長野県松本市にある国宝天守をもつ松本城に行って参りました。
松本城の天守は日本最古の五重の天守であり、全体が漆黒に塗られていて、とくに春には雪をかぶった信州の山々とのコントラスが非常に美しいです。
松本城の黒い天守を我々がいまでも拝見できるのには、明治の松本の人々の尽力がありましたので、そのストーリーもご紹介いたします。
松本城はなぜ黒い?
松本城が黒く塗られているのにはもちろん理由があります。
天守の壁によく使われているのは、白い漆喰(しっくい plaster)です。
実際に松本城のほかに唯一、五重天守を持つ姫路城は白鷺城(はくろじょう white heron)とよばれるほどに真っ白な漆喰でおおわれています。
しかし、漆喰は松本のような地域では、寒暖の差で割れてしまうという問題がありました。
そこで松本城は黒漆(くろうるし black lacquer)を代わりに塗ることで土壁に防水効果をもたせています。
黒漆は日本有数の木材の産地である木曽が近いため入手も容易で好都合でした。
一方、漆喰は海藻(sea weed)を原料としているため、日本アルプスのふもとにある松本では入手が困難だったでしょう。
いいことづくめに見える、黒漆ですが紫外線には弱いため、きめ細かくメンテナンスをすることが必要だそうです。
松本城天守 Matsumoto Castle Donjon Tower
松本城の天守は明治に入っての廃城令で破却の危機にあいます。
幕末・明治の時代は大河ドラマなどでも「新たな日本の夜明け」と良い面が強調されすぎていますが、同時に「日本的なものは時代遅れ」とみなす一面も持っていました。
廃仏毀釈で多くのお寺が荒廃し、たくさんのお城が破却されました。
もちろん江戸時代までは民衆が苦しんでいるのに寺社勢力が広大な荘園を抱え込んでいたという事実があります。
江戸末期に外国が暴力を振りかざして恫喝してきても、右往左往することしかできない武士たちが偉ぶる徳川封建主義の象徴としてお城は見られたのかもしれません。
そういった古い時代の発想を一気に打破しようという明治の人たちの気持ちは大いにわかります。
暴力と差別で世界中を搾取していた欧米列強に対抗するためには、幕藩体制のもと日本が藩ごとにバラバラだった時代の遺物であり、軍事的にも不要な城を、全日本が一丸となって取り組む近代化には不要のものとしてつぶす発想自体は理解できなくはありません。
実際に外国勢力の武力を身をもって感じた西日本の雄藩を中心に水戸徳川家や幕臣たちも巻き込んだ明治維新の爆発的エネルギーがあったからこそ、日本は植民地にならずに済んだと強く感じています。
そういった日本中でお城を壊す動きが進んでいる中で松本城を守ったのは、松本の人たちでした。
破却の危機は乗り切ったものの、修繕や管理などの費用は政府から出るわけもありません。
そこで松本中学校の校長であった小林有也(こばやしうなり)さんが中心となって、保存会を立ち上げて修理に取り掛かります。
その費用の約8割は賛同者の寄付金で支払われています。
現代でも熊本城の復興にクラウドファンディングでお金が集まったようですが、このように自分たちの魂の拠り所ともいえる文化財を守るためには税金に頼るだけでなく、自腹を切るのも市民の義務と心意気だと思います。
「底力」のある文化が生き残る
松本城の天守を残すために尽力された方がたくさいらっしゃったお蔭で、松本には世界中から多くの人々が訪れています。
時代のうねりに逆らい、逆境に耐えながら生き抜きそして再び輝く。こういった力を「底力」と呼ぶのだと思います。
時代が目先の利益や目標に走っているときに、あえてふんばって大切なものを残そうとする人たちがいてこそ実際に文化は残るのです。
日本中を旅していると栄華を誇ったお寺やお城の今の無残な姿を多く目にすることができます。
日本の文化が古いものを残し新しいものを融合させる重層的な性質をもっているのは、古いものが単に古いだけでなく、職人精神や芸術性をしっかりと宿しているからでしょう。
だからこそ、外国人や若い世代にもその良さがしっかりと受け継がれる。
いつの時代も、その時代を懸命に生きた人たちによって価値が問われるのは歴史も文化も同じです。
自分の生まれ育った国に美しい文化財がたくさんあり、それを先人たちが守ってくれたからこそ、自分たちもその文化財に学び、癒されることができます。
これは誰にでも与えられた幸せではないと思います。
松本城に関連する英語表現
パンフレットとホームページに記載されていた英訳が違う場合は(HP)として併記します。
またHPの中でも同じものに対し違う英語表記が併存しています。
黒門(くろもん): black gate
一の門: outer gate
二の門: inner gate
太鼓門(たいこもん): drum gate
太鼓の名の由来は、城内の連絡のために太鼓や鐘が備え付けられていた太鼓楼の近くの門だからです。
太鼓楼(たいころう): drum tower
本丸(ほんまる): main wing
main bailey の英訳をよく見かけます。bailey とは城の中庭(court)を壁で囲んだ部分になります。
- 二の丸(にのまる): second wing
本丸御殿(ほんまるごてん)
HP内で2種類あったので書いておきます。
- Honmaru palace (HP)
- Main enclosure palace (HP)
天守(てんしゅ): donjon tower
天守は英訳でもいろんな言い方がありますが、一番多いのは main keep です。
- main keep
- great keep (HP)
戦国無双 Samurai Warriros のシリーズでも main keep がつかわれているようなので、ゲームの英訳と整合をとる手もありだとおもいます。
乾小天守(いぬいこてんしゅ): small tower in the northwest
- small keep (HP)
- small northern tower (HP)
城郭構造: castle structure (HP)
黒漆塗りの下見版: black-lacquered weatherboard (HP)
白漆喰: white stucco (HP)
stucco はイタリア語から入ってきている言葉です。plaster といういい方もあります。
鯱瓦(しゃちがわら): killer whale roof tile
日本の城にあるシャチは伝説上の動物ですが、実際に動物として存在してしまうので英訳は難しいです。
麒麟(きりん)も実在する動物ですが、中国の伝説上の動物としては giraffe ではなく qilin とされているものをよく見ます。
丸太柱: bolt pillar
石落とし: stone drop / stone dropping window (HP)
狭間(さま): openings for archers
武者窓(むしゃまど): warriors window (HP)
縦格子窓(たてごうしまど): vertical lattice window (HP)
御座所(ござしょ): living space (HP)
月見櫓(つきみやぐら): moon observatory scaffold
scaffold は確かに「やぐら」の意味ですが、より正確には建設現場などの「一時的に組まれた足場」のことを意味します。
渡り櫓(わたりやぐら): connecting scaffold
HPでは roofed passage の訳もありました。こちらのほうがいいかもしれません。
堀(ほり): trench
trench は塹壕(ざんごう)という空堀のようなものを意味します。
水がたまる堀を moat と訳しているのもよくみます。
火縄銃: matchlock gun (HP)
銃の表現は弾の込め方や銃弾の形状などにより非常に細かい分類があります。
先込め式の銃ということで musket もよく見ます。
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