主格 目的格 所有格ってなに?現代英語と古英語の「格 (case)」の変化をたどる!

subjective & objective vs nominative & oblique 照応曼荼羅英文法

英語の「」の解説が、いまいちわからないと思ったことありませんか?

まず英語の代名詞で3つの「(case)」を習います。

  1. 主格(subjective case)
  2. 目的格(objective case)
  3. 所有格(possessive case)

この「(case)」 は文法用語で「名詞の形が変わる仕組み」のことです👇

  1. 主格(~は、~が)
    主語で使う形
  2. 目的格(~を、~に)
    目的語で使う形
  3. 所有格(~の)
    所有する名詞にくっつけて使う形

――と、ここまではよくある解説です!

ところが、そもそも格が分かりにくい理由はこうなります👇

😱今の英語の「格」って、昔の英語とぜんぜん違うやん!?

つまり英語を見ても「格」の基本すらよくわからない段階になっているんです。

――というわけで、

この記事では、英語の「格」の正体を歴史をめぐりながら一緒に探っていきます!

🎭現代英語と古英語の格は違う?

まずは「格」という用語の意味を確認します:

💡(case)とは――名詞が文中の役割に合わせて変化する形

この「格」の変化は現代英語では代名詞だけに起こります:

  1. 人称代名詞(personal pronoun)
    (例)I, me, my …
  2. 疑問代名詞(interrogative pronoun)
    (例)who, whom, whose

ところが「格」は昔の英語も含めて多くの言語ではすべての名詞に当てはまるシステムです。

つまり、もともと英語も「名詞が大きく変化する言語」だったんです。

ここで、サクッと英語の歴史を確認しましょう👇

ここまでをまとめると――

💡古英語(Old English)では、すべての名詞の格が変化していた!

――というわけなんです!

そこから英語は歴史の流れの中で、名詞の変化がシンプルになっていきます。

その結果として、次の3つの代名詞の「格」が生まれます:

  1. subjective case(主格)
  2. objective case(目的格)
  3. possessive case(所有格)

ですが、ここで注意点があります!

なんと――

💥古英語には、この3つの格は存在していなかったんです!

そういわれても俄かには信じられないと思います。

では実際に古英語の「」を見てみましょう

  1. nominative(主格)
  2. genitive(属格)
  3. dative(与格)
  4. accusative(対格)

見たことも聞いたこともない格ばかりですよね?

さらに、ここで大きな違いに気づかれた方もいらっしゃるでしょう:

🤔あれ?主格nominative になってるやん?

そうなんです!

日本語では同じ「主格」なのに、英語では別々の用語なんです!

  1. 古英語の主格 ⇒ nominative
  2. 現代英語の主格 ⇒ subjective

これが英語の歴史の中で「格」の使い方が変化している証拠になります。

それでは「格」という用語の誕生まで歴史をさかのぼってみましょう!

格(case)はラテン語由来の用語

英語の文法用語 “case)” はラテン語に由来します。

その理由は、

🌍ローマの公用語であるラテン語が近代までヨーロッパ世界の共通語だったから!

このように英語をはじめヨーロッパ系言語では――

📜ラテン語を基準にして、文法を書かなければならない!

――という原則があったんです。

では英語 Wikipedia で「(case)」を深掘りします:

The English word case used in this sense comes from the Latin casus, which is derived from the verb cadere, “to fall”, from the Proto-Indo-European root *ḱad-. The Latin word is a calque of the Greek πτῶσις, ptôsis, lit. “falling, fall“. The sense is that all other cases are considered to have “fallen” away from the nominative.

『この(文法用語としての)意味で使われる英語の caseラテン語の casus に由来していて、これはインド・ヨーロッパ祖語の語根*ḱad-から派生した動詞 cadere(落ちる)から派生しています。このラテン語はギリシャ語の πτῶσις(ptôsis)を翻訳して借用した言葉で、文字通り「落ちること、落下」という意味です。これは、主格nominative)以外の全て格を「(主格ではない形になって)落ちた」と考えられている、という意味になります。』

Grammatical case – Wikipedia

この Wikipedia の引用をまとめてみましょう:

まず「主格 nominative」とは――

✅名詞の基本の形
✅名詞で一番基本の使い方は主語

そして「 case」という用語は――

☑️主格ではない形を「名詞の基本形からの落下casus)」と呼んだ!
☑️名詞が変化する仕組みを「case)」と呼ぶようになった!

――ということです。

ではここから現代英語のご先祖様である古英語(Old English)の格を見ていきましょう!

古英語の格はドイツ語で学べる!

古英語の格を学ぶ上で心強い味方がいます――それがドイツ語(German)です!

ドイツ語は英語と同じ「ゲルマン語のグループ(Germanic languages)」の近い親戚です:

英語が大きく変化した結果、なんと現代英語よりも――

🍺現代ドイツ語のほうが古英語に似ている!

――という状況になっているんです!

実際に英語 Wikipediaを見てみます:

Among living languages, Old English morphology most closely resembles that of modern Icelandic, which is among the most conservative of the Germanic languages. To a lesser extent, it resembles modern German.

『現存する言語の中で、古英語のもつ単語の変化パターン、ゲルマン語グループの中で古くからの仕組みを一番受け継いているグループのひとつである現代アイスランド語に最もよく似ています。それよりも程度は低くなるものの現代ドイツ語にも似ています。』

Old English grammar – Wikipedia

というわけでドイツ語を使って古英語の「格」を学んでいきましょう!

古英語では4つの格が基本になります。

  1. nominative 主格
  2. accusative 対格
  3. genitive 属格
  4. dative 与格

さらに古英語の名詞には――

  1. 男性(代名詞 ⇒ “he” )
  2. 女性(代名詞 ⇒ “she” )
  3. 中性(代名詞 ⇒ “it” )

――という3種類があり、それぞれ独自の変化パターンがあります。

では現代英語で king(王)を意味する男性名詞cyning” の4つの格を見ていきます。

格(case)単数複数
Nominative
(主格)
se cyningþā cyningas
Accusative
(対格)
þone cyningþā cyningas
Genitive
(属格)
þæs cyningesþāra cyninga
Dative
(与格)
þǣm cyningeþǣm cyningum

古英語の場合は、名詞 cyning が変化するのと同じく、定冠詞 the の機能を持つ seþone もあわせて変化します。

つまり古英語では――

💡名詞(noun)と冠詞(article)の格が変化していた!

では次にドイツ語の格をみてましょう。

ドイツ語の名詞も男性、女性、中性の3種類あり König(≒ king, 王)男性名詞です。

(case)単数複数
Nominative
(主格)
der Königdie Könige
Accusative
(対格)
den Königdie Könige
Dative
(与格)
dem Königden Königen
Genitive
(属格)
des Königsder Könige

このことから、次のことがわかります:

💡ドイツ語古英語の4つの格は同じになっている!

ここで注意点ですが、ドイツ語文法では「1~4格」といったようにナンバリングする表記もあります。

ではここでドイツ語に準拠した「格」の表記も紹介します:

  1. 主格 1格
  2. 属格2格
  3. 与格3格
  4. 対格4格

日本語で書かれたドイツ語文法もこの順番になっています。

🔴Nominative(主格・1格)

では「主格(nominative)」の本格的な解説に進みます。

この nominative はラテン語で名前」を意味する nomen に由来します。

英語の「名詞」を意味するnounも同じ語源です。

そのため「(名前をあらわす品詞である)名詞の基本の形」として、辞書などの見出し語(dictionary form)で使われる形でもあります。

つまり前提として――

主語になる ⇒ 名詞の一番基本の使い方!

――ということなんです。

また時折「名格」という和訳が使用されますが、こちらがラテン語の「前を表す」という語義に近くなります。

ですので nominative は――

💡詞の使い方で(メイン、基本、主語)になる

――という理解をしておいてください。

Nominative case - Wikipedia

もともと補語は nominative

一方、日本語の解説では「語で使う=格」というものをよく見ます。

しかし――

⚠️ nominative は「主語専用の格」というわけではありません

その理由はカンタンです!

現代英語の subjective のほうだけが「主語専用の」だからです!

つまりこんな差があります👇

✅現代英語の subjective
主語だけに使う!
☑️古英語の nominative
主語と(主語を説明する)補語の両方に使う!

では古英語の代わりにドイツ語を使ってみていきましょう。

ドイツ語の男性名詞 Mann(英: man)を主語で使います:

  • : A wise man lived in Germany.
  • : Ein weiser Mann lebte in Deutschland
    聡明な人がドイツに住んでいた

この “ein weiser Mann” が nominative(主格)です。

では次にポイントになる「補語(SVC)」と「目的語」です。

まず英語で、補語目的語に a wise man を分けて使用します。

  1. Nietzsche was a wise man.
    ⇒ ニーチェは聡明な人だった。
    • a wise man補語(SVC
  2. Nietzsche knew a wise man.
    ⇒ ニーチェは聡明な人を知っていた。
    • a wise man目的語(SVO

では次に、この2文を先ほどの主語パターンと合わせてドイツ語にしてみます。

ドイツ語の男性名詞 Mann は、主格(1格)対格(4格)で形が変わります👇

  1. 主語 S
    • Ein weiser Mann lebte in Deutschland.
    • A wise man lived in Germany.
  2. 補語 C
    • Nietzsche war ein weiser Mann.
    • Nietzsche was a wise man.
  3. 目的語 O
    • Nietzsche kannte einen weisen Mann.
      • Nietzsche knew a wise man.

この3つの例文からはわかることは――

🤯ドイツ語って補語(SVC)nominative(主格)を使ってるやん!

でも、これってドイツ語だけの特徴ではないんです。

古英語でもラテン語でも同様に補語には「主格 nominative」が使われます。

それでは実際に英語 Wikipedia で古英語nominative を参照してみましょう。

Nominative: the subject of a sentence, which carries out the action.

  • lufode hīe (“he loved her”)
  • þæt mæġden rann (“the girl ran”).

Words on the other side of “to be” also take this case: in the phrase wyrd is eall (“destiny is all“), both “destiny” and “all” are nominative.

Old English grammar – Wikipedia

古英語のスペルが分かりにくいので和訳をみてみましょう:

『主格(nominative): 文の主語であり、動作を実行するものです。

  • lufode hīe (「彼は彼女を愛した」)
  • þæt mæġden rann (「その少女は走った」)

「be動詞」の反対側の単語もこの格をとりますwyrd is eall (“destiny is all“) というフレーズでは「destiny」と「all」の両方が主格(nominative)です。』

Old English grammar – Wikipedia

ここでの「be動詞の反対側の単語」が「補語(SVC)」のことです。

これが本来の「主格」である nominative の使い方なんです。

nominative と subjective の違い

ここまでを整理すると、補語には nominative(主格)を使うことになります👇

  • It is I.
  • That is he.

実際に初期近代英語の時代まではこのような文がよく使われていました。

ところが現代英語では――

  • It is me.
  • That is him.

――のように目的格を使います。

つまり「補語」への対応で2パターンに分かれます。

nominative(名詞の基本の格)
 ⇒ 主語補語の両方に使う!
☑️subjective(主語専用の格)
 ⇒ 主語に使うが補語に使わない!

このようにややこしい文法用語でも――

 👌ラテン語由来の英語であれば定義はしっかり学べます!

ところが残念なことに・・・

😱日本語はどっちも「主格」って呼ぶから区別できへん…

そのため・・・

🤔補語にはどんな格を使えばええんかな~?

――というお悩みが生まれるんです。

🔗主語を説明する補語(SVC)に使う格についてはこちらをご覧ください👇

🔵Genitive(属格・2格)

2番目の格は「属格 genitive」といい「所有所属」などを示します。

もともと「属格 genitive」はラテン語で「起源、出生」を意味する genetīvus に由来します。

そして――

🧬「起源出生」から「所有所属」へ役割が変わっていきました。

そのため原義に近い「生格」という和訳もときおり見られます。

属格は、現代英語だと2通りの表現に置き換わります:

  1. 名詞 ‘s
  2. of 名詞

どちらもある名詞を別の名詞に連結するときに使います。

これは日本語だと「」に相当する使い方です。

Genitive case - Wikipedia

所有格と属格の違い

属格は一見すると英語の「所有格」の my, your, his などに見えます。

まず英語の所有格は定冠詞である the のように使います。

  • This is the book.
  • This is my book.

ところが属格は冠詞名詞もまとめて変化します。

では実際にドイツ語の属格を見ていきましょう:

まず定冠詞 der(英: the)を男性名詞 Bruder(英: brother)につなげます。

  • der Bruder(主格)
  • the brother
  • その 兄弟

次に der Bruder を「属格 genitive(2格)」に変えて、名詞 das Buch(英: the book)につなげてみます。

  • That is the brother’s book.
  • Das ist das Buch des Bruders.
    • ドイツ語の属格は後置修飾(名詞に後ろから連結)

ドイツ語は定冠詞 der と名詞 Bruder の両方が「属格(2格)」になります。

つまり――

🗝️属格は「冠詞」と「名詞」でワンセットで格変化!

――という点が所有格と大きく異なります!

では次に不定冠詞 ein(英語の a/an)を見てみます:

  • 主格:ein Bruder (a brother)
  • 属格:eines Bruders (a brother’s)

では所有冠詞 mein(英語 my)もみてみましょう:

  • 主格:mein Bruder (my brother)
  • 属格:meines Bruders (my brother’s)

このように属格の特徴として――

💡「ある名詞」を「別の名詞」に連結させる形

――という側面もあります。

アポストロフィ(’s)は属格のなごり

もちろん古英語でも名詞が属格に変化していました。

この名残が現代英語にも「サクソン属格(Saxon genitive)」として残っています。

それが、みなさんよくご存じ――「アポストロフィ + s(’s)」です!

では英語 Wikipedia から引用します。

For nouns, noun phrases, and some pronouns, the possessive is generally formed with the suffix -‘s, but in some cases just with the addition of an apostrophe to an existing s. This form is sometimes called the Saxon genitive, reflecting the suffix’s derivation from Old English.

『名詞、名詞句、および一部の代名詞の場合、所有の表現は一般に接尾語 -‘s で形成されますが、既存の s にアポストロフィを追加するだけの場合もあります。この形式は、接尾語が古英語に由来していることを反映してサクソン属格と呼ばれることもあります。』

English possessive – Wikipedia

サクソン属格のつくり方はカンタンです!

  • My brother(単数)
    My brother‘s
  • My brothers(複数)
    My brothers’

これで古英語の伝統を受け継ぐサクソン属格の完成です!

さらに疑問詞はとても分かりやすいです:

  • who (hwā) ⇒ 主格に由来
  • whose (hwæs) ⇒ 属格に由来

また英単語同士を組み合わせに「属格 s 」が連結で入るものがあります。

From Middle English -s, -es, from Old English -es (“-‘s”, masculine and neuter genitive singular ending), which survives in many old compounds. In more recent coinage, from contraction of the derived clitic -‘s in compounds.

古英語の -es (-‘s 男性および中性名詞の属格単数語尾) 中英語の -s、-es から派生し、多くの古い複合語に残っています。最近の造語では、複合語の派生接語 -‘s が短縮されました。』

https://en.wiktionary.org/wiki/-s-

あまりに見慣れないものが多いですが例をあげます。

  • doomsday:世界の終わり、最後の審判の日、滅亡の日
  • statesman:政治家、外交官
  • kingsman:王の家臣、王の側近
  • swordsman:剣士、剣の使い手
  • marksman:射手、射撃の名手
  • womenswear:婦人服
  • Pittsburgh:ピッツバーグ (アメリカ・ペンシルベニア州の都市)

アメリカの都市ビッツバーグはイギリスの政治家 William Pitt(ウィリアム・ピット)の burgh(要塞)という意味で作られたようです。

🟡Dative(与格・3格)

3番目の格は「与格 dative」で行動の「受け手」や「行き先」を示します。

語源はラテン語で「与えること」を意味する datīvus に由来します。

ちょうどイメージとしては「間接目的語 indirect object」に近い格です。

そのため現代英語だと――

  • for 名詞
  • to 名詞

――のように「方向の前置詞」を使って置き換えられます。

Dative case - Wikipedia

では与格の仕組みを英語とドイツ語を使ってみていきます。

まず英語の「所属」の動詞 belong を例にします:

  • belong to A
  • Aに所属する

この belong の由来に当たる古英語の動詞 は「与格」とペアを組んでいました。

  • belangian A与格
  • Aに所属する

つまり現代英語では――

💡前置詞 to与格に置き換わるように変化した!

ちなみにドイツ語の gehören(現代英語 belong)を見ると、与格の使い方がわかります。

では、ドイツ語と現代英語で比べてみましょう。

  • This book belongs to me.
  • Das buch gehört mir.
    ⇒ 与格:mir(私に)

もう一つの与格の使い方は第4文型 SVOO に残っています。

  • 間接目的語 ⇒ 古英語の「与格 dative」
  • 直接目的語 ⇒ 古英語の「対格 accusative」

現代英語で与格の役割になる間接目的語は前置詞 to/for などで置き換えられます:

  • I give my sister this book.
  • I give this book to my sister.

この第4文型 SVOO から 第3文型 SVO への置き換えを「dative shift(与格交替)」と言います。

🔗この dative shift の仕組みは次のブログをご覧ください👇

古英語の to 不定詞は与格だった

驚くことに与格は「古英語の to 不定詞」とも関係があるんです!

まず古英語の不定詞には2つ形がありました。

現代英語の動詞 sing のご先祖様である singan を見ていきます。

  1. singan(歌うこと)
    原形不定詞
  2. tō singenne(歌うことへ向けて)
    to 不定詞

ここで注意です!

⚠️ヨーロッパ言語の不定詞( infinitive)は動詞名詞用法が基本です!

だから――

✅古英語の不定詞も「名詞用法」が基本です!

つまり古英語では「動詞の原形(名詞用法)」があったんです。

その用法に「前置詞 to」と組み合わせて「to do」も使っていました。

つまり我々の知る不定詞(to do)はワンセットではなく「前置詞+名詞」だったんです。

  1. 前置詞 to~の方向へ
  2. 動詞の原形(名詞用法)~すること

これで古英語の to 不定詞は「~することへ向けて」という意味になります。

そして古英語の場合は前置詞 to とペアになる名詞は「与格 dative」に変化していたんです。

古英語の不定詞名詞用法なので――

singan(不定詞の基本形)
 singenne前置詞与格

――という変化がありました。

それが中英語のころから名詞から格の変化が無くなり、不定詞の「与格」の仕組みも消えていくことになります。

🔗英語の不定詞の歴史のおける変化については次のブログをどうぞ👇

古英語には与格主語があった

ちょっと信じられないかもしれませんが――

✅古英語では与格を「主語の位置」に置くことができました!

古英語の与格主語の代表例は、現代英語では形式主語 it に置き換えられています。

  • it seems to me that SV
  • it is important for A to do

これをムリヤリ古英語っぽくすると…

  • to meseems that SV
    私にとって 見える SVということ
  • for-me” is important to do it.
    私にとって 重要だ それをするのは

形式主語の it の成り立ちはいくつかありますが、そのうちの一つは「与格主語(dative subject)」の置き換えです。

与格主語の最後の生き残りとして、初期近代英語の時代には methinks という固定表現が使われていました。

ちなみにドイツ語では与格主語は普通の文法として使われます:

  • Mir ist kald.(私は寒い)
    ⇒ “To me” is cold(私にとって冷たい)

🔗与格主語と “methinks” については次のブログをどうぞ👇

🟢Accusative(対格・4格)

最後の4番目の格は「対格 accusative case」で、行動の「直接の対象」を意味する格になります。

現代英語では「直接目的語 direct object」になるので「他動詞の目的語」としての役割があります。

英文法用語 accusative はラテン語の accusativus(告発する、非難する)に由来し、英語の accuse(告発する、非難する)と同じ語源になります。

なぜ「行動の対象」であるべき格の名称が「告発・非難」になっているのには理由があります。

もともと古典ギリシャ語では「対格」は動作の原因や対象を示すという意味合いから「causative 原因 」の格と考えられました。

このギリシャ語からラテン語へ文法用語を翻訳する際に accusativus(告発する、非難する)と誤って訳してしまったんです。

その結果、動詞が直接影響を与える対象を示す格であるにもかかわらず「非難」や「告発」に関連する意味が加わってしまいました。

英語 Wiktionary の「accusativus(ラテン語の対格)」から引用します。

From accūsō (“to accuse, blame”) +‎ -īvus (verbal adjective suffix). As a grammatical term, it is a mistaken calque of Ancient Greek αἰτῐᾱτῐκή (aitiātikḗ), which does not mean “related to accusing”, but rather “related to an effect.

accūsō(「非難する、責める」)+ -īvus(動詞の形容詞化接尾語)に由来。文法用語としては、古代ギリシャ語の αἰτῐᾱτῐκή(aitiātikḗ)の誤った翻訳に基づいています。このギリシャ語は非難に関連する」という意味よりも「結果に関連する」という意味を持ちます

https://en.wiktionary.org/wiki/accusativus

このように「対格 accusative」はギリシャ語の「原因」という由来から、ラテン語の「非難・告発」に変わってしまったので、語源としては少し異なる意味を持つことになりました。

Accusative case - Wikipedia

ではドイツ語の「対格 accusative」を見ていきましょう。

上の「主格」の解説ところで使った文を再利用します。

  1. Nietzsche war ein weiser Mann.(補語 SVC)
    • Nietzsche was a wise man.
  2. Nietzsche kannte einen weisen Mann.(直接目的語)
    • Nietzsche knew a wise man.

対格は「冠詞」と「形容詞」のどちらも形が変化します。

  • a wise man(英)
  • ein weiser Mann(独・主格
  • einen weisen Mann(独・対格

形容詞は名詞に組み込まれるので「名詞の一部」という解釈が適用されます。

古英語ラテン語そしてフランス語も含めてヨーロッパ系言語なら、こちらのほうが基本ルールになります。

もともと受動態は「対格」がつくった

さて実は「対格(直接目的語のための格)」にはとても重要な機能があります。

英語以外のドイツ語フランス語など多くの言語では、直接目的語(対格)からしか「受動態 passive voice」を作ることはできません

現代英語は、間接目的語からでも「受動態」を発動できるのですが、これは意外にレアケースなんです。

間接目的語を受動態にすることは古英語ではできず、おもに中英語から生まれた変化になります。

ヨーロッパ言語では「対格」を受動態にするのが標準なんです。

ですが現代英語には「受動態 passive voice」を発動するパターンが対格以外にも数多くあります!

🔗受動態の全パターンの考え方についてはこちらをどうぞ👇

⚔️目的格のライバルは「斜格」

ここまで見てきたようにラテン語ドイツ語そして古英語でも「主格」といえば nominative が使われています。

そしてもうひとつ現代英語「目的格」である objective もラテン語にも古英語にもありません。

しかし「objective 目的格」に相当するものとしてラテン語には「oblique 斜格」というものがあります。

A noun or pronoun in the oblique case can generally appear in any role except as subject, for which the nominative case is used. The term objective case is generally preferred by modern English grammarians, where it supplanted Old English’s dative and accusative.

斜格の名詞または代名詞は一般的には、主語として使う場合を除いて、あらゆる役割で使用できます。そして主語として使用される名詞には nominative(主格)を使用します。目的格という用語は、一般的に現代英語の文法学者によって好まれており、古英語の与格対格に取って代わりました。』

Oblique case – Wikipedia

文法用語の「oblique 斜格」の語源は、ラテン語の obliquus から来ており「斜めの」や「間接的な」を意味します。

この「斜め」という表現が使われている理由は「名詞の基本の形(主格)から外れた形(斜めの格」になり、主語以外の間接的な役割や関係を示すことから来ています。

そのためラテン語では「対格 accusative」や「与格 dative」そして「奪格 ablative」など複数の格をまとめて「斜格 oblique」といいます。

そして古英語の場合は「斜格 oblique」は「対格」と「与格」をまとめた言い方になります。

そうなると現代英語では「斜格 oblique」は直接目的語間接目的語そして前置詞の目的語で使用される「目的格 objective」とほぼ同じ意味になります。

これを古英語と現代英語にわけて分類すると次のようになります。

  • 古英語
    1. nominative(主格)
    2. oblique(主格以外 ⇒ 斜格)
  • 現代英語
    1. subjective(主格)
    2. objective(主格以外 ⇒ 目的格)

なんとほぼ同じものなのに、わざわざ別の用語が使われています。

ここから「古英語」と「現代英語」の「名詞の基本形(語で使う)」を中心にした視点では、以下のような分類になります。

  1. 名詞の基本形(主語)
    • nominative(主格・名格)
    • subjective(主格)
  2. 名詞の基本形以外(主語以外)
    • oblique(斜格)
    • objective(目的格)

このように実はラテン語に由来する用語でも英語に応用できるんです。

ですがもちろん新しい文法用語が現代英語で生まれた理由はちゃんとあります。

実際に英語 Wikipedia で経緯を参照してみましょう。

English is now often described as having a subjective case, instead of a nominative, to draw attention to the differences between the “standard” generic nominative and the way that it is used in English. The term objective case is then used for the oblique case, which covers the roles of accusative, dative and objects of a preposition.

『英語は現在、 nominative ではなく subjective を持つとよく言われます。これは「標準的な」総称 nominative(主格)英語においての主格の使用法との違いに注意を向けるためです。objective(目的格)という用語は、対格、与格、前置詞の目的語の役割をカバーする oblique(斜格)に対して使用されます。

Grammatical case – Wikipedia

上記の説明をまとめると次のようになります。

💥ラテン語由来の nominative がうまく機能しないので、現代英語の subjective を作りました!

――そしてさらに――

💥ラテン語の oblique の代わりに、新たに生まれた subjective に対応させて、現代英語の objective を作りました!

――という背景があるんです。

この「格」の基本が崩れてしまった現状を古英語そしてドイツ語と比較してみてみます。

ホントはかなりややこしいのが現代英語の「主格」の実情なんです。

📌所有格から所有「限定詞」へ

最後に所有格のお話ですが――

😂なんと英語では所有」と呼ばなくなりつつあります!

その理由はカンタンで「定冠詞」と同じ使い方になってたからです。

  • This is the best!
  • This is my best!

ここまで見たように古英語やドイツ語の属格のように名詞が変化することもありません。

そうなるとわざわざ「」という言葉がいらなくなります。

それよりも――

所有限定詞(possessive determiner)
⇒ 所有者を示しつつ名詞の意味を限定する言葉

――という解釈に切り替わりつつあります。

だから「my(私の)」や「your(あなたの)」という知識さえあればOKです!

🔗英語 Wikipedia にも possessive determiner の記事があります 👇

Possessive determiner - Wikipedia

ここまで読んで頂いた皆さん、ありがとうございました!

本音をいいますと――

現代英語って「格」の仕組みがわからなくても何とでもなるんです!

でも世界を見渡せば名詞の格が大きく変化する言語はたくさんあります。

それにラテン語ドイツ語の「格」をちょっと知っているだけでも、古英語と現代英語の違いがはっきりとわかるんです。

もしかすると、皆さんの中には――

🤔ラテン語やドイツ語を勉強すると役に立つかも?

――と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

では、私からのちょっとした提案といたしまして…

If that’s the case, it might not hurt us to take a glimpse of the grammatical case for just in case.

(そうなった場合のことを考えて、あらかじめ」についてちょっと知っておくのもの悪くないんちゃうかな~って思います。)

ではまた、別の記事でお会いしましょう🫡

ちょっとユニークな英語塾

志塾あるま・まーたは、英語が苦手な方でも楽しく学べるオンライン英語塾です。

塾長はアメリカ留学中にエスペラント語と出会ったことをきっかけに、ゼロから“世界で通用する英語力”を習得できました。

その学び方をベースに、統語論(Syntax)意味論(Semantics)を組み合わせた独自の指導法を展開しています。

さらにラテン語などヨーロッパ系言語の知識や、古英語中英語を含む英語史の視点も取り入れた、ちょっとユニークで本格派な英語学習法をご紹介しています。

あるま・まーたの英語の学び方に興味を持っていただけたなら、ぜひお問い合わせください!

ブログの感想や英語の疑問・質問などでもお気軽にどうぞ!

Copied title and URL