英語の補語は”主格”と”目的格”のどちらを使う?人称代名詞と疑問代名詞で生まれる違い

照応曼荼羅英文法

英語の代名詞を習うとき、3つの「(case)」に出会いますよね?

  1. 主格(subjective case)
  2. 目的格(objective case)
  3. 所有格(possessive case)

この「(case)」 は文法用語で「名詞の形が変わる仕組み」のことです。

さて、英語の3つの格を実際にみてみましょう👇

  1. 主格(~は、~が)
    主語で使う形
  2. 目的格(~を、~に)
    目的語で使う形
  3. 所有格(~の)
    所有する名詞にくっつけて使う形

もともと古英語(千年ほど昔の英語)では、すべての名詞の形が変化していました。

ですが、現代英語では代名詞だけが変化します。

そのため、英語で「格」のシステムをもつのは、次の2つの代名詞だけです:

  1. 人称代名詞(personal pronoun)
    • 主格: I, you, he, she など
    • 目的格: me, you, him, her など
    • 所有格: my, your, his, her など
  2. 疑問代名詞(interrogative pronoun)
    • 主格: who
    • 目的格: whom
    • 所有格: whose

では、実際に「人称代名詞」の例をみてみましょう。

  • I am here.
    主格I
  • She knows me.
    目的格me
  • He is my brother.
    所有格my

ここまでは教科書でもよく見る「格の三兄弟(主格・目的格・所有格)」 の紹介でした!

そうなると、こんな疑問が湧いてきませんか?

🤔ほんなら補語には、どのを使えばええんかな?

つまりこういうことです:

  • 主語 ⇒ 主格
  • 目的語 ⇒ 目的格
  • 補語 ⇒ 補格??

この疑問って、きっちり答えられない人が意外と多いかもしれません。

でも、大丈夫です!

我らがヒーロー、マリオは迷わずこう言います:

🎮 Yeah! It is me, Mario!

それも全世界に向かって、この自己紹介を続けています!

🤔 me は目的格やから、補語には目的格を入れればええの?

はい、その通りです!

――と、言いたいところですが、英語の格には「不可解な現象」が起きているんです。

その理由は「疑問代名詞」にあります。

実際に例文をみてみましょう:

Who is he?(疑問詞の疑問文)
✅Do you know who he is?(間接疑問文)

どちらも主格 who を使っていますね?

ところが、これが目的語 whom だと――

Whom is he?
❌Do you know whom he is?

このことが意味することは――

🗝️疑問代名詞が補語の場合は「主格(who)」を使う!

ここまでをまとめると――

  • 疑問代名詞の補語 ⇒ 主格(who)!
  • 人称代名詞の補語 ⇒ 目的格(me)!

これは一大事です!

どうやら「補語の格」には大きな秘密が隠されているに違いありません。

というわけで――

ここから「補語の格」を謎解きを一緒に始めていきましょう!

❓英語の「補語」の格はナゾだらけ!

最初の手がかりとして「補語」の定義からスタートしましょう!

英語で「C」は “complement” という「完全にする complete」の派生語です。

つまり補語とは「ただ補う」のではなく――

✅主語や目的語の意味をって完全にする完する

――という意味の文法用語なんです。

英語では、補語を使う位置は2種類あります。

  1. SVC(第2文型)
    • 主語完する
  2. SVOC(第5文型)
    • 目的語完する

そして、この「補語の役割」をカンタンに言うと…

💡「主語」や「目的語」の説明が足りていないときに、それを補って、文の意味を完成させる

では例文をみていきます:

  • She is my friend.
    彼女は ~である 私の友人

主語の説明を補っているのが “my friend補語)です!

次に、目的語を説明する補語を見てみます。

  • They elected him president.
    ⇒ 彼らは 選んだ 彼を 大統領として

目的語の説明を補っているのが “president補語)です!

そして、いま大きなナゾを秘めているは「主語を説明する補語」です。

🚫英単語に「補格」という言葉はない!

まず超基本的なことを確認します。

この英語の言語学用語に・・・「補格」はありません!

その理由はカンタンです!

💡言語学では「〇」と「〇」は対応した用語ではないから!

それゆえ――

😭「補語だから補格があるはず」という推論そのものが成り立たない。

――と、いうのが事実です。

そもそも(case)という用語がラテン語文法をベースにした英文法の言葉です。

それなら、実際にどんな「格」があるのかは、ラテン語をみると一目瞭然です!

  1. 主格(nominative)
  2. 呼格(vocative)
  3. 属格(genitive)
  4. 与格(dative)
  5. 対格(accusative)
  6. 奪格(ablative)
  7. 処格(locative)

いかがでしょうか?

みなさんは「呼」や「奪」なんて聞いたことないですよね?

それもそのはず、最初からこれらは存在しないのですから!

そして、古英語(Old English)にも4種類のがありました。

  1. 主格(nominative)
  2. 属格(genitive)
  3. 与格(dative)
  4. 対格(accusative)

この4つの格はゲルマン語の仲間であるドイツ語でもほぼ同じ使い方です。

さて、ここまでくると「格」の「語」の関係が分かります:

そもそも――

〇語 ⇒ 文中の役割
☑️ 〇格 ⇒ 名詞の形

この2つは日本語での文法用語の使い分けです。

それゆえ――

😭英語やラテン語で「○語」と「〇」が一致するはずがない…

だから所有はあるのに「所有」がないんです。

でも、もしかすると「補格」という用語を日本の英語解説で目にするかもしれません。

そのときに絶対にこのことを覚えておいて下さい👇

英文法の解説で「補格」とあれば――それは個人の創作と考えて間違いないでしょう。

そして、それはラテン語や古英語はもとより、言語学の「格(case)」の定義すら知らない人による創作のはずです。

では、ここから「補語に使う格」の本格的なナゾ解きに進みます!

もともと補語は「主格」だった!?

補語の「格」がややこしいのは現代英語の特徴です。

でも、本当は――

📜古英語の時代には、SVCの補語には「主格」を使っていました!

これは古英語だけのルールではありません。

ラテン語やドイツ語でも、主語とそれを説明する補語は同じ格になるのが基本です。

つまり、英語も少し昔までは次のようでした:

  • It is I.
  • That’s he!

ところが現代英語では…

  • It is me.
  • That’s him!

このように、人称代名詞の補語では目的格を使うのが普通になっています。

ではこの違いを実際に異なる時代の聖書からそれぞれ引用してみます。

まずは初期近代英語の代表作である「欽定訳聖書」からです:

But he saith unto them, It is I; be not afraid.

『イエスが「私です。こわがることはありません」と声をおかけになりました。』

John 6:20 King James Version (KJV)

この時代は主格 nominative なので “I” が補語になります。

では現代英語をみてみましょう:

But he said to them, “Don’t be afraid. It’s me.”

『イエスが「こわがることはありません。私です。」と声をおかけになりました。』

John 6:20 Easy-to-Read Version (ERV)

どうでしょう?

イエスもマリオと同じで “It’s me.” といっていますね?

書かれた時代の異なる聖書ごとに違った表現があるのは、単なる翻訳の違いではありません。

英語の歴史における変化を、しっかりと我々に教えてくれているんです。


そうなると疑問代名詞の格のナゾも解けます:

  • Who is she?
  • Do you know who she is?

どちらも主格 who を使っていますね?

なぜなら、そもそもこれが「主格の基本の使い方」だからです。

つまり――

📜主格 who は古英語の格の名残をそのまま残しているんです。

ところが疑問代名詞の「格」にも大きな変化が起こります!

それは・・・

☑️主格 who が目的格 whom にも置き換わっている!

では、初期近代英語の疑問詞をみていきます:

Jesus therefore, knowing all things that should come upon him, went forth, and said unto them, Whom seek ye?

『イエスは、自分に起ころうとしているすべてのことを知って、進み出て彼らに言われた。「誰を探しているのか?」』

John 18:4 King James Version (KJV)

上の例では、目的格 whom が使われています。

そこから現代英語になると――

Jesus already knew everything that would happen to him. So he went out and asked them, “Who are you looking for?”

『イエスはすでに自分に起こるすべてのことを知っていた。それで、彼は出て行き、彼らにこう尋ねられた。「誰を探しているのか?」』

John 18:4 Easy-to-Read Version (ERV)

なんと主格 who に変わりました!

実際には――

☑️疑問詞の目的格 whom
⇒ フォーマルな場面や書き言葉で使われることが多い

☑️疑問詞の主格 who
⇒ 日常会話やカジュアルな文では、目的語としてもこちらが圧倒的に多い

現代英語では、この使い分けが一般的です。

ではここで、ブログ冒頭で確認したナゾの答え合わせをしましょう。

🤔なぜ人称代名詞「補語」なのに目的格を使うの?

⇒ 現代英語になって「目的格」を使うようになったから!

そして――

🤔なぜ疑問代名詞「補語」なのに主格を使うの?

⇒ もともと SVC の補語には「主格」を使うのが基本だから!

これこそが、英語学習者を悩ませる「補語の格のズレ」なんです。


混乱の原因は「主格」という日本語?!

この補語の格はあまり日本語ではあまり注目されないかと思います。

ところが、英語だとカンタンに区別できてしまうんです!

  1. nominative case
    主語や SVCの補語に使われる
  2. subjective case
    ⇒「主語として使う形」によく使われる

我々がよく知る「主格」は subjective ですが、これは比較的最近になって生まれたものなんです。

その理由は “It’s me!” のようにSVCの補語に目的格が使われ始めたからです。


ところが、ここで大きな問題が起こります。

なんと日本語では、どちらも「主格」と呼ばれてしまいます!

そのため――

😱nominative subjective の区別が消えてしまいます!

その結果、英語の本来の仕組みである――

 ✅SVCの補語には主格(nominative)を使っていた。

――という歴史的事実が見えにくくなっています。

では、この「格」の変化を古英語ドイツ語と比較してみてみます。

現代英語の2種類の代名詞は「格」の使い方にズレが生まれています。

だからこそ、ラテン語にも古英語にもない「格」を生み出す必要があったんです。

そこで現代英語の「格」を整理すると――

  1. 人称代名詞の「主格」
    subjective case(主語専用の形)
  2. 疑問代名詞の「主格」
    nominative case(主語とSVCの補語の形)

――となります!

このように「主格」は主語専用というわけではなく、言語によって対象が変わってきます。

もし主格の意味で困ったときは、英語で用語を調べて――

🤔nominative なのか? それとも subjective なのか?

――をぜひチェックしてみて下さい!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

まさか「主格」に2つの英単語で区別されているなんて思いもよりませんよね?

さらに、その違いが現代英語の「補語」にも大きく影響しているとなると猶更です。

いずれにしても「補語の格」はナゾは完全に解けました!

では、これにて――

🕵️‍♂️Case closed.(一件落着)

ではまた、別のブログでお会いしましょう!

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