞形容詞変化は一致する

過去分詞(品詞は形容詞)けるための動詞 havebe が必要になる

これが助動詞 be や have と過去分詞の連携システムを理解するための布石となります。

過去分詞の真価:完了と受動の同時発動

過去分詞には「完了 perfect」と「受動 passive」という2つの機能が備わっています。

そしてこの2つは大きく性質が異なるため、同時に発動することが可能です。

では実際に文を見てみましょう。

  • The letter is written.

一見すると受動態に見えますが、なんと文脈次第で「書かれた状態(完了)」にもなるんです。

つまり和訳に2パターンの可能性が生まれます:

  1. その手紙は書かれる受動にスポットがあたる!
  2. その手紙は書かれた完了にスポットがあたる!

be + 過去分詞なのに「完了」になるってホンマなん?

はい、その通りです! だからこそ “I am become Death” のような形も作れるんです!

次の2つの文を比較すると、意味の違いがより明確に見えてきます。

  1. The letter is written by her.
    • 行為者 “by her” により明確に「受動の意味」が示される
  2. The letter is already written.
    • 副詞 already によって「完了状態」が強調される

この「written」は、“書く”という動作が関わる中で、2つの異なる機能を文脈によって発動させることができるのです。

この2種類の受動態を区別する文法用語がちゃんと存在しています。

特にドイツ語などでは基本の文法知識になるので確認しておきます。

  1. 動作受動(dynamic passive)
    • 行われる動作が意味の中心
  2. 状態受動(stative passive)
    • 完了された状態が意味の中心

現代英語ではわかりにくいこの仕組みですが、ちゃんと古英語から形を変えて今も受け継がれているんです。

完了と受動、その力は他動詞にあり

英語の動詞は「目的語をとる能力」を基準に「自動詞」と「他動詞」に分類することができます。

この「動詞が目的語をとる能力」による分類は、過去分詞の理解において極めて重要です。

なぜなら、受動態は「他動詞の過去分詞」にしかつくれない構造だからです。

では、自動詞と他動詞の違いを具体的に見ていきましょう。

  • 自動詞(intransitive verb)
    • 動作がそれだけで完結し、目的語を取らない動詞
    • He arrives.(彼は到着する)
  • 他動詞(transitive verb)
    • 動作の対象となる目的語を必要とする動詞
    • She visits the city.(彼女はその街を訪れる)

ここで注意なのが bebecome などの名詞をつなげる動詞です。

これらは動作を目的語に向けるのではなく、主語の性質や状態を示す「補語 complement」を伴うため「自動詞」に分類されます。

  • She is a teacher.(彼女は先生です)
    • 名詞 a teacher は 補語 C
  • He became a scientist.(彼は科学者になった)
    • 名詞 a scientist は 補語 C

これらの文は「状態」や「変化の結果」を表すものであり、名詞が動詞の目的語としては解釈されないという点が自動詞とされる大きな理由です

また英語には、同じ動詞でも自動詞・他動詞の両方として使えるケースも多くあります:

  1. The door opened.【自動詞】
    • ドアが開いた
  2. I opened the door.【他動詞】
    • 私はドアを開けた。

このように、すべての動詞が明確にどちらかに分類されるわけではない点に注意が必要です。

さて英語の文は「能動態 active voice」が基本で、語順は通常「SV~(主語+行動)」から始まります。

そして「受動態 passive voice」とは「目的語主語に変換する」というカラクリです。

ということは目的語が存在することで「受動態」をつくる条件が成立します

つまりこういうことです:

自動詞の過去分詞では受動態をつくれない

他動詞の過去分詞には受動態をつくれる

この前提をふまえて、以下の2つの文を比べてみましょう:

  1. He is already gone.(彼はもう行ってしまった)
    • gone は自動詞 go の過去分詞
    • 「完了状態)」の意味だけ
  2. The door is already opened.(そのドアはもう開けられている)
    • opened は他動詞 open の過去分詞
    • 「受動」と「完了状態)」の2つの意味

つまり過去分詞の「完了受動」の二重性は、他動詞だけがもつ特権的機能なのです。

ここで、自然と次の疑問が生まれます:

それなら完了も受動も「be過去分詞」でええやん? 

それやのに be動詞が消えてなんで He has gone.” になってんの?

実はこのナゾこそが、英語における完了表現の進化の分岐点になります。

ここで再び、冒頭のあの一文がよみがえります──

Now I am become Death, the destroyer of worlds.
(今や我は死神となりぬ、世界の破壊者なり。)

この文に使われている become は目的語をとらないので「自動詞」です。

そして「SVC(主語+動詞+補語)」の文型をつくります。

となると、これは受動態ではなく、be + 過去分詞 によって「完了」を表しているのです。

そしてなにより重要なのは:

文構造だけみれば “I am become” は実に正確である

──ということです。少なくとも、かつて在りし日の英語では。

では、なぜ現在では I have become のように have が使われるのでしょうか?

次に「have 過去分詞」の完了表現が生まれた背景に迫っていきましょう。

完了表現 have perfect の成り立ち

現代英語における完了表現は “have + 過去分詞” で学ぶのが一般的です。

しかし初期近代英語(Early Modern English)のころには “be + 過去分詞” というもうひとつの完了表現が当たり前のように存在していました。

ここで2種類の完了表現が使われていた理由として、まず押さえておきたいことがあります”

  • have perfect他動詞の過去分詞だからこそ成立した。
  • be perfect自動詞の過去分詞のための構造だった。

この使い分けの理由は英語 Wikipedia にも次のように説明されています:

The have-perfect developed from a construction where the verb meaning have denoted possession, and the past participle was an adjective modifying the object, as in I have the work done.

This came to be reanalyzed, with the object becoming the object of the main verb, and the participle becoming a dependent of the have verb, as in I have done the work.

The construction could then be generalized to be used also with intransitive verbs.

have を使った完了表現(have-perfect)は、もともと have という動詞が所有を意味し、過去分詞その目的語を修飾する形容詞として使われる構文から発展したものです。例を挙げると I have the work done.(私は完了した仕事を持っている)となります。

この構文はやがて別の文法解釈をされるようになり(もともと動詞 have の)目的語だったものが(主語の行動の中心的な意味を持つ動詞としての)過去分詞の目的語になり、過去分詞も have に従う(=動詞句の一部となる)ものと理解されるようになりました。たとえば I have done the work のようにです。

そうして再解釈されたことで、自動詞にも用いられ、一般化されていくこととなった。

Perfect (grammar) – Wikipedia

説明はややこしいのですが、やっていること自体はカンタンです。

Wikipedia によると、次の文が完了表現(have 過去分詞)の原型ということです。

  • I have the work done.
  • 私は完了した仕事を持っている
    • 現代英語では使役文(~してもらう)

では、この構造をムリヤリですが現代英語に合わせるとこうなります。

  • I have the “done” work.
  • 私は完了された仕事を持っている

※このような語順(”the done work”)は現代英語ではあまり一般的ではありませんが、文構造の解説のため、あえてこの形で示しています。

このように所有の動詞 have は「完了された状態の目的語を持っている」という構造を作ります。

これは他動詞の過去分詞が「完了+受動の形容詞」として目的語(名詞)にかかるからこそ成立する文なんです。

この構造が再解釈されることで、語順が変化し、次のような完了表現へとつながっていきます:

  • I have done the work.
  • みなさんおなじみの現在完了です!

こうなると過去分詞の役割も大きく変わります!

  • 名詞を修飾する受動的な形容詞
  • ⇒ 動作を意味する動詞句の一部能動的な意味をもつ)

つまり have + 過去分詞 になることで、本来の「受動」からなんと「能動」の完了動作の一部として再解釈されたのです。

ちょうどこの変化をまとめてみます。

昔の英語語順ルールはゆるかった?

実はこの構造の変化は、現代英語でよく見られる “have to do“(〜しなければならない)という表現とも深く関係しています。

実は元々の “have to do” の形はこの構造です:

  • I have homework to do.
  • 私はやるべき宿題持っている

この文では不定詞 “to do名詞 homework を形容詞のように修飾しています。

ここから語順の変更がありまして・・・

  • I have to do homework.
  • 私は宿題をしなければならない
    • ~する方向性持つ = 義務を持つ

・・・という構造が生まれました。

さきほどの完了の文と並べてみます。

  • I have the work done.
    • 完了された目的語を持つ
  • I have homework to do.
    • する方向性の目的語を持つ

そこから動詞 have と直接連携するように変化しています。

  • I have done the work.
  • I have to do homework.

もしかするとここでこんな疑問が湧いてくるかもしれません:

英語の語順ルールってそんなゆるくてよかったん?

英語は語順がきっちりしてるとおもってたんやけど。

もちろん、その通りです! でもそれは現代英語の話なんです。

しかし実は、古英語(Old English)は語順の自由度が非常に高く、状況によって様々な語順パターンがありました。

現代英語の基本になる SVO 語順は、すこしずつ固定化していったという歴史があります。

そんななかで現代ドイツ語では、古いゲルマン語的な語順が今なお残っており、昔の英語と比較するのに非常に役立ちます。

なんとドイツ語も所有の動詞 haben (≒ have) から過去分詞zu 不定詞(≒ to 不定詞)の2つがつながります。

ではドイツ語の動詞 lernen(英語 learn:~を学ぶ)を変化させてみていきます。

  • Ich habe die Grammatik gelernt.
    • I have learned the grammar.
    • 私は文法を学んだ。
  • Ich habe die Grammatik zu lernen.
    • I have the grammar to learn.
    • 私には学ぶべき文法がある。

これらを構造が分かりやすいように比較します。

昔の英語の「have 目的語 過去分詞」の語順です。

  • Ich habe die Grammatik gelernt.
  • I have the grammar learned.
    • 現代英語としては不自然ですが、構造比較を優先しています。

次に「have 目的語 to 不定詞」はまさに瓜二つの構造です。

  • Ich habe die Grammatik zu lernen.
  • I have the grammar to learn.

昔の英語と同様に、ドイツ語では gelernt(過去分詞)zu lernen(to 不定詞)が、文末に位置するという点に注目です。

一方、英語では語順が変わってしまい、この2つが動詞 have と連動する解釈に切り替わっていきました。

  • have + 過去分詞(完了)
  • have + to 不定詞(義務)

ここでのポイントは、この2つの文は「他動詞 have が目的語をとる」という前提から生まれたことです。

ある意味、昔の英語にあった語順の柔軟性によって「英語の構造」が変化したといえるでしょう。

そうなれば言語の変化に合わせて、それを解釈する文法も変化する必要があるんです。

完了表現 be perfect の移り変わり

ではここから「be + 自動詞の過去分詞(be perfect)」を見ていきましょう

この完了表現 be perfect は文法的には「かなりの正統派」だったんです。

なぜなら過去分詞はもともとただの形容詞だったからです。

そのため主語の状態を意味する場合は be 動詞と組み合わせれば十分に完了を表現できたのです。

つまり SVC 文型で考えれば、すべて解決だったんです。

たとえば:

  • He is nice.(彼は優しい)
  • He is coming.(彼は来ている)
  • He is gone.(彼は行ってしまった)

どれも SVC の「補語 C」に形容詞をつかうことで生まれる文です。

これら自動詞 come や go には「目的語」が存在しません。

たとえば:

  • He comes here.(彼はここに来る)
  • She went there.(彼女はそこに行った)

これらの動詞に対しては「~を来る」「〜を行く」という目的語が存在しないので、そもそも「受動態」が成り立たないんです

したがって、自動詞の過去分詞は受身の文にならず、もっぱら完了や状態を表す形容詞のように用いられました。

これは完了表現 be perfect が「主語の完了状態」の文として自然だったことの裏付けになります。

これををまとめると:

  • be + 自動詞の過去分詞
    • 主語の完了状態
  • have + 他動詞の過去分詞
    • 目的語の完了状態

このような be/have perfect の2つの完了表現の使い分けが成立していました。

初期近代英語まで存在した be perfect

実際、初期近代英語では「be + 自動詞の過去分詞」の完了用法が数多く見られます。

英語 Wikipedia に例がいくつかあるので引用してみます。

  • Madam, the Lady Valeria is come to visit you. (The Tragedy of Coriolanus, Shakespeare)
  • Vext the dim sea: I am become a name… (Ulysses, Tennyson)
  • am become Time, destroyer of worlds. (Bhagavad Gita)
  • Pillars are fallen at thy feet… (Marius amid the Ruins of CarthageLydia Maria Child)
  • am come in sorrow. (Lord Jim, Conrad)
  • am come in my Father’s name, and ye receive me not (John 5:43, The Bible)
Present perfect – Wikipedia

このように come, become, fall など自動詞があるのがわかります。

そして同時にちょうど、このころは have への切り替わりが進んだ時期でもあります。

つまり自動詞の過去分詞に be と have の使い分けが存在したんです。

Early Modern English used both to have and to be as perfect auxiliaries. The usage differs in that to have expressed emphasis in the process of the action that was completed, whereas to be put the emphasis in the final state after the action is completed.

初期近代英語では、完了表現の助動詞として ”have””be” の両方が使われていました
使い分けには違いがあり、have完了された動作の過程に重点を置き、
一方 beその動作の結果としての状態に重点を置いていました。』

Present perfect – Wikipedia

英語 Wikipedia をまとめると:

  • to have:完了動作のプロセスに焦点
  • to be:その結果としての状態に焦点

このように、be perfect と have perfect は単なる構造の違いではなく、意味を切り替える機能も持っていたのです。

もちろん現代英語から be perfect が完全に消えたわけではありません。

その代わりに自動詞の過去分詞は「完了した結果の形容詞」という解釈になっています。

  • The bridge is fallen.
    • その橋はもう崩れ落ちてしまっている。
    • ⇒ もう崩れ落ちた結果の状態
  • He is gone.
    • 彼は行ってしまった。
    • ⇒ もはやここにはいないという完了状態

つまり be perfect は現代英語から完全に消滅したわけではなく「完了結果の状態」という意味に特化して生き残っているのです。

なぜ英語は have だけを選んだ?

現代英語では完了表現において have + 過去分詞(have perfect) が唯一の形式として定着しています。

では、なぜ be perfect は姿を消し、have perfect に統一されたのでしょうか?

その理由には、大きく二つの流れがあったと考えられます。

理由①:受動態との混同を避けるため

be + 過去分詞 は、同じ形で 受動態 を表す構文にも使われます。

そのため完了の意味との混同が起きやすくなりました。

  • The door is opened.
    1. 「ドアが開けられる」のか?
    2. 「ドアが開いている」のか?

これだけでは判断がつきません。

理由②:文法をより単純にするため

英語には、自動詞は be、他動詞は have を使うというルールがありました。

ですが、それを維持するのが次第に難しくなってきました。

なぜなら──

英語って、自動詞でも他動詞でも使える動詞が多すぎる!

実際、フランス語やドイツ語などと比べると、英語は「同じ動詞自動詞にも他動詞にもなりやすい言語」です。

実際の例文で比較してみます:

  1. The door opens.(自動詞)
  2. She opens the door.(他動詞)
    • The door is opened.
    • → 自動?他動?判断不能!

こんな例文もできます:

  1. The door broke.(自動詞)
  2. He broke the door.(他動詞)
    • The door was broken.
    • → 誰が壊したのか?自然に壊れた?曖昧!

これらの文は「完了の状態」なのか「受身の動作」はもう文単体では判断できないんです。

つまりこの文がどう使われている文脈次第(contextual)と言わざるを得ません。

そこで英語が選んだのは……

完了は「全部 have にしといたらええやん!」という表現の一本化です!

このシンプルな解決こそが、現代英語における have-perfect 標準化の正体です。

ここまでの流れをまとめます:

① 英語って自動詞でも他動詞でも使えるやつ増えてきたな~。

② やばい!完了で be と have でどっち使うか分からんくなってきた!

③ それやったら have 過去分詞だけつかったらエエやん!

このような経緯で、完了表現は have perfect へとまとまったと考えられています。

この変化の過程を、聖書の表現がよく伝えています。

He is not here; for He is risen, as He said. Come, see the place where the Lord lay. 

『もう(He = イエスは)ここにはおられない。かねて言いわれたとおりに、よみがえられたのである。さあ、イエス(the Lord)が納おさめられていた場所をごらんなさい。』

マタイの福音書28章6節(Matthew 28:6 NKJV)

ここで使われている is risen は、まさに be + 過去分詞(自動詞) という
古典的な be-perfect 構文です。

同じ内容でも、現代訳(NIV)ではこのように言い換えられています:

“He is not here; he has risen, just as he said. Come and see the place where he lay.”

マタイの福音書28章6節(Matthew 28:6 NIV)

ここで “is risen” が “has risen” へと置き換わっていることがわかります。

この変化が、まさに be-perfect の終焉have-perfect の台頭を象徴しているのです。

こうして英語では be perfect が歴史の表舞台から姿を消しました。

ですが、かつてそこには明確な意味の使い分けが存在していました。

  • be + 自動詞の過去分詞
    • 主語の完了状態
  • have + 他動詞の過去分詞
    • 目的語の完了状態

この過去分詞の対象を明確に区別する仕組みこそ、かつて栄華を誇った正統派の英文法の美しさでした。

そしてこの精神は、今もなお──フランス語の中に生きているんです。

英語の “perfect” の継承者はフランス語?

英語の be/have perfect の解説そのものは終幕を迎えました。

ですが英語の perfect(完了)の理解を perfect(完全)にしてフィナーレを迎えるための最後のピースが残っています。

  • be + 自動詞の過去分詞
    • 主語の完了状態
  • have + 他動詞の過去分詞
    • 目的語の完了状態

これについて、みなさんの疑問の声にお応えせねばなりません:

ホンマに完了の過去分詞は主語や目的語とつながってんの?

この謎解きのステップは次の通りです。

  1. 形容詞名詞にあわせて変化する
  2. 過去分詞が名詞にあわせて形容詞として変化する
  3. 自動詞の過去分詞は主語に合わせて変化する
  4. 他動詞の過去分詞は目的語に合わせて変化する

ここまでやれば完璧ですね!

──ではフランス語の力を借りて perfect のナゾを perfect に解決してみましょう。

フランス語の形容詞と名詞

フランス語では、すべての名詞が2つの基準で分類されます。

  • 名詞の(gender)
    1. 男性(masculin)
    2. 女性(féminin)
  • 名詞の(number)
    1. 単数(singulier)
    2. 複数(pluriel)

そのため「2つの」 と「2つの」で合計4パターンの変化形があります。

注意点ですが、フランス語の名詞の「性 gender」はジャンルつまり分類という意味です。

名詞の分類なので、人間の男女を超えてすべての名詞に適用されます。

  1. 男性名詞 le livre(the book)
    • 男性の定冠詞 le(英語の the)
  2. 女性名詞 la question (the quesiton)
    • 女性の定冠詞 la(英語の the)

そして複数形の定冠詞はどちらも les になります。

  • 男性名詞 les livres (the books)
  • 女性名詞 les questions (the questions)

そして形容詞も修飾する名詞に合わせて語尾が変化します。

名詞の性・数名詞の語尾例(important)
男性単数important
女性単数-eimportante
男性複数-simportants
女性複数-esimportantes

形容詞が名詞の変化と一致するのをフランス語と英語で確認しましょう。

  1. 男性単数語尾変化なし
    • Le livre est important.
    • The book is important.
  2. 女性単数-e が付く
    • La question est importante.
    • The question is important.
  3. 男性複数-s が付く
    • Les livres sont importants.
    • The books are important.
  4. 女性複数-es が付く
    • Les questions sont importantes.
    • The questions are important.

フランス語では、形容詞が名詞のに応じて語尾変化を起こします。

これは後に登場するフランス語の過去分詞の一致にも共通する性質です。。

では実際にフランス語の「完了構文」にあたる構造──複合過去(passé composé)に進みましょう。

フランス語の複合過去(passé composé)

フランス語における「複合過去(passé composé)」とは、大まかに言うと「現在完了の意味を含んだ過去時制」と言えるものです。

そのため英語の「現在完了」と「過去時制」の中間に位置するイメージが良いかと思います。

初期近代英語の現在完了と同じく、2種類の助動詞(avoir / être)と過去分詞の連携になります。

具体的には次のように対応します:

  1. be + 自動詞の過去分詞
    • être + 自動詞の過去分詞
    • 過去分詞は主語と一致する
  2. have + 他動詞の過去分詞
    • avoir + 他動詞の過去分詞
    • 過去分詞は目的語が前に置かれたときに一致する

つまり、英語の「主語の完了(be perfect)」と「目的語の完了(have perfet)」の違いが、フランス語では過去分詞の変化から明らかになるんです。

【ご注意】
フランス語の複合過去は、英語の完了形とまったく同じものではありません。助動詞の選択などフランス語固有の特徴が存在します。本記事では構文の比較が目的なので、細かな相違点の多くをあえて省略しています。

詳しくは英語版 Wikipedia「passé composé」をぜひご参照ください。生成AI(ChatGPTがおススメ!)に翻訳を手伝ってもらえば、魔法の扉がきっと開きます!

Passé composé - Wikipedia

では実際に例文を見ていきましょう。

まずは be perfect に相当する「être + 過去分詞」 を使った文です。

英語では以下のような文でも、動詞の形(過去分詞)は一切変化しません:

  1. The boy is arrived.
  2. The girl is arrived.
  3. The boys are arrived.
  4. The girls are arrived.

(※このパターンでは現代英語では古風で、通常は “has arrived” を使います)

一方、フランス語では、arriver(英語 arrive)のような être(英語 be)を取る自動詞を使うと、 主語の性・数に応じて過去分詞が変化します!

  1. Le garçon est arrivé.
    • The boy is arrived.
  2. La fille est arrivée.
    • The girl is arrived.
  3. Les garçons sont arrivés.
    • The boys are arrived.
  4. Les filles sont arrivées.
    • The girls are arrived.

このように過去分詞は形容詞なので、主語性・数と変化が一致します!

では次に have perfect に相当する「avoir+ 過去分詞」 を使った文です。

フランス語の他動詞 visiter(英語 visite)の過去分詞 invité を普通に使ってみます。

  • Tu as invité le garçon.
    • You have invited the boy.
  • Tu as invité la fille.
    • You have invited the girl.
  • Tu as invité les garçons.
    • You have invited the boys.
  • Tu as invité les filles.
    • You have invited the girls.

このように、目的語が動詞の後ろにある場合、 過去分詞 invité に性・数の一致は起きません

ですがここからが真の最終章です!

フランス語では、関係代名詞 que(英語の関係代名詞 that などに相当)が入ると大きな変化が起きます。

関係代名詞を使うことで目的語が「avoir + 他動詞の過去分詞」のに出てくると・・・

なんと過去分詞の形に、性と数の一致が発生するのです!

  1. Je connais le garçon que tu as invité.
    • I know the boy (that) you have invited.
  2. Je connais la fille que tu as invitée.
    • I know the girl (that) you have invited.
  3. Je connais les garçons que tu as invités.
    • I know the boys (that) you have invited.
  4. Je connais les filles que tu as invitées.
    • I know the girls (that) you have invited.

このパターンでは、目的語関係代名詞 que によって過去分詞の前に出ています。

そのため過去分詞 invité性・数 に応じて invité / invitée / invités / invitées と変化します!

なんとフランス語だと「目的語」と「過去分詞」と連携する構造が一部に残っているんです!

最後にもうひとつ、be perfect を継承する文として忘れてはいけない文があります。

  • I am become Death.
  • 今や我は死神となりぬ、世界の破壊者なり。

この “become” も主語と連携する過去分詞であることがフランス語で確認できます.

なぜならフランス語の動詞 devenir(英語 become) は自動詞なので、動詞 être(英語 be)と連携します。

つまり、その過去分詞は be perfect の構造として成立し、それゆえに主語との性、数の一致が起こるのです。

フランス語だと “I am become Death.” は主語の性に合わせて2パターンになります。

  1. Je suis devenu la Mort.
    • オッペンハイマー博士は男性なのでこちらの訳になります。
  2. Je suis devenue la Mort.
    • もし主語が女性であれば:過去分詞は女性形 “-e

英語ではすでに have become が標準とされていますが、”be become (être devenu)” は、フランス語の中に生き続けているのです。

現代英語では、文構造の簡略化によって be perfect は姿を消し、have perfect のみが生き残りました。

もしかすると英語の “perfect” の真の継承者は、文法構造としての“記憶”を保ち続けるフランス語なのかもしれませんね!

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