古い英語と英単語をゲームで学ぼう(ファイナファンタジータクティクス)

fft-title 英語をゲームで学ぼう

私のブログで何度も「英語の古語」について質問をいただいています。

私は英語塾の先生ですが、英文学の専門家ではありません。

英文学はちょっとだけ大学の時に授業でやりましたが話になりません。

  1. English Literature(イギリス文学)
  2. American Literature(アメリカ文学)

私がいたアメリカの大学だと、主にこの2つが基礎コースにありましたが、なんとしてでも、イギリス文学よりも時代が新しいアメリカ文学のクラスを埋まってしまう前に取ろうと必死でした。

ただでさえ英語で苦しんでいるのに「あるじなしとて春な忘れそ」とか「つはものどもが夢のあと」みたいな英語を読まされるかと思うと、血の気が引きます。

古い英語に対しては「三十六計逃げるに如かず」を信条にしていたものの、ひょんなことから古い英語に出会うことになります。

Doth thou ってなに?

留学時代にアメリカ人の友人がゲームをやっていたので、眺めているとこんなセリフがでてきました。

Doth thou desire the power?

この文の意味はお判りでしょうか?

これは Xenogears(ゼノギアス)というゲームにでてくるグラーフというキャラが問うセリフです。

Doth thou desire the power?

私は日本にいたときに、同じゲームをやっていました。

なのですぐに意味は分かりました。

うぬは、力が欲しくないか?

その呼びかけに答えた弱キャラの敵をグラーフは一気に強化します。

またグラーフ当人も圧倒的に強く、ゼノギアスをプレーした人なら印象に残っていることでしょう。

そこへ加えて英語版グラーフは、私にとって日本語版よりもさらに強く印象に残っています。

  • Doth thou ってなんやねん!?
  • もしかして英語に『うぬ』の代名詞ってあるんか!?

この doth thou の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。 

コーラポンディってなに?

その次はラストレムナント(Last Remnant)です。

このゲームにもまた古語が原因で苦しめられました。

中世ヨーロッパの世界観で、メインの登場人物たちにもブリティッシュアクセントで声があてられています。

主人公のパートナーと呼べる David は完全なエエとこの育ちっぽいイギリス発音です。

アメリカ発音に慣れている私にとって David のブリティッシュアクセントは、なんとも違和感があります。(世界的に見ると最強のモテ要素の一つでもあるんですが・・・)

Gae Bolg, I call upon thee!

「ゲイボルグ!アイコーラポンディ!」

これは Gae Bolg(ゲイボルグ)という武器を David が発動するときのセリフです。

Gae Blog I call upon thee
  • 戦闘中のセリフなので字幕はでません! 
  • はっきり発音する音でもありません!
  • 日常会話で出てくる単語でもありません!

最初はなんのことかわからず非常にストレスがたまりました。

カタカナだと「アイコーラポンディ」にしか聞こえません・・・。

YouTube

(この動画だと 2:57 から)

当時、ゲーム本編そっちのけで調べまくってやっとこさ目的格の you を古語で thee というところまで突き止めました。

もはや英語でゲームをやるにもある程度、古語の知識が必要だと痛感させれました。

さもないと中世ファンタジーなど到底、歯が立ちません!

学校で習う英語では瞬殺される

そんな感じでブリティッシュアクセントや古語に時折、苦しめられながらも、英語でゲームをやっておりました。

しかし、止めを刺すのようなゲームに出会います。 

それが「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争(Final Fantasy Tactics: The Wars of the Lions)」です。

このゲームは子供のころに日本語でやっていた、いまでも一番好きなゲームです。

そのリメイク版がでていたので、せっかくなので英語でやってみることにしました。 

もともと中世ヨーロッパの世界観ではあるのですが、実際にやってみると英語が読めないんです!

そこら中に聖書かと思うような文章ばかりでてきます。 

単語も文構造も、受験や資格試験でみるものとは次元が違います

では論より証拠!

実際に、どのようなものかといいますと・・・

単語も、倒置も、省略も、すべてキビシイ

ストーリーの冒頭からこんな文章がでてきます。 

“Ovelia: O Fatherabandon not Your wayward children of Ivalice, but deliver us from our sins, that we might know salvation.”

『オヴェリア「…我ら罪深きイヴァリースの子らが神々の御力により救われんことを。』

呼びかけ O Father

意味は「おお、父(なる主)よ」です。

日本語は「神々」ですが、欧米圏は一神教なので、こう言った表現のほうが自然に見えるのだと思います。

大文字 Your

英語では God は常に G を大文字にします。ここでは Father がそれに相当します。

だから「あなた」と呼びかける代名詞をつかっても、文の途中でも Your になります。

実際にはゲーム中に登場する信仰は一神教として扱われてはいませんが、英語圏ではキリスト教っぽい感じのほうが自然なのでしょう。

語順 abandon not 

これは do not abandon という意味です。

昔の英語は語順の制約がユルい傾向があります。

聖書とかもそうですが “Know you not? ” とか平気で出てきます。もちろん意味は “Don’t you know?” です。

疑問文や否定文などで使う助動詞 do / does / did は英語で do-support と呼ばれ、昔の英語には存在しませんでした。

助動詞 do を使わないのは、古い英語だけでなくフランス語やドイツ語も似たような仕組みです。

ゲーム中のスクリプトを見るに SVO の語順など無きが如くといって差し支えないでしょう。

動詞 deliver

ここでは「届ける」ではなく「救う」という意味です。

聖書ではよくみる表現なので、知っておくとよいと思います。

構文 SV , that we might know 

受験英語でもよく出る so that S may/might do の形で「~できますように」という文です。

この文は (so) が省略される形になっています。 Weblio英語辞書 でいうと「接続詞2の B」の箇所になります。

Final Fantasy Tactics で古語を学ぶ

オープニングだけですが、とんでもなく難しいと思います。

ゲームにはキリスト教は登場しませんが、Ovelia の祈りの表現が全体的に「主の祈り Lord’s Prayer」に似た形になっています。

主の祈りの文法解説も「代名詞 thou」の解説に載せています。

さて、それでは本格的に本文に入っていきます。

メインのストーリーをすべて読んで、気づいたところを抜き出しています。

オリジナル版とリメイク版では英語表記から会話文まで一新されています。

スクリプトは以下のサイトより、引用させていただいております。

Final Fantasy Tactics: The War of the Lions - Game Script - PSP - By MostSeriousness - GameFAQs
For Final Fantasy Tactics: The War of the Lions on the PSP, Game Script by MostSeriousness.

ちょこちょこスペルミスがありますが、すぐに把握可能なものばかりなので、大丈夫だと思います。

参考までに前半と後半のあわせて20時間ほどのプレイ動画を張り付けておきます。

YouTube
YouTube

実際にリストを作ってみると、解説する量がとんでもなく多いので、各章ごとに分けていきます。

 Prologue 

 ・この記事です。

【 Chapter 1 – The Meager / 持たざる者 

【 Chapter 2 – The Manipulative and the Subservient / 利用する者される者 

【 Chapter 3 – The Valiant / 偽らざる者 

 Chapter 4 – In the Name of Love / 愛にすべてを 

ここでお断りがあります。

私は英文学者でも古い英語の専門家でも何でもありません。

このブログの内容に関して、言語学的に見れば不適切なものもあるかと思います。

それゆえ、実際に知見のある方からの訂正・追記など、忌憚なくご意見給われれば幸いです。

古い英語表現のご紹介

不規則変化動詞 rend – rent – rent

“It was a bitter war of succession that rent the land of Ivalice in two.” 

『イヴァリースを二分して争われた後継者戦争は・・・』

「引き裂く、引きちぎる」という意味の動詞で活用は rend-rent-rent です。

ゲーム中では装備品が破壊されると「Rent」と表示されます。(日本語は「ブレイク」そして英語オリジナル版は「Broken」 )

装備が無くなったこともさりながら英語表記に最初、面食らってしまいました・・・。

副詞 hithertofore

“Here we first find mention of Delita Heiral, a hithertofore unknown young man, the hero who would draw the curtain of this dark act of our history.”

『・・・一人の無名の若者、ディリータという名の若き英雄の登場によって幕を閉じたとされている…』

副詞で「今までは、今までのところは」という意味です。

古語というわけではないようですが、あまり見ない表現だと思うので載せておきます。

敬称 Majesty & Highness

“Ovelia: I’ll not be much longer, Agrias.”
“Agrias: Your escort has already arrived, Majesty.”
“Elder: Please, heed the good lady’s words, Highness. You must hurry.”

『オヴェリアと呼ばれた娘「もう少し待って、アグリアス…。』
『アグリアスと呼ばれた女騎士「すでに護衛隊が到着しているのです。』
『神父「姫様、アグリアス殿を困らせてはなりませぬ。さ、お急ぎを…。』

古語ではありませんが、王侯貴族に対する敬称なので紹介します。

  • Majesty: King と Queen に対する敬称
  • Highness: Prince と Princess に対する敬称

つまり、王女オヴェリアに対するアグリアスの呼びかけの Majesty は間違っているようです。

敬称 ser

“Agrias: Gaffgarion, you forget yourself, ser!”

『騎士アグリアス「なんだと、無礼な口を!』

これは古語ではありません。

なんと Oxford Dictionary にすら載っていません

ですが、そこはさすが Wiktionary には載っていました。

“(in some fantasy novels) An address or courtesy title to any person, especially if their gender and/or form of address are unknown.”

Wiktionary

ファンタジー小説などはいろんな生物とか種族とかが登場するので、なんと呼べばよいか不明な場合に使うもののようです。

つまり性別を気にせず sir や madam (ma’am) ように使える敬称ということです。

便利な単語があるもんですね!そのうち正式な英語になるやもしれません。

フランス語やドイツ語などと違って、現代英語は男性名詞と女性名詞の区別をしなくても運用できます。

つまり現代英語は比較的ジェンダーを気にしなくても使える言語なので、世界共通語に向いていると言えるかもしれません。

副詞 mayhap

“Gaffgarion: Mayhap bowed heads would less offend.”

『ガフガリオンと呼ばれた剣士「これでいいかい、アグリアスさんよ。』

これは perhaps や maybe のように使います。

この文だと「まあ、おそらく・・・頭を下げとったら少しは無礼さがマシになりますかいな」という感じです。

名詞 knave

“Agrias: I see even the noble Order of the Northern Sky cannot rid itself of vulgar knaves.”

『騎士アグリアス「誇り高き北天騎士団にも貴公のように無礼ながいるのだな。』

古語で「不良、ならず者」という意味です。

ちなみに、この vulgar は「無礼な」という訳ですが、言語学用語だと「(一般民衆・平民による)口語表現」という意味で使います。

例としては「vulgar Latin(俗ラテン語、口語ラテン語)」などがあります。 文書で残っている言葉とは別の会話表現という意味です。

不規則変化動詞 seethe – sodden – sodden / ought not

“Gaffgarion: A guard captain in these rain-sodden hinterlands ought not expect chivalry.”

『剣士ガフガリオン「辺境の護衛隊長殿には十分すぎるほど紳士的なつもりだがね…。』

これは「煮え立つ、渦巻く」という意味の動詞 seethe の過去分詞で古い活用形です。

  • seethe – sodden – sodden 
  • seethe – seethed -seethed(現代英語)

ゲーム中では雨が降っているので「雨でびしょびしょになった辺境の地」という意味です。

ちなみに ought ですが ought to になっていません。

調べた結果、疑問文や否定文では ought だけで使う用法があるようです(古い用法かは不明・・・)

ただゲーム内のスクリプトは「ought + 動詞の原形」になったものが過半数です。書き間違いではないのでご心配なく。

助動詞相当句 ought も元は動詞 owe の古い活用です。

  • owe – ought – ought
  • owe – owed – owed(現代英語)

英語の「助動詞」と呼ばれるものは「不定詞や分詞を助ける動詞」という意味です。

もともと昔の英語では will や can も「完全なる動詞」として機能していました。

省略表現 ‘Tis

“Dilita: Forgive me. ‘Tis your birth and faith that wrong you, not I.”

『ディリータ「悪いな…。恨むなら自分か神様にしてくれ。』

“it is” の短縮形文語表現です。

全体としては「不当に扱う」を意味する動詞 wrong を使って強調構文になっています。

Not I になっているのも  I wrong you を強調構文にした場合、It is not I that wrong you. となるからです。 

続きは第1章へ

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