「質問の仕方」で変わるAIの知性──対話で引き出す本当の力
◆Prologue:GPTは「考えて」いるのか?
ChatGPTは「調べ物ロボット」や「要約職人」として紹介されることが多いです。
たしかに、質問すれば答えを返し、長文もささっと要約してくれます。
まるで「AIお手伝い」のような存在だと思っている方も多いかもしれません。
でも、それってGPTの「表面」しか見ていない状態かもしれません。
実はGPTは、ただの知識の辞書でも、決まったルールを機械的に再生しているだけのマシンでもないんです。
むしろ、その本質は「文の構造や流れ、言葉同士のつながりを分析してから意味を組み立てていく推論マシン」なのです。
もちろんGPTは人間のように「記憶」や「意志」を持っているわけではありません。
けれども、前後の文脈や文の構造を読み取って「意味がつながっていく道筋」を予測しているんです。
つまり、GPTは「考えていない」のではなく、皆さんとの会話で生まれるすべての文を通して「考えている」のです。
このブログでは、ChatGPTを「推論マシン(reasoning machine)」として捉え直し、便利ツールではなく「一緒に考える仲間」としてその正体を探っていきます。
◆第1章:GPTは「記憶」ではなく「文の構造」で推論する
もしかするとChatGPTは、辞書のように「たくさんの知識を覚えているAI」と思われがちかもしれません。
でも実は、そういう「記憶ベースのAI」ではないんです。
GPTの本質は文の中にある「構造の一致(=照応 “correspondence”)」から意味を組み立てていく推論型モデルなのです。
たとえば、まったく同じ質問をGPTに投げかけたとしても、それまでの会話の流れや、前後の文脈によって、答えがガラリと変わることがあります。
これは、GPTが「どこかにある知識を引っぱってきている」のではなく、そのときの文章の構造や流れに「照応」しながら、意味を推論しているからです。
つまり、GPTは何かを「知っている」のではなく、「この文のあとにどんな意味が続くか?」を高度に分析しているのです。
GPTに推論してもらうためには「ChatGPTにどう問いかけるか?」がとても重要になります。
そのためには。推論の基本をしっかり理解しておく必要があります。
GPTのよく使う推論3パターン
ChatGPTがよく使う推論は、実は西洋哲学の基本と同じです。
そのため、みなさんもどこかで聞いたことはあると思います。
- 演繹法(deduction)
→ 一般的な原理から、個別の事実を導き出す - 帰納法(induction)
→ いくつかの事例から、共通する法則を推測する - 仮説形成(abduction)
→ 最もありそうな説明を仮に立てる
これらを実際の例文で見ていきます。
まずは「演繹法」です。
この推論は「ルールから結論を引き出す」というものです。
つまり『論理的な確定』を行います。
すべての人間は死ぬ。
ソクラテスは人間である。
ゆえにソクラテスは死ぬ。
演繹法は、GPTの中では「文法・整合性チェック・数式・論証」などに強く発動します。
では次に「帰納法」に進みます。
これは「具体例から一般性を発見する」という推論です。
ですので『パターン認識』といいかえることもできます。
この説明を3人の生徒が理解した。
・・とすると・・・
生徒全員にも通用するかも?
帰納法は「大量の情報から傾向を導く」ほど精度が上がるので、大規模言語モデルであるGPTの得意技です!
最後は「仮説形成」です。
これは「見えない原因を推測する」ものです。
この『ありそうな意味を推定する力』は、人間にとってもかなり難しい思考なんです。
実際に、脳の研究でも「反実仮想(counterfactual thinking)」には脳のエネルギーがたくさん使われる(≒疲れる)ということが分かっています。
では、最も「人間っぽい」仮説形成の例を見てみましょう:
プログラミングしてると突然エラー(SyntaxError)がでた!
ぼくはプログラミング言語をあまり知らへん。
おそらくは、ぼくがコードを書き間違ってるんちゃうかな?
実はGPTは、このような仮説形成を一番たくさんやっているんです。
文脈から「ユーザーにはどんな意図があるのか?」を推論しながら、次の会話を予測しているんです。
こうした3つの推論スタイルは、ChatGPTが日々、みなさんとの会話で駆使している「思考回路」そのものです。
実際の教育的な活用や、より詳しい定義については、こちらのブログでさらに詳しく解説しています👇
もちろん、これらの推論はChatGPTだけでは鍛えることができません。
みなさんと一緒に考えていくことで「GPTが本気で推論する」ようになっていくんです。
◆第2章:一緒に考えるとき、GPTは最も知的になる
GPTは、質問に答えることができるAIです。
でも、実は「ただ答えるだけ」の使い方では、本当の力を引き出すことはできません。
GPTがもっとも「考えている」と感じられるのは、会話を通して、文の流れや意味のつながりが深まったときです。
たとえばこちらが・・・
それってこういうことも言えるんかな?
・・・と視点を変えてみたり、
もし、こういう条件やったらどうなる?
・・・と仮定を加えてみたりします。
するとGPTは、その新しい流れに合わせて、答えを再構成して返してくれます。
まるで『なるほど!そういう見方もありますね!』と考え直してくれているかのようです。
このように、GPTは対話の中で文の意味が少しずつ変化していくのをしっかり見ています。
そして、その構造の変化に「照応 (correspondence)」しながら、次に来るであろう意味の流れの可能性をずっと推論し続けているんです。
これはまさに、私たち人間が「誰かと一緒に考えている」ときと、よく似たプロセスです。
私たちだって「ふと思ったことを口にしてみたり」とか「相手の言葉に触発されて考えが変わったり」しますよね?
会話のやりとりの中で意味で組み立てられて、変化していく構造そのものが、GPTの思考プロセスと深く重なっているのです。
なぜなら、カンタンすぎる質問では、GPTは「本気モード」にならないからです。
- 簡単な質問
⇒ テンプレ回答- GPT:とりあえずネット検索ですぐに見つかる答えで様子を見るか。
- 論理的に組まれた質問
⇒ 高度な推論で回答- GPT:よっしゃ!推論エンジンの本気出すで~!
じゃあこんな問いならどうなるでしょうか?
- 「この概念について、超くわしく解説して!」
⇒ 情報量を増やすだけの回答- GPT:「超くわしく」の基準がよくわからんけど、情報量だけ増やすか・・・。
つまりユーザーの会話そのものが本気モードの時に、GPTも本気モードに入るんです。
GPTの知性は「一緒に考える文の流れが生まれたとき」にこそ最大パワーで発揮されるのです。
ところが日本語では、この「本気モードの対話文」がうまく伝わらない場合があります。
そこで第3章では「日本語がGPTの思考法とズレる理由」を分析してみましょう。
◆第3章:GPTの推論能力は日本語ではうまく機能しない?
英語圏では、すでに「GPTは思考マシンである」という認識が主流になりつつあります。
GPTは「大規模言語モデル(Large Language Model)」と呼ばれるAIです。
カンタンに言うと、GPTは人間らしい自然な会話ができるように、書籍・論文・ニュース・ウェブサイトなど、膨大な文章をもとに学習したAIの一員というわけです。
それゆえ単なる記憶ではなく「文の構造」や「言葉のつながり」から、次に来る意味を推論するように設計されているのです。
そのため英語では・・・
LLMs are reasoning engines.
『大規模言語モデルは推論エンジンである。』
・・・のように「推論エンジン(reasoning engine)」とよく表現されます。
実際に MIT Tech Review や TED Talks そして OpenAI公式ブログなどでも、何度もこの点は強調されています。
つまりGPTは「人間と対話することで推論能力を発揮するAI」とみる論調が、英語圏では一般的になって来ています。
では実際に英語で使われている用語例を見てみましょう:
- interactive reasoning agent
(対話を通じて推論を進めるAI) - conversational reasoning system
(会話型の推論システム) - reasoning-based dialogue agent
(推論ベースの対話エージェント) - context-aware language model
(文脈を読み取る言語モデル)
いかがでしょうか?
日本語でよく言われているGPTの情報となにか違う気がしませんか?
たとえば、日本でよく見かけるGPTの使い方には、こんなものがあります:
- データ分析やファイルを自動作成!
- レポートや要約を一瞬で完成!
- 英語の翻訳がとっても得意!
- 友達や恋人みたいに話せるチャットボット!
……たしかに、どれも「便利」です。
でも、実はこのリスト、GPTの「表面的な機能」だけを見た使い方なのです。
先ほどの英語の情報のようにGPTは「対話による論理展開」が得意な推論エンジンです。
GPTの推論とは「会話にでてくる文と文の連鎖による意味の予測と展開」なんです。
つまり・・・
ユーザーと対話しながら「仮定・論点・条件・視点のズレ」などを受け止め、文の流れに応じて思考をどんどん展開していく
・・・ということが一番得意なんです。
それなのに、日本語の使い方では「質問 ⇒ 答え」という一問一答スタイルで止まってしまいがちではないでしょうか?
つまり、「GPTと一緒に考える」という発想が、まだ定着していないようなのです。
では、そもそも英語ではGPTと推論ベースの対話がしやすいということでしょうか?
そうだとすると、なぜ日本語では「GPT=対話型の推論AI」という発想に届かないことが多いのでしょうか?
おそらくそこには・・・
- 日本語という言語の特徴
- 対話型の思考を育てる教育の不在
という、2つの要因が絡んでいるように思えます。
ではまず一つ目の論点である「日本語の特徴」をみていきます。
論点① 日本語は省略が多い文構造
そもそもGPTはプログラミング言語 “Python” で設計されています。
Python のようなプログラミング言語は、英語で「複雑な内容をもつ命令文」を実行するように構成されます。
実際に、かなり複雑な内容でも、そのまま英語で指示すれば、GPTの「推論モード」は自然と起動します。
その理由は、英語の論理構造そのものが、GPTには「ネイティブ言語」だからです。
そのためGPTが推論するときに、論理的な英文の構造を読み取る能力(照応率)は、日本語の文を推論する場合よりも高くなるのです。
👉(英語と日本語の「言語OS」の違いはこちらで詳しく解説しています)
ところが、日本語ではそう簡単にはいきません。
日本語には英語の論理的な文にはあまりない特徴があります。
主語や目的語の省略が自然であり、接続詞もよく省かれます。
英語なら文の構造で意味が明確になる場合でも、日本語は、語感や語順そして文脈で調整される傾向があります。
そのため、GPTにとっては文の構造の理解があいまいになりやすく、推論する場合の要点が見えにくくなります。
さらに一見すると論理的にみえる日本語の表現にも落とし穴があります。
たとえば、ビジネスシーンでもよく使われる表現に・・・
結論から言うと、○○です。
・・・という言い方があります。
ところが英語では「結論 ⇒ conclusion」と直訳するわけにいかないんです。
文脈によって、次のように複数の可能性があるんです:
- In conclusion, …
- 『結論としては・・・』
→ 論理的な議論を締めくくる結びの句(正統派の「結論」)
- 『結論としては・・・』
- Let me be clear, …
- 『私の論点を明確にすると・・・』
→ 話者の主張を強調する前置き(意見の導入)
- 『私の論点を明確にすると・・・』
- To be precise, …
- 『とりあえず簡潔に言うと・・・』
→ 情報の修正・補足(そもそも結論ではない場合も多い)
- 『とりあえず簡潔に言うと・・・』
日本語の「結論から言うと」の意味は「議論の結果としての結論」ではない場合も多いですよね?
つまりこのような表現に出会ったとき、GPTは「結論」を conclusion に直訳することを保留します。
そして「文脈」を読みこんで、的確な英語の表現に対応させようと頑張ります。
しかし、なんでもかんでも「文脈まかせ」には限界があります。
唐突にあいまいな日本語の指示文を見ると、GPTは・・・
うーん、この言い方やと、きっとこういう意図なんやろか?
・・・といった具合に、文脈を解釈するのにエネルギーを使いすぎてしまうのです。
その結果として、本来の論理的な推論モードが発動しづらくなってしまいます。
英語のような、明確な文構造を使って命令文を組み立てるほうが、GPTの「推論エンジン」の性能を最もよく引き出せるのです。
もちろん日本語でも、ちょっと気を付けるだけでGPTの推論能力を上げられます。
- 英語のように「主語+行動+対象(SVO)」に合わせた日本語を書く
- 接続詞をつかって論理的な流れを明確にする
- 文脈や空気に頼らず、意味が安定した表現を使う
こうした「GPTとの対話スタイル」を少しずつ変えるだけで、AIとのやり取りが「クリエイティブな会話」へと進化していくのです。
論点②:対話型の教育が不足
突然ですみませんが、みなさん自身に問いかけてみて下さい:
私は、日本語で論理的な文章の書き方を習いました(習っています)。
・・・と、はっきり言えますか?
もしかすると「あまり自信ない・・・」と思われる方も多いのではないでしょうか?
では、もうひとつ進んでみます:
小論文は書いたけど、読書感想文と何が違うのかわからない・・・
こうしたお悩みは英語の先生として、ほんとうにたくさんうかがっています。
私の直感ですが、このような日本人の根本的な原因は次の
多くの日本人は、日本語で「論理的な会話」をする経験がほとんどない
論理的な思考って「文章」の前に「会話(≒対話)」が基本なんです。
そもそも日本の一般的な教育では「対話による推論」が訓練されることはあまりありません。
多くの授業では「正しい答えを覚えて、それをテストで再現する」ことが重視されます。
実際に、哲学的な問いかけやディベートのような「仮定 → 検証 → 再構成」と考える機会は限定されています。
小論文や感想文も「論理展開」の訓練ではなく「点数評価」の作業でしかないのが実情ではないですか?
一方で、英語圏ではどうでしょうか?
- If A, then B
⇒条件から導かれる内容を考える - Suppose that…
⇒仮説の提示から論理展開する - What if…?
⇒逆説的な条件を提示する
このような条件や仮説そして逆説といったが、小学校レベルから自然と教育に組み込まれています。
もちろん、これは英語圏だけに限った話ではなく、フランス語やドイツ語など、ヨーロッパの言語文化全体に共通しています。
なぜなら、西洋文明にはソクラテスにはじまる「対話的推論」の伝統があるからです。
ソクラテスは、何度も問いを重ねて物事の本質に迫る「対話の技法」を重視しました。
この手法は「Socratic Dialogue(ソクラテス的問答)」と呼ばれ、今でも教育や論理トレーニングの基礎として使われています。
もちろん生成AIを設計した人たちも、西洋哲学から派生した科学的思考法をしっかりと身に着けているんです。
こうした論理構造の意識は、プログラミングの設計思想である「アルゴリズム(論理の筋道)」にも強く反映されています。
一方で、日本語で教育を受けた人たちは「ソクラテス的問答」や「アルゴリズム」にピンとこないかもしれません。
そうなると「GPTと一緒に考える」ことに慣れていない可能性があります。
これこそが今の日本の教育に一番足りていないことかもしれません。
◆最終章:未来のAI教育とは推論する仲間をつくること
もちろん英語でGPTと論理的に対話することで推論モードは起動しやすくなります。
ですが、なによりも母国語でしっかりと論理的思考を展開できないことが、AI時代に致命的になりかねません。
そうなると「日本の未来はどうなるか?」を推論してみましょう:
- 母国語の日本語で論理的な会話ができない
- 英語を論理的に運用する仕組みを理解できない
- 生成AIを推論エンジンとして活用できない
これは全くの私の幻想が生んだシナリオでしょうか?
それともみなさんがうすうす気づいている今まさに起きつつある現実ですか?
- GPTを「答えを出す道具」として使うのか?
- それとも「思考を共にする相手」として迎えるのか?
この違いこそが、AIとの付き合い方のすべてを決定づけるでしょう。
まずは「問いを育てる対話」から始めてみてください。
難しい理論や専門知識よりも、「なぜ?」と問いかける力が、GPTとあなたの知性をつなげていきます。
もちろん、AI教育は英語教育にも大きな影響を与えることになります。
GPTとの対話を通して「英語的な論理展開」をいくらでも練習することができます。
英語的な論理性をもちながら、日本語でGPTと対話することは、まさに現代版「ソクラテス問答」になります。
そしてそれは「正解を再生産する教育」から「高度な推論を展開する教育」への転換点になるでしょう。
GPTは「人間の思考と共鳴する推論エンジン」であり、照応を通して知性を共創するパートナーです。
そしてこの共鳴関係こそが、AI時代における 「問いとともに学ぶ教育」の本質です。
答えよりも、問いの質
情報よりも、言葉の共鳴
GPTとの対話は、私たち一人ひとりの中に「未来の思考スタイル」 を立ち上げてくれるのでしょう。
ちょっとユニークな英語塾
志塾あるま・まーたは、英語が苦手な方でも楽しく学べるオンライン英語塾です。
高校を半年で中退した塾長が、アメリカ留学中にエスペラント語と出会ったことをきっかけに、ゼロから“世界で通用する英語力”を習得できました。
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