英語の授業で「比較級」って習いますよね?
英語で「比較 comparison」というと、形容詞や副詞の程度を比較することになります。
ですので、形容詞や副詞に2パターンの変化をつけます!
- 短い単語には –er をつける
- tall ⇒ taller
- fast ⇒ faster
- 長い単語には more をつける
- beautiful ⇒ more beautiful
- beautifully ⇒ more beautifully
『はい、覚えました!カンタンやん!』
…と、思ったら──
え?2音節の単語は「–er」と「more」のどちらでもいい?
- cleverer
- more clever”
この clever の場合はどっちでもOKなんです。
『ホンマに英語ってそんなテキトーでええの?』
さらに英語を勉強していくと、ラテン比較級「–ior to」なんていう謎の表現が出てきます。
- He is superior to me.
- This offer is inferior to the last one.
ラテンってなにそれ?ブラジルとか関係あるの?
それに「比較には “than“を使いましょう~」って聞いてたのに、 “to“をつかうですと!?
『もうエエわ!英語の勉強やめるわ~😫💢』
・・・となってしまう人が続出しても仕方がありません。
でも、ご心配なく!
このナゾは、英語の歴史によって解き明かすことができるんです!
🤔なんで英語の比較って「–er」「more」「-ior to」の3種類あるんやろ…?
こんな英語の疑問に、今こそ終止符を打つとしましょう!
英語の歴史が3種類の比較を生んだ!
英語を学び始めたら、まず知っておきたい事実があります。
そもそも英語そのものが、いくつもの言語の特徴をもつハイブリッド言語なんです。
では「英語の歴史」を軽くまとめてみますね:

ここでポイントになるのが「古英語 ⇒ 中英語」への変化です。
もともと古英語(Old English)はもともとドイツ語やオランダ語と近いゲルマン語グループの言語です。
そこから中英語(Middle English)の時期に、フランス語を通じて、ラテン語の特徴を受け継ぐロマンス語グループの特徴が大量に入り込むことになります。
もともとフランス語は、古代ローマ帝国の言語であるラテン語(Latin)が、民衆のあいだで使われるうちに変化した「俗ラテン語(Vulgar Latin)」から発展したロマンス語グループに入る言語です。
この2つの言語グループををカンタンに言い換えると・・・
- ゲルマン語(Germanic languages)
⇒ バイキングやゲルマン民族が使っていた「北ヨーロッパの言葉」 - ロマンス語(Romance languages)
⇒ ローマ帝国の領土で話されていた「ラテン語の子孫にあたる言葉」
英語と近いヨーロッパ言語は、だいたいこの2つに分かれます:

中英語に起きた変化の大きなきっかけは、1066年の「ノルマン人征服(Norman Conquest)」にあります。
古フランス語(Old French)を話していたノルマン人が、古英語がつかわれていたイングランドを征服してしまったんです!

これによって、フランス語が王や貴族の話す「公用語」となり、英語は民衆の言葉として低い地位に追いやられしまいます。
そして時間をかけて、2つの言語グループの特徴が大きく混じりあうことになりました。
- 古英語はもともとゲルマン語なのでドイツ語と似ている!
- 中英語はフランス語の影響でロマンス語の特徴を取り込む!
- 中英語ではラテン語もそのままたくさん入ってきた!
そしてなんと──この歴史の流れが、3種類の比較表現とぴったり対応しているんです!
では、英語の歴史と比較をまとめてみましょう:
- 古英語ではもともと、ゲルマン語 -er を比較に使っていた!
- 中英語の時期に、ロマンス語の影響で more を比較にも使うようになった!
- さらにラテン語 -oir もそのまま取りこんだ!
実際にこの3つの言語は、英語の比較を理解するうえでポイントになります。
では、英語 Wikipediaの比較表現の解説を見てましょう。
Comparatives and superlatives may be formed in morphology by inflection, as with the English and German -er and -(e)st forms and Latin‘s -ior (superior, excelsior), or syntactically, as with the English more… and most… and the French plus… and le plus… forms.
『比較級や最上級は、まず単語を変化させて(形態論=morphology)で作る方法があり、例としては、英語やドイツ語の -er / -est や、ラテン語の -ior (superior, excelsior)になります。そして、もう一つ、単語を組み合わせて(統語論=syntax)作られる方法で、英語の more / most、フランス語の plus / le plus があります。』
Degrees of comparison of adjectives and adverbs – Wikipedia
サクッとまとめると「比較の表現には2タイプある」という意味になります!
- 単語を変化させるタイプ(-er/-est)
⇒英語、ドイツ語、ラテン語 - 単語を連携させるタイプ(more ~/most ~)
⇒英語、フランス語
英語はこのどちらも採用している言語になります。
…というわけで、ここからが本番です!
英語のもつゲルマン語とロマンス語そしてラテン語の比較表現を学んでいきましょう!
これぞゲルマン魂!-er/-est
英語の比較表現(comperasion)といえば、まずこれです!
- 原級:strong
- 比較級:stronger
- 最上級:strongest
英語の授業で「短い単語には -er / -est をつけましょう!」と習ったはずです。
この形容詞や副詞の変化こそ、ゲルマン語グループの比較表現の王道パターン!
さらになんと昔の英語では、このパターンが主流だったんです!
つまり古英語(Old English)の時代、比較級と最上級は・・・
単語の長さや音節の数に関係なく、-ra / -ost(現代英語の -er / -est) をバシバシつけていました!
たとえばこんなふうに:
- strang(強い)→ strangra(より強い)
実際に Wikibooks にある古英語の比較の解説をみてみましょう!
In Old English, all comparative adjectives were declined according to the weak declension – no matter what. The comparative degree was usually formed with the suffix “-ra“. The superlative degree (“most”) was usually formed by adding the suffix “-ost/-est” to an adjective.
『古英語では、すべての比較級の形容詞が「弱変化(形容詞の変化パターンの一種)」に従って変化しました。これはどんな単語でも例外なく適用されていました。比較級は、通常「-ra」を形容詞の語尾にして作られます。そして最上級は、「-ost」または「-est」を形容詞の語尾にして作るのが一般的でした。』
Old English/Adjectives – Wikibooks
いかがでしょうか?
現代英語とは違う、この古英語の比較こそが正統派のゲルマン語文法なんです!
🟨ドイツ語の比較表現
古英語(Old English)は、もともとゲルマン語に属する言語でした。
この伝統は今でも、兄弟ともいえる言語であるドイツ語(German)に残っています!
まずドイツ語では、比較級に -er そして、最上級に -sten を語尾につけるというスタイルが基本です。
ドイツ語の場合、単語のスペルや使用状況により形が若干変化しますが、英語とよく似た変化です。
たとえば:
- 原級:kalt(冷たい)
⇒英語 “cold” - 比較級:kälter(より冷たい)
⇒英語 “colder” - 最上級:kältesten(最も冷たい)
⇒英語 “coldest”
これなら英語と同じですが、ここからがドイツ語の本領発揮です!
ドイツ語では、どれだけ単語が長くても -er / -sten を堂々と使います!
では英語の interesting にあたる interessant を見ていきます
- 原級:interessant(興味深い)
- 比較級:interessanter(より興味深い)
- 最上級:interessantesten(最も興味深い)
これぞゲルマン魂!ドイツ語では interessantesten のような6音節を超える長さでも、語尾変化だけで乗り切ります!
ここで、ほかのゲルマン語にもすこし目を向けてみましょう!
オランダ語やデンマーク語(北西ゲルマン語の仲間)では、英語のように「単語の変化タイプ(-er/-est)」と「単語の連携タイプ(more/most)」の混成型が多く見られます。
ただし、その使い分けが、言語によってもバラバラなのが現状です。
もしかすると英語の “more interesting” を見るたびに、ゲルマン語の祖先たちはちょっと複雑な顔をしているかもしれません。
それだからこそ、ドイツ語と古英語の関連性がいっそう輝いて見えるのです!
私のレッスンでも時折、ドイツ語を参考にしますが『英文法の基礎がよくわかる!』とかなり好評です。
ロマンス語の風!more/most
ここから中英語で生まれた more/most の比較表現をフランス語と比べて見ていきましょう!
もともとこれらは古英語では「数量を意味する形容詞や名詞」でした。
- more(現代英語)⇒ māra(古英語)
- most(現代英語)⇒ mæst(古英語)
だからこんな使い方をしていました:
- We need more time.
(私たちはもっと時間を必要としている)- Most people don’t eat it.
(ほとんどの人はそれをたべない)
つまり形容詞や副詞とペアを組む比較表現ではなかったんです。
ところがイングランドを征服したノルマン人がフランス語を話していたことで、英語も影響を受けることになります。
フランス語には、形容詞を修飾する比較として次のような表現があります。
- plus intelligent(より賢い)
⇒ 比較級:plus + 形容詞- le plus rapide(最も速い)
⇒ 最上級:le plus + 形容詞
この「plus + 形容詞」というフランス語の比較が取り込まれ・・・
- plus ⇒ more
- le plus ⇒ the most
・・・のようにロマンス風の表現として more/most が登場するようになったのです!
中英語の時代には、多くのロマンス語タイプの単語が入ってきました。
英単語として使われるようになったとはいえ、そもそもロマンス語の形容詞に -er/-est をつける習慣はありませんでした。
それゆえ more/most を使うほうがスムーズに移行できたようです。
🟦フランス語の比較表現
ではここからフランス語の比較級と最上級をもうすこし見ていきましょう!
まずフランス語の比較級ですが、英語よりもはるかにわかりやすいです!
- plus ~ que(より多い)
⇒英語:more ~ than - moins ~ que (より少ない)
⇒英語:less ~ than - aussi ~ que(同じだけ)
⇒英語:as ~ as
わざわざ than や as を使い分けずに que を使えばいいんです!
もちろん単語の長さに関係なくこのパターンで使えます(*一部例外あり)
- Il est plus grand que moi.
(He is taller than me.)- Elle est plus intelligente que moi.
(She is more intelligent than me.)
どうでしょう?わかりやすいですよね?
ちなみに「よい多い・よい少ない」の2つ語源はラテン語に由来します。
とはいっても、みなさんおなじみの計算記号です!
- ラテン語:plus(プラス “+”)
⇒フランス語 “plus” でそのまま使用 - ラテン語:minus(マイナス “-“)
⇒フランス語 “moins” へ変化
ちなみにラテン語は計算記号だけでなく四則演算の英単語の由来にもなっています。
つぎに最上級は定冠詞(英語の the)をつければOKです!
フランス語の名詞には男性形・女性形の区別あるので、それに合わせて定冠詞と形容詞も変化します。
- 男性名詞・単数形:
⇒ Il est le plus grand.
(He is the tallest.)- 女性名詞・単数形:
⇒ Elle est la plus grande.
(She is the tallest.)
これが複数形になると定冠詞は les になり、形容詞も複数形になります。
やっぱり英語と比べても、フランス語の比較のほうがシンプルですよね?
ゲルマン語でも more/most タイプが増えているのは、わかりやすいからという理由が大きいからでしょうね。
ローマに栄光あれ!ラテン比較級 -ior
さて英語にはもうひとつ、more でも -er でもない比較級がありますよね?
それがラテン比較級(-ior)と呼ばれるグループです:
- superior to(〜より優れている)
- inferior to(〜より劣っている)
- senior to(より年上)
- junior to(〜より年下
これらの語尾 -ior は、なんと ラテン語の形容詞の比較級そのままなんです!
ラテン語では名詞の性別 “gender”(男性・女性・中性)により形容詞が変化します。
ではラテン語の比較級と最上級を見ていきましょう!
- 男性形:–ior / –imus
- 女性形:–ior / –ma
- 中性形:–ius / –imum
では実際に原級の語尾を入れ替えて比較級をつくってみます。
- superus ⇒ superior
- inferius ⇒ inferior
このように英語のラテン比較級は男性形・女性形の形容詞変化だったんです!
ほかにも英語には -ior を含むラテン語源の単語があります。
- prior to(〜より以前に)
- posterior to(〜より以降に)
- interior(内側の)
- exterior(外側の)
もともとラテン語の比較級は「語尾変化」で表すゲルマン語スタイルだったんです!
これがラテン語からロマンス語(フランス語やイタリア語など)に変化するにつれ、副詞 plus を使うようになっていきました。
ではこれを歴史の流れで整理してみます:
- 古典ラテン語(Classical Latin)では「変化タイプ(-ior)」が主流!
- 俗ラテン語(Vulgar Latin)になり、口語では変化タイプが崩れていく。
- ロマンス語ではそれに代わって「副詞 plus + 原級」が基本になった!
英語のほかにも、いろいろな言語で2タイプの比較が、歴史の流れで変化しているんです。
🟥ラテン語の ”ad” が英語の to
ラテン比較級で最後のナゾが残っています!
それは…
なんでラテン比較級は to を than の代わりに使うの?
…ということです。
まずラテン語には前置詞 ad があり、これが方向を意味する前置詞 to とよく似た使い方をするんです。
実際に英語 Wiktionary のラテン語 ad の使用例の1つに「比較(comparison)」が載っています。
1.(direction) toward, to
9.in comparison with, in comparison to, in relation to
(*2~8は省略します)
ad -Wkitionary
この比較での使用法(ad ⇒ to)が、英語にも引き継がれたと考えられています。
そのため比較級でなくても比較の意味には to を使うことがよくあります。
- similar to(~と似ている)
- equal to(~と等しい)
ここで注意ですが、ラテン語の比較級は ad(前置詞)ではなく quam(疑問詞から派生)を使うのが基本です。
これはフランス語でも同じで que(疑問詞から派生)を使います。
- 英語:比較級 + than + 比較対象
- ラテン語:比較級 + quam + 比較対象
- フランス語:比較級 + que + 比較対象
ところがフランス語でもラテン比較級の場合は、前置詞 à(語源は ad から)と一緒に使います。
では、英語とフランス語のラテン比較級を見てみましょう:
英: This is superior to that.
仏: Ceci est supérieur à cela.
⇒ これは より優れている ~に対して あれ。英: This is inferior to that.
仏: Ceci est inférieur à cela.
⇒ これは より劣っている ~に対して あれ。
ラテン比較級は、見た目(-ior)だけでなく方向の前置詞 ad の意味も、英語やフランス語に引き継がれているんです。
さて英語に3種類の比較がある理由はお判りいただけたでしょうか?
よくわからない表現ほど、英語のハイブリッド言語としての成り立ちがあるんです。
もし英文法を詳しく知りたいなら、英語の言語としての成り立ちを歴史から学んでみませんか?
そうすれば英語の理解が宇宙のように大きく広がっていくと思います。
ちょっとユニークな英語塾
志塾あるま・まーたは、英語が苦手な方でも楽しく学べるオンライン英語塾です。
高校を半年で中退した塾長が、アメリカ留学中にエスペラント語と出会ったことをきっかけに、ゼロから“世界で通用する英語力”を習得できました。
その学び方をベースに、統語論(Syntax)と意味論(Semantics)を組み合わせた独自の指導法を展開しています。
生成AI ChatGPT に論理的推論や自由な発想の展開をしてもらうための、英語でも日本語でも可能にするプロンプトの作り方も一緒に学んでいきます。
さらにラテン語などヨーロッパ系言語の知識や、古英語・中英語を含む英語史の視点も取り入れた、ちょっとユニークで本格派な英語学習法をご紹介しています。
あるま・まーたの英語の学び方に興味を持っていただけたなら、ぜひお問い合わせください。
ブログの感想や英語の疑問・質問などでもお気軽にどうぞ!