歴史の教科書などでも「皇帝と王は特に説明なしに使われています。
ですが実際にどう違うのかはよく知らない方も多いのではないでしょうか。
英語では emperor = 皇帝、天皇 や king = 王、国王 となりますが、実際には細かい違いがあります。
まず漢字文化における皇帝と王の違いは、中国の歴史と価値観を知るとわかります。
そして英語の 皇帝(emperor) と王(king) の違いはヨーロッパの歴史とキリスト教を知るとわかります。
中国史は知っているからヨーロッパの皇帝(emperor) と王(king) の違いが知りたいという方はこちらをどうぞ。
西洋史も中国史もよくわかっているので、日本の天皇が英語でエンペラーという理由が知りたいという方はこちらをどうぞ。
それでは emperor と king の説明は西洋史の話が入ってくるので、まずわかりやすい漢字で表せる中国における皇帝と王の違いの解説から始めます。
中国の皇帝と王
まずは王ですが、これは中国の価値観では「正統なる支配者」という意味で使います。
もともとは中国の古代王朝である殷・周王朝の君主(monarch)の称号でしたが、戦国時代(warring states period)に入り各地域の支配者が覇を競うようになると、皆がそれぞれ「王」を名乗ります。
その後、戦国時代を秦王である政が中国を統一します。この政というのがいわゆる始皇帝です。
皇帝というのは始皇帝により初めて使われた称号で「王の中の王」という意味で、王よりも新しい言葉です。
では皇帝はどこからきたかというと、中国の伝説上の三皇五帝と呼ばれている偉大な8人の支配者に由来します。
彼らは人間を生み出したり、人間に文化や技術を教えたりと、中華文明の創始者のような存在です。
この三皇五帝から始皇帝が中国全土の支配者である自らの称号として「王の中の王」を意味する皇帝をつくりました。
天子は皇帝、 皇帝は天子
さらに中華世界の支配者である皇帝は天子(てんし Son of Heaven)と同じ意味で使われます。
- 天子: 天帝から認められた全世界の支配者
- 皇帝: 様々な国をまとめる統治者
中国の思想では天帝というキリスト教の God のような絶対者がおり、「虎の威を借る狐」という戦国策(Strategies of the Warring States)のお話にも登場します。
狐が虎に出会って、食べられそうになった時に、虎に向かってこう言います。
天帝使我長百獣(天帝、我をして百獣に長たらしむ)
戦国策
「天帝は私を百獣を率いるようにしたのだ。」
そして次にこういいます。
「疑うのであれば、私の後ろについてこい。皆、私に恐れをなして逃げるだろう。」
戦国策
動物たちが逃げ去るのを見て、虎は狐を畏れた、という内容です。
その絶対者たる天帝による命令、つまり天命(mandate of heaven)によって地上世界の正統なる支配者と認められた天子が皇帝として様々な国々をまとめてその上に君臨することになります。
結局、天子であれば皇帝であり、逆もまたしかりですので、ほぼ同じ意味になるというわけです。
聖徳太子から隋の煬帝(ようだい)へと遣唐使により渡された手紙には「日の出づる国の天子より~」と日本の天皇のことを「天子」と書いてありました。
そのことが世界の支配者である中国の皇帝と同ランクの称号としたことが煬帝を激怒させた、と伝わっています。
さながら「倭人(チビの日本人)に生意気にもタメ口を言われた!!!」という感じでしょうか。
ちなみに「皇帝 ⇔ 天子」のように2つの称号を一人の人物だけがもつようなことは、実際に現代のアメリカでもあります。
アメリカ大統領(The US President)である人物は、米軍総司令官(Commander in Chief)でもあるのです。
中国からみた「国王」とは?
王には「正統なる支配者」という意味がありますが、皇帝という言葉が生まれて以降は少し違ったものになっていきます。
中華世界における「○○国王」というのは「○○国の支配者として皇帝に認められたもの」という意味になり、実質上は中華帝国の地方領主のようなイメージを持つ言葉です。
ちなみに足利義満は日本国王という称号を中国よりもらっています。
そもそも明(Ming Dynasty)は自分たちの臣下とならない国との貿易を認めていませんでした。
そこで足利義満は日明貿易のために外交の舞台として荘厳華麗に作り上げた金閣寺で日本国王の称号を受け取りますが、そのせいで朝廷からは「日本を属国にした!」と批判を受けます。
しかし日本は天皇が名目上はトップなので、あくまで天皇の部下の将軍が日本国王ですよ、という理屈も使えるわけです。
日本が中国に服属していた歴史はありませんよ、というロジックです。
もちろん中国側がどこまで日本の裏事情を把握していたかはわかりませんが。
支配者は「王者」と「覇者」の2タイプ
皇帝という言葉が使われる以前の春秋時代では「王者」が「天から徳を認められた正統なる支配者」という意味でつかわれています。
一方で「覇者」という言葉が「徳ではなく武力にたよった支配者」という意味で存在します。
孟子(もうし Mencius)の言葉にもこうあります。
「不仁にして国を得るものは、これあり。不仁にして天下を得るもの、いまだこれなし」
「天下心服せずして王たるものは、これあらざるなり」
国という枠組みではなく、天下という大きなスケールで人を治めるには「徳」が必要といっています。
これは中国の道徳の規範ともいえる儒教(Confucianism)における基本原理でもあります。
三国志では、劉備(Liu Bei)が徳によってさまざまな有能な人材を引き寄せて蜀(Shu)という国をつくり、漢王朝(Han Dynasty)の末裔であり、血統においても正統性をもつ者としてひいき目に描かれています。
しかし一方で、魏(Wei)の建国者であるライバル曹操(Cao Cao)は徹底した能力主義・成果主義を用いたせいか、冷酷なイメージで描かれています。
実質的に中央で権勢をふるう曹操(Cao Cao)よりも劉備がよいイメージで描かれるのは、この「王者と覇者」のイメージを中国では意識しているからであると思います。
ただ水滸伝を読んでいると、「目標のために手段を選ばず!」というタイプはけっこうたくさんいて、日本人にはあまり共感できない人も多いです。
とはいえ、大陸で多くの異民族との戦いを経てきた中国では、それこそ孫子(Sun Tzu / the Art of War)にあるような「生き残りのために必要な冷徹な策」なのかもしれません。
それでは次回はヨーロッパに舞台を移して「emperor 皇帝 と king 王 の違い」を解説します。
その際に「皇帝」「王者」「覇者」の違いを分かっていると理解がスムーズです。
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