なぜ日本の英文法は難しいのか?

英語を学ぶ方からこんな声をよく聞いています。 

  • 英文法の意味が全くわからない
  • なぜこんな和訳になるのかわからない
  • 英文法は例外パターンばかり

たしかに「和訳の丸暗記」や「ややこしい文法用語」ばかりやっていると嫌気がします。

そうなってくると・・・

  • 英文法は覚えなくてよい!
  • とりあえず海外留学しよう!

・・・なんてムチャな話になってきます。

でもご心配なく! 問題は「英文法」そのものではありません。英語は国際語として機能している以上、ヘンなルールばかりであれば、ネイティブスピーカーしか使えなくなります。 

実は、英語はすさまじくシステム的にしっかりできています。 

つまり真の問題は「日本の英文法解説」にあります。

日本の英文法用語そのものが誤解を招く

私はアメリカに留学してイヤというほど受験英語の無力さを味わいました。英語を理解するのに「日本の英文法書」は役に立ちません。 

日本の英文法用語は残念ながら英語を理解をするための機能をもっていないんです。

  • am going to school.
  • 私は学校に向かっています(現在進行形)
  • am going to go to school.
  • 私は学校に行くつもりです(未来形)

2つの英文は似ています。しかし和訳は全然違っています。

さらに「現在進行形」と「未来形」という「文法用語」の違いもあります。

では「I am going to ~」だけならどんな意味になるでしょうか?

英語ネイティブはわざわざ別ものとして理解をしているでしょうか?

そんなことはありません。英語は英語の語順で理解するものです。

つまり「I am going to ~」には「I am going to ~」という意味しかないんです。

都合のいい和訳をいろいろ当てているうちに、全体のバランスが崩壊しているのが日本の英文法です。

英文法は「統語論文法」と「意味論文法」の2種類

英語に限らず「文法」には大きくわけて2パターンの解釈がそもそも存在します。

それが「Syntax 統語論文法」「Semantics 意味論文法」なんです。

しかし、ざっくり違いを説明すると・・・・

  • 統語論文法 Syntax  ⇒ ルール・システム重視の文法解釈
  • 意味論文法 Semantics  ⇒ 意味・ニュアンス重視の文法解釈

では、その違いを明確にするために、先ほどの be going to の例をみていきましょう。

未来表現 be going to の統語論文法 Syntax と意味論文法(Semantics)
未来表現 be going to の統語論文法 Syntax と意味論文法(Semantics)

例文は未来形(be going to)で習うものです。

  • I am going to get it.
  • 私はそれを得るつもりです。

しかし「統語論文法(Syntax)」で解釈すれば、英文法の基本ルールの応用で理解できます。

この “going” は「現在分詞 present participle」といいます。

そして「分詞」とは「動詞の変化した形容詞」という意味です。

だから be動詞の後に「補語 C」として置き「第2文型 SVC」になります。

現在分詞には「進行相」が追加されて「going = 進んでいる」となります。

これは英文法用語で「進行相 progressive aspect」と呼ばれます。

そして「to get」は「不定詞 infinitive」で「未然(これからする予定)」という意味を付加されます。

こちら英文法用語で「未然相 prospective aspect」という言い方があります。

つまり be going to do は「~する方向へ向かっている(進行+未然)」という理解でよいのです。

未来表現 be going to の成り立ちを詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

英語の文法用語の「○○詞」にはちゃんと意味があります。

そして「名詞」や「形容詞」などの「品詞」は英単語すべてに割り当てられています。

この品詞の使用ルールは決まっています。勝手に変えることはできません。

そして「現在分詞」や「不定詞」のような「動詞の変化形」もちゃんと「品詞の使用ルール」に従っています。

動詞の変化形の品詞:不定詞・ING形・過去分詞
動詞の変化形の品詞:不定詞・ING形・過去分詞

また「動詞の変化形」には、さまざまな意味やニュアンスを特別に付加することができます。

不定詞・ING形・過去分詞の相(Aspect)と態(Voice)
不定詞・ING形・過去分詞の相(Aspect)と態(Voice)

いかがでしょうか。 

英語は「動詞の変化形」をつなぎ合わせて「複雑な文章」を作れるので、すべて基本の応用で理解できます。

つまり「統語論文法(Syntax)」とは・・・

「文の要素」と「品詞」を基本にして、パーツを正しく組み合わせて英語を運用することを重視する。

英語の超基本も高度な応用もすべては「文の要素」と「品詞」の組み合わせでほとんど機能します。

この2つを最大限活用するのがルール・システム重視の「統語論文法(Syntax)」というわけです。

日本の英文法は機能していない

ここまで「統語論文法(Syntax)」を見てきました。

これが英語を語順通りに正確に理解する大きな助けになるはずです。

しかし日本の英文法の課題はこれだけではありません。

ざっと日本の英文法書の課題をならべてみます。

  1. 文法用語の意味を説明しない。
  2. イディオム・語法・構文が「文法問題」でひとまとめになっている。
  3. 和訳しにくいニュアンスを軽視する。
  4. 歴史・信仰に関係する表現から逃げる。

では実際に見ていきましょう。

文法用語の意味を説明しない

動詞の原「形」・現在進行「形」・未来「形」・複数「形」などはそれぞれ全然意味が違うものです。

同じ「形」になっていますが、これらすべて性質が違うものなんです。

また仮定「法」を習います。しかし仮定「形」や仮定「文」と言はいいません。

命令文という言い方をよくみますが「命令形」とはいいません。

しかし「命令法」という文法用語は正しいです。

このような違いがなぜ起こるかは「英語で英文法」を勉強すればわかります。

一方で「日本の英文法用語」は用語の説明があまりないまま、用語だけが独り歩きしています。

日本語の英文法用語があやふやに使われている具体例はこちらのブログをご参考ください。

英語にない文法用語「〇〇形」を不用意に使う
英語の「時制」の本当の意味を説明しない

日本の英文法解説には「英文法用語の厳密な定義」があるようにはみえません。

英語の文法用語の翻訳を全体的な整合性を考えずに寄せ集めたように見えてしまいます。 

英語の Wikipedia などで英文法の解説をみると「前提」や「言葉の定義」などが明確に説明されていることが多いです。 

言葉の意味をあやふやに使っていたら、コミュニケーションが成り立たなくなります。 

逆にいうと、英語は実質的な世界言語なので、ちゃんと世界中の人が理解できるように文法ができているといえます。

日本人が英文法を勉強しても英語ができないのは、日本の英文法がそもそも機能していないからです。

基本ルールも例外ルールも「文法問題」でひとまとめ

次に「文法問題」と呼ばれるものにも多くの難点が見つけられます。

日本の「文法問題集」をみていると、わけがわからなくなりませんか?

英文法に限らず、なんでもルールには大きく分けて2つの要素があります。

  • 基本ルール
  • 例外ルール

日本の文法問題集はこの2つが全部ごちゃまぜになっているんです。

というわけで「基本ルール」と「例外ルール」を区別してみます。

  • 基本ルール:「文の要素」と「品詞」
  • 例外ルール:「イディオム」と「語法」と「構文」

まずは「基本ルール」ですが、これは先ほどみてきたように「統語論 Syntax」ですべて説明可能です。

つまり英語の文法問題は「文の要素」と「品詞」が中心であるべきなんです。

一方で「例外ルール」はそれぞれ特別な内容を覚えなければいけなくなります。

そうなると、どんどん「基本ルール」から外れたことを覚える羽目になります。

では「イディオム」「語法」「構文」にどれほど「例外ルール」が多いのかみていきます。

イディオムが「文法問題」でひとまとめ

イディオムとは「複数の単語をまとめて意味をなす表現」です。

つまり「バラバラにすると意味がない」ということになります。

例として take care of(世話をする、面倒を見る、処理する)を見ていきましょう。

基本ルールではは「S take care (SVO)」ととるのが正解です。

しかし take care of はひとまとめで「一つの動詞」と扱われます。

それゆえ「受動態」をつくるのに必要な「過去分詞」もひとまとめで扱われます。

  • 能動態:”I take care of this problem.”
  • 受動態:”This problem is taken care of.”

ここでざっくり「受動態」の構造を図解します。

take care of の受動態(SYNTAX)
take care of の受動態(SYNTAX)

本来なら take の目的語である「care of the problem」が主語になるところですが、そうなっていません。

英単語の品詞ルールよりも「ひとまとまりの意味を優先」するというのが、イディオムと呼ばれるものの特徴です。

つまり『基本ルールでは「care」を目的語にするのが正解』と知っておくことがとても重要なんです。

実際の英語では「基本ルール」で運用できるパターンのほうが多いのですから、そちらに中心をおくべきだと思います。

例外的な語法が「文法問題」でひとまとめ

次に「語法」と呼ばれるものも文法問題によく載っています。

「文法」とよく似ていますが「語法」は個々の言葉の使い方のことです。

基本的には「文法」も「語法」もそれほど厳密に分けなくても大丈夫です。

  • 文章の基本ルールは・・・「文の要素 SVOC」
  • 単語の基本ルールは・・・「品詞(の使用ルール)」

つまり品詞ルールを理解したうえで、文の要素を中心に文章を組み立てるという原則は変わりません。

ところが、文法書にでてくる「語法」には「例外ルールの語法」もたくさんあるんです。

つまり「例外の語法」とは・・・

  • この言葉はこういう言い方をします!
  • 文法的にヘンでも、この言葉はそう使うんです!

では実際に「語法」の「例外ルール」を見ていきましょう。

英文法書には「busy doing ~するのにいそがしい」という表現がのっていると思います。 

この表現がわざわざ載っている理由は  busy doing が「例外ルール」だからです。

では「基本ルール」は一体何なのか?という話になるので、例を見ていきます。

  • I am happy to see you.
  • She was afraid to talk about it.

つまり「形容詞を説明」する場合は「不定詞」を使うのが「基本ルール」です。

しかし busy の後に不定詞を持ってくることはできません。

I am busy doing it.
I am busy to do it.

不定詞がダメな理由は、もともと busy in doing という「busy 前置詞+動名詞」の形から派生している表現だからです。

この例外ルール busy doing を覚えることは英語力UPに大きくはつながりません。

なぜなら基本ルールである「形容詞 to do / to be」のほうがはるかに使う場面が多いからです。

構文が「文法問題」でひとまとめ

「構文」とは「文の構造」を示す言葉です。

英語にも「基本ルール」から外れた「例外ルールの構文」が存在するのです。

その代表格である「強調構文」と呼ばれるものを見ていきましょう。

これは「cleft sentence 分裂文」と呼ばれるもので、文字通り「文章を分裂」させた形をしています。

これは英文の基本ルールから完全に離れた構造をしています。

例文は英語の Wikipedia から採用します。 

・It was from John that she heard the news.

Cleft sentence - Wikipedia
強調構文の Syntax
強調構文の Syntax

このように「it was 強調部分 that 文章の残り」という形になります。

本来なら it was で「SV」になるはずです。

しかし、この構文の場合は「強調部分+残りの部分」という枠組みが優先されます。

わざわざ「特殊な用語」がついているものは「例外ルール」のことが多いです。

英語は原則的には「文の要素」と「品詞ルール」で文章をつくります。

この基本を無視して「例外ルールの構文」を覚えても仕方ありません。

世の中の英語のほとんどは「基本ルールを組み合わせた応用」で作られています。

It was she ~」のように文の途中に「she 主格」が来ることは、基本ルールから外れると知っておくことがとても重要になります。

和訳しにくいニュアンスを軽視する

和訳に偏りすぎていると「ニュアンス」もつかめなくなります。

次の2つの「イディオム」を見ていきましょう。

  • so to speak = いわば
  • as it were = いわば

文法書などでは、同じ「いわば」の和訳があります。

とはいえ「形は全然違う」ので「意味は似ているとしてもニュアンスは違う」はずです。

実際、この2つの意味は違うので、ちゃんと文法的にとらえてみます。

では最初に「so to speak = いわば」を分析します。

まず so ですが、このケースでは「そのように」という副詞です。

品詞はいろいろ変わるのですが「so の和訳」はあまり深く考えずに訳します。

  • そーのように:I think so.
  • そーなんで:It was raining outside, so I stayed there.
  • そーんなに:Thank you so much.

あえてあいまいに受ければニュアンスはつかめます。

そして「不定詞 to speak」は「未然相(これからするつもり)」の意味をつくります

つまり「これから~話そうとする」という意味になります。

これらを組み合わせて・・・

あえてそんな言い方をすると ≒ いわば

・・・となります。

意味的にも、文法的にも、特に丸暗記が必要な表現でもないと思います。

この表現は昔、貴族が平民の遣う「下品とされた表現」を使う時に「あえてそんな言い方をさせてもらうと・・・」といったところが起源のようです。 

so to speak
so to speak meaning, origin, example, sentence, history

次に「as it were = いわば」を分析します。

これは「it were」を見れば、すぐにわかります。

主語が “it” なのに ” were” の形をとる場合は、仮定法・叙想法(subjunctive mood)といって「事実ではない irrealis」ことを示す表現です。

もし「事実 realis」であれば「as it was」になっています。

次に接続詞 as はいろんな品詞で使いますが、大体「同じ(同様、同時、同等)」など大きくまとめて理解すればうまくいきます。

つまり「実際には違うのだけどそれは○○と同じものとして・・・」という意味で「いわば」となります。

こちらも意味的にも、文法的にも、特に丸暗記が必要な表現でもないと思います。

  • 不定詞:未然相(これからやろうとする)
  • 仮定法:事実ではない

和訳の丸暗記でごまかすと、英語を深く理解するチャンスすら逃してしまいます。

歴史・信仰に関連する表現にほぼ触れられない

英語はヨーロッパで生まれ育ってきた言葉です。

ヨーロッパ文化の土台は、ギリシャやローマといった過去の文明の中心地にあります。

そのため「ギリシャ語 Greek」や古代ローマの言語である「ラテン語 Latin」は地中海地方やヨーロッパの「世界共通語」として機能していました。

そのため「学名 Scientific Name」をはじめ、学術的な英単語法律用語の中に今でも多く存在しています。

さらにヨーロッパ圏は千年以上にもわたってキリスト教圏なので、キリスト教に関する表現がたくさん存在しています。

英語でも「言語の歴史や信仰」を無視して、しっかりとコミュニケーションをとることは不可能です。

そしてこのような表現は「日常会話」にも「正式な場面」にも登場します。

“Oh my God!”

この表現は非常によく使われます。しかし “Oh my goodness!” や “Gosh!” などで代用されることも多いです。

その理由は聖書に「God の名をみだりに口にしてはならない」と書いてあるからです。軽々しく「God」をつかうことをよく思わない方は多くおられます。

とはいえ God は頻繁に出会う表現です。

ではアメリカの大統領は演説などで “God bless America!” と言っているのは日本のニュースでもよく見ます。

州によって表現は異なるようですが、裁判などの宣誓でも「(『真実のみを口にする』いう内容に続いて)So help me God.」と言います。

キリスト教の「God」と日本の「神」の違いを知らないとわからない表現はやまほどあります。

ほかにもキリスト教的な「天国 the heaven」や「地獄 the hell」などの表現が日常的に使われます。

  • What on earth happened?
  • What in the world happened?
  • What (in) the hell happened?
  • What (in) the heaven happened?

on earth や in the world は日本の文法書にもよくありますが、ほかにも下品なものも含めていろんな表現が使われます。

ほかにもまだまだ「キリスト教」に関連する表現はたくさんあります。

こういう表現ほど「辞書を引いてもわからない」というものが多いので要注意です。

できる限り「基本ルールの応用」で英語と向き合う

日本でよく見るようなワンパターンの4択や穴埋めならば、こまかなルールよりも丸暗記のほうが楽に見えます。

英語を「和訳」すれば理解した気になるのは当然だと思います。

なんでもかんでも「丸暗記」や「和訳」をしていると結局、本来の英語の持つ「意味」が分からなくなると思います。

英語を正確に運用するには「基本ルール」を徹底的に応用するほうが圧倒的に覚えることが少なくてすみます。

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