英語には「動詞のING形」である doing や being などがたくさんでてきます。
おそらく日本の学校で一番初めに出会うのは「現在進行形」と呼ばれる文章だと思います。
- He is running in the park.
- 彼は公園を走っている。
同じく動詞のING形には「動名詞」も登場します。
- Running in the park is fun.
- その公園で走ることは楽しい。
この2つの和訳をみると違いがあるようです。
- 進行形:~している
- 動名詞:~すること
さらに動詞のING形にはまだほかにも用法があります。
一般的な日本の英文法の項目でみるとこれだけあります。
- 現在進行形 present progressive
- 過去進行形 past progressive
- 動名詞 gerund
- 現在分詞 present participle
- 分詞構文(分詞節) participle clause
動詞のING形は、形はみんな同じなのにいろんな言い方があります。
文法用語も学習する学年もバラバラなので混乱してしまうと思います。
では一つ一つナゾを解いていきましょう。
見た目が同じでも ING形は3種類
動詞のING形は見た目は同じですが、用語の違いがあります。
その理由の1つは、英単語にセットされている「品詞」の仕組みにあります。
英文法における「品詞 part of speech」とは「英単語が所属するグループ」のことです。
英語の辞書を見れば、英単語のすぐ隣に以下のような「品詞」が載っているはずです。
- 名詞 noun
- ラテン語 nomen に由来
- 動詞 verb
- ラテン語 verbum に由来
- 形容詞 adjective
- ラテン語 adiectivum に由来
- 副詞 adverb
- ラテン語 adverbuim に由来
英語の文法用語はラテン語(ローマの言語で昔のヨーロッパの共通語)に由来するのでなじみにくいです。
一方で、日本語の文法用語では「○詞」と表現されているのでわかりやすいです。
漢字の意味を活かした和訳を作ってくれた先人たちに感謝です。
さて英文法の仕組みでは、品詞ごとに英文での「使用ルール」が決まっています。
すこし「品詞」の仕組みの例を見ていきます。
- 主語や目的語などで使える品詞 ⇒ 名詞
- 文の構造(五文型)を決める品詞 ⇒ 動詞
- 名詞に情報を追加する品詞 ⇒ 形容詞
- 文章の基本部分でないところに情報を追加する品詞 ⇒ 副詞
- 名詞とつなげて時間・空間の情報を追加する品詞 ⇒ 前置詞
- 同じ品詞や文章同士をつなげる品詞 ⇒ 接続詞
このように品詞によって「別々の機能」を発動させられます。
この品詞の基本の仕組みはラテン語も英語もあまり変わりません。
そのため英文法用語をラテン語から借りて使用することができるんです。
もちろんドイツ語やフランス語などヨーロッパ系言語の文法用語もラテン語がベースになっています。
- 名詞
- nōmen(ラテン語)
- noun(英語)
- nom(フランス語)
- Nomen / Substantiv(ドイツ語)
- 動詞
- verbum(ラテン語)
- verb(英語)
- verbe(フランス語)
- Verb(ドイツ語)
- 形容詞
- adiectivum(ラテン語)
- adjective(英語)
- adjective / adjectif(フランス語)
- Adjektiv(ドイツ語)
- 副詞
- adverbium(ラテン語)
- adverb(英語)
- adverbe(フランス語)
- Adverb(ドイツ語)
このように品詞の仕組みは英語とその仲間の言語でも超基本ルールです。
ではここから品詞の仕組みをING形の理解に応用してきます。
ING形 の品詞は3つ
さて英単語には「見た目は同じ」でも、別々の「品詞」がセットされているものがあります。
このような単語を「多義語 polysemy」といい、英語には多義語がたくさんあります。
つまり英語には「見た目は同じ」でも「品詞が異なる」ため「意味が違う」という単語がたくさんあるということです。
では具体例として英単語 well を使って多義語の特徴をみてましょう。
- 英単語 well
- 名詞 noun:井戸
- 動詞 verb:(水などが)湧く
- 形容詞 adjective:健康な
- 副詞 adverb:上手に、うまく
見た目は well でも品詞が違うと全然違う意味になります。
この多義語の仕組みは「動詞のING形」も全く同じです。
見た目は同じ ING形でも、複数の「品詞」がセットされているんです。
つまり ING形の「意味」も「使い方」も「品詞」で変わるというわけです。
ここから「品詞」を基準にして「動詞のING形」を整理してみましょう。
- 動名詞 ⇒ ING形を「名詞」として使う
- 現在分詞 ⇒ ING形を「形容詞」として使う
- 分詞構文 ⇒ ING形を「副詞」として使う
つまり「動詞のING形」の使用ルールは「名詞・形容詞・副詞」の3種類にまとまります。
ちなみに進行形は「be動詞+現在分詞」を使ったパターンになります。
そのため「進行形」は「形容詞用法」の一つとして解釈できます。
- He is nice.
- 動詞 is
- 形容詞 nice
- He is running.
- 動詞 is
- 現在分詞 running(形容詞用法)
ではなぜ「進行形」という特別な用語がついているのでしょうか?
後ほど、ただの現在分詞の文に「進行形」という名称が存在する理由を解説いたします。
ここでは「進行形」を特別扱いする必要はないことだけご確認ください。
ING形の用語がバラバラな理由
ここまでで「ING形」を3つの品詞にわけて運用できることがわかりました。
ところが「ING形」の英文法用語はバラバラです。
- 現在進行形 present progressive(中学)
- 過去進行形 past progressive(中学)
- 未来進行形 future progressive(高校)
- 動名詞 gerund(中学)
- 現在分詞 present participle(中学)
- 分詞構文(分詞節) participle clause(高校)
これには理由があります。
なぜなら英語の歴史の中で「動詞のING形」は、もともとは違う形をしていたからです。
つまり「別々の機能」をもつ「別の形」だったので「別々の名前」がついています。
1000年ほど前の英語は「古英語 Old English」といって「現代英語 Modern English」の単語よりももっと複雑な形をしていました。
一番わかりやすい例が、be動詞で、古英語からの特徴を受け継いでいます。
- be / am / are / is / was / were / being / been
わけのわからないスペルの変化パターンがたくさんあるのはそのためです。
動詞の不規則変化で苦労された方は多いと思いますが、これが古い英語の名残でもあります。
別の見方をすると、不規則変化動詞は英語やドイツ語の歴史に触れる瞬間でもあるんです。
さて古英語の動詞はデフォルトでかなり複雑な変化をします。
実は be動詞こそが昔ながらの英語の動詞のパターンを一番ちゃんと受け継いでいる動詞なんです。
古英語の動詞の変化形に興味のあるかたはこちらをどうぞ。
では古英語の動詞の形を参考にして ING形をみていきます。
動名詞 & 現在分詞
英語の ING形の元の形は2つだけです。
- 動名詞 gerund
- 古英語の「動詞+ing もしくは ung」から生まれた形
- 「名詞」で使用する
- 古英語の「動詞+ing もしくは ung」から生まれた形
- 現在分詞 present participle
- 古英語の「動詞+ende」から生まれた形
- 「形容詞」で使用するのが基本
- 「副詞」で使用すると「分詞構文(分詞節)」と呼ばれる
- 古英語の「動詞+ende」から生まれた形
もともと ING形は「動名詞」と「現在分詞」からの派生して同じ形になりました。
これらはもともと別の形だったので、意味も違っていました。
- 動名詞 gerund
- 動詞を「名詞」として使用するための形
- 完全な名詞として使うのが基本
- 現在分詞 present participle
- 動詞が「進行相(~している)」を発動するための形
- 名詞につなげる(修飾)する使い方が基本(限定用法)
これら2つが最終的に「doing / being」のような同じ形にまとまりました。
そのため見た目では見分けられません。
そうなると「名詞」と「形容詞」それぞれの使用ルールにあわせて解釈することになります。
ところが使用する3パターンは古い名前のまま現代英語に残っているというわけです。
- ING形の名詞用法:動名詞 gerund
- ING形の形容詞用法:現在分詞 present participle
- ING形の副詞用法:分詞構文 / 分詞節 participle clause
ここから英語の英文法用語の由来について少し見ていきます。
この gerund や participle というのはラテン語の文法用語に由来します。
ほぼすべての英文法用語は昔のヨーロッパの共通語だったラテン語に由来します。
そのため日本語の文法用語だけみていても、英文法用語の意味はよく分からないと思います。
- 動名詞:動詞を名詞として使う形
- gerund(英語)
- gerundium(ラテン語)
- 分詞:動詞を形容詞(もしくは副詞)として使う形
- participle(英語)
- participium(ラテン語)
現代英語の場合は見た目がすべてING形にまとまっています。
しかし昔の英語でもラテン語でも「動名詞」と「現在分詞」は別の意味で、別の形をしていました。
ING形の語源は英語 Wikipedia をご参考ください。
現在分詞の「現在」の意味
ここで現在分詞の「現在 present」という用語について注意点があります。
紛らわしい話ですが、現在分詞の「現在」は「現在時制」や「時間」とは全く関係ありません。
なぜなら「現在分詞」は「過去分詞と対応する分詞」として命名された経緯があるからです。
そして「現在分詞」の機能は「進行相 progressive aspect(~している)」といいます。
文法用語の「相 アスペクト Aspect」は「行動の進行度」を意味する用語です。
現在分詞の用語の由来を知りたい方はこちらをどうぞ。
分詞構文(分詞節)
現在分詞は形容詞として使うのが基本です。
しかし現在分詞は「副詞 adverb」としても使うことができます。
その場合は「分詞構文 / 分詞節」という言い方をします。
ここでいう「副詞」は難しく考えなくても大丈夫です。
英文法において「副詞」とは「おまけ要素(SVOC に入らない)」という意味です。
文の要素 SVOC には「名詞・動詞・形容詞」を使います。
これらは特に使用ルールの厳しい品詞でカンタンに使うとダメなんです。
そんな厳しいルールが設定されておらず、ゆる~く使っていいのが副詞です。
ゆる~い副詞の使い方についてはこちらをどうぞ。
さて ING形の使い方は3種類で「名詞・形容詞・副詞」です。
つまり分詞構文(分詞節)とは「名詞でも形容詞でもないING形」と考えればいいだけなんです。
では名詞(動名詞)と形容詞(現在分詞)の使い方をおさらいします。
名詞の使い方は4種類です。
- 主語(Subject)になる
- 補語(Complement)になる
- 目的語(Object)になる
- 前置詞とペア
形容詞の使い方は2種類です。
- 補語(Complement)になる
- 名詞を説明(修飾 modify)する
上記にパターンにハマらないものが分詞構文というわけです。
ちなみに「分詞構文」という用語は日本の英文法でよく使われるものです。
英語では participle clause といって「分詞節」という言い方が一般的です。
- 分詞構文(日本で一般的な用語)
- 分詞節(英語で一般的な用語の和訳)
英語で「分詞構文」を勉強されるときは participle clause という用語で調べて下さい。
これで動詞のING形の用法は3つの品詞で使えばよくなりました。
では最後の仕上げで「進行形」を消しさりに行きましょう。
進行形は「複合時制」
さて現在進行形と過去進行形は「現在分詞」の用法でした。
実は「進行形」は英文法になくてもよい用語なんです。
文法解釈では「進行形」は「be動詞 + 現在分詞(形容詞)」で表現する形です。
- I am doing it.
- am ⇒ be動詞の現在形
- doing ⇒ 現在分詞
- I was doing it.
- was ⇒ be動詞の過去形
- doing ⇒ 現在分詞
英語の「○○進行形」は「複合時制 compound tense」という時制の解釈の一つです。
そのため日本では「まとめて動詞 V」とされるものが多いです。
その結果として五文型の解釈がグチャグチャになります。
日本の英文法解説だとこういう整合性の取れない解説がよくあると思います。
なぜなら「複合時制」はラテン語にあわせた昔の英文法の解釈だからです。
私の視点では、ラテン語を英語に翻訳するのであれば、複合時制はそれなりに便利です。
フランス語やスペイン語などラテン語とよく似た動詞の仕組みの言語でも便利です。
しかしゲルマン語のドイツ語や英語ではラテン語の文法では都合のよくないことが起きてしまいます。
では実際に英語の Wikipedia から引用します。
In the traditional grammatical description of some languages, including English, many Romance languages, and Greek and Latin, “tense” or the equivalent term in that language refers to a set of inflected or periphrastic verb forms that express a combination of tense, aspect, and mood.
『英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ギリシャ語とラテン語などを含む言語の伝統的な文法的解釈(ギリシャ語やラテン語をベースにした文法)では「時制 tense」もしくは「時制と同じ意味合いで使用される用語」が示しているのは「時制(tense)・相(aspect)・法(mood)」の組み合わせで表現される動詞とその変化形をひとまとめにしたグループのことである。』
*時制・相・法などの機能を動詞が変化して発動する仕組みを「動詞パラダイム verbal paradigm」と呼びます
Tense-aspect-mood – Wikipedia
この「動詞パラダイム」は「動詞」のもつ機能を発動する仕組みのことです。
似た用語では「活用 conjugation」がありますが、こちらは「動詞を変化させること」に重点があります。
一方で、動詞パラダイムは「動詞とその仲間を変化させたり、組み合わせたりするシステム」という違いがあります。
現在分詞のもつ「進行相 progressive aspect」は動詞パラダイムの機能に入ります。
こういった動詞とその仲間を変化させて発動する機能は「文法カテゴリー grammatical category」とも呼ばれています。
英語学習の難敵である「仮定法 subjunctive mood」や「受動態 passive voice」もこの動詞パラダイムの機能(文法カテゴリー)に入ります。
詳しく知りたい方はこちらの解説をどうぞ。
動詞パラダイム:時制+進行相
では動詞パラダイムの仕組みを「進行形」の解釈に使用してみましょう。
この「進行形」のケースでは「時制」と「相」の連携表現という解釈がとられます。
まず「時制」と「相」を解説します。
- 時制 テンス Tense:
- 話し手からみて行動がいつ起こったのかを示す
- 相 アスペクト Aspect
- 行動がどの程度まで進んでいるかを示す
そしてこの2つにさらに細かい分類が存在します。
- 時制 テンス Tense:
- 現在時制(実際には非過去時制)
- 動詞の現在形で発動
- 過去時制
- 動詞の過去形で発動
- ✖ 未来時制(厳密には英語に未来時制はありません)
- 英語の動詞に未来形が無い
- 現在時制(実際には非過去時制)
- 相 アスペクト Aspect
- 未然相 Prospective Aspect
- 行動が予定されている ≒ まだ進行していない
- to 不定詞で発動
- to do / to be
- 進行相 Progressive Aspect
- 行動が進行している ≒ まだ完了していない
- 現在分詞で発動
- doing / being
- 完了相 Perfect Aspect
- 行動が完了している ≒ いつ完了したかは関係ない
- 過去分詞で発動
- done / been
- 未然相 Prospective Aspect
上にあるように現在分詞は「進行相(行動が進行している)」を発動することが可能です。
多くのヨーロッパ系の言語でも現在分詞の機能は「現在時制」ではありません。
ちなみにスペイン語で「現在分詞」と呼ばれるものにヘルンディオがあります。
このヘルンディオの基本的な機能も「進行相」です。
そして英語の「〇〇進行形」の構造は「be動詞 + 現在分詞」の連携プレーです。
それゆえ「〇〇進行形」の動詞パラダイムは「時制+進行相」を意味します。
では英語の動詞にある2つの時制をそれぞれ見ていきます。
- I am doing it.
- am ⇒ be動詞の現在形
- 現在時制(非過去時制)を発動
- doing ⇒ 現在分詞
- 進行相を発動
- am ⇒ be動詞の現在形
- I was doing it.
- was ⇒ be動詞の過去形
- 過去時制を発動
- doing ⇒ 現在分詞
- 進行相を発動
- was ⇒ be動詞の過去形
このように「進行相」は必ず「時制」と一緒に意識しなければなりません。
なぜなら現在分詞は「進行相」を意味する形容詞であり、時制は動詞でしか表現できないからです。
現在進行形の仕組みや五文型の解釈を知りたい方はこちらをどうぞ。
英文法にはいろいろな解釈が可能です。
しかしその場その場で適当な解釈をしても、いつか行き詰ってしまいます。
動詞のING形は品詞を見切ることで、的確に意味を理解できるようになります。
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