英語を学びはじめるたとき、一度はこの疑問をもったことがあると思います👇
🤔なんで you って、1人のときも、2人以上のときも同じ you を使うんかな?
実際に2人称代名詞 you は――
- 単数の you ⇒ あなた
- 複数の you ⇒ あなたたち
――というように使うことができます。
これは「単なる偶然」でも「英語がいい加減」なわけでもありません。
実はこれは、ヨーロッパの歴史の影響を英語が大きく受けた結果なのです。
というわけで歴史をさかのぼって昔の英語の姿から見ていきましょう!
🔴2人称には単数と複数があった
英語には時代ごとに大きな変化が起きています。
そのため昔の英語は今の英語とはかなり違った姿をしていました。
英語のざっくりとした区別を確認しておきます👇

では古英語を出発点にして you の姿を見ていきましょう!
約1000年前の2人称代名詞はこんな感じでした👇
✅ þū … 単数(あなた)
⇒ þ は英単語 thing の濁らない “th” の発音です。
☑️ ġē … 複数(あなたたち)
⇒ ġ は /j/(yesの “y“)と発音します。
そして、それぞれの発音は…
- þū ⇒ “thoo” に近い
- ġē ⇒ “yee” に近い
――という感じになります。
つまり…
💡古英語の2人称代名詞は「単数」と「複数」に分かれていた!
――ということなんです。
でもなんだか、古英語のスペルって読みにくいですよね?
それもそのはず!
英語の先祖にあたるゲルマン語の世界ではルーン文字が使われていました。
その名残として、古英語はアルファベットを基本にしつつ、
- þ (thorn)
- ð (eth)
- ƿ (wynn)
――などルーン由来の文字も取り入れていたんです。
だから、古英語には見慣れない字が出てくるわけなんです。
🔗古英語の代名詞についてはこちらを参照ください👇
現代に残る thou と ye
実は古英語の2人称代名詞は、完全に消えたわけではありません。
すこし形を変えて、現代英語でも“古風な表現”として残っているんです👇
✅2人称単数の代名詞
⇒ thou / thy / thee / thine
☑️2人称複数の代名詞
⇒ ye / your / you / yours
どこかでご覧になった方もおられますよね?
それもそのはず!
これらは初期近代英語までは使われていて、聖書やシェイクスピアの作品でよく登場します。
たとえば、
Thou shalt not kill.
Ten Commandments
(汝は人を殺めてはならない)
これらは普段の英語では使いませんが、古風や詩的といった特別な響きをもつ言葉としていまでも生き続けています。
🔵フランス語の影響で you が敬称になる
1066年に英語の歴史における大きな変化が起こります。
もともとフランス語を話していたノルマン人によって、イングランドが征服されてしまいます。
この「ノルマン人征服(Norman Conquest)」によってフランス語が大量に英語へと流れ込みます。
これこそが、古英語から中英語への転換点になります。
そして「数の区別」だけだった英語の二人称にも変化が起きます。
それは、なんと…
🤯複数の you(ye)が単数でも使えるようになる!
――という驚くべき変化です!
古英語と同じく、フランス語にも2種類の二人称の代名詞があります👇
- tu(単数:あなた)
- vous(複数:あなたたち)
そしてなんと…
😲複数の vous を丁寧な表現の単数として使用できる!
――という点が、古英語に大きな影響を与えました!
フランス語の2種類の二人称は「単数」として使うと…
- 親称 tu
⇒ 親しい関係での呼びかけ(familiar form) - 敬称 vous
⇒ 敬意を示す呼びかけ(polite form)
――という区別があるんです!
このフランス語の使い分けが、中英語の時期(12~15世紀)に広がり、
💡英語の二人称に「親称 vs. 敬称」の区別が成立しました。
実際にみてみると…
- thou(親称)
⇒ 親しい関係での呼びかけ(familiar form) - you/ye(敬称)
⇒ 敬意を示す呼びかけ(polite form)
――という使いわけが近代あたりまで続きます。
もともと古英語の二人称代名詞には親称と敬称の区別がありませんでした。
だからこそ中英語へのフランス語の影響が革新的だったんです!
英語の please とフランス語 s’il vous plaît
実は英語の丁寧な依頼 “please” もフランス語の tu と vous と関係があります。
英語の please は動詞なので、もともと…
💡if it please you(もしあなたのお気に召すなら)
⇒ もし それが 喜ばせる あなたを
――という言い方でした。
これも中英語の時代にフランス語の影響を受けて生まれた定型表現です。
フランス語では「please(お願いします)」を、
- s’il vous plaît
⇒ 直訳すると “if it please you”
――と言います。
あえてカタカナにすると「シルブプレ」なので、どこかで聞いたことがあると思います。
しかし注意点があります!
なんとフランス語には「親称版 te」と「敬称版 vous」の2種類があります
✅ s’il te plaît
⇒ 親称での依頼(単数 te)
☑️ s’il vous plaît
⇒ 敬称での依頼(複数 vous)
このフランス語の敬称での依頼が、英語では――
🙏”if it please you” ⇒ “please”
――と省略されて残りました。
またフランス語には、ユニークな動詞があります👇
- tutoyer
⇒ tu で呼ぶ(親称 tu を使う) - vouvoyer
⇒ vous で呼ぶ(敬称 vous を使う)
ちょうど日本語にも、
- さん付けで呼ぶ
- くん付けで呼ぶ
- 呼び捨てにする
――などの使い分けがありますよね?
こうした「呼び方の選び方」こそが、言語の礼儀や人間関係を映し出しているのです。
さてここまでくると、
みなさんのなかにある疑問が湧いてきませんか?
🤔そもそもなんでフランス語の二人称複数 vous が敬称になるんやろ?
――これにはちゃんと理由があるんです!
というわけで「二人称複数=敬称」のナゾに迫っていきましょう!
🟢東西のローマ皇帝が「権威」のルーツ?
イギリスとフランスはご近所さんなのに、これら言語には異なる点がたくさんあります。
ここで、英語とフランス語を「言語グループ」という視点でみてみましょう👇

ラテン語(Latin)というのはローマで話されていた言葉です。
そのため、
🌿ローマ帝国の文化が、ラテン語を経由してフランス語にも影響を与えました。
もともと古典ラテン語(classical Latin)では、二人称代名詞はこうなっていました👇
- tu = 単数(あなた)
- vos = 複数(あなたたち)
まだ、この段階では「親称 vs 敬称」の区別はなく、単に数の違いだけでした。
ところが4世紀ごろ、歴史に転機が訪れます。
ローマ帝国が2つに分裂し、西ローマ帝国と東ローマ帝国が生まれます。
それにより「2人のローマ皇帝」が並び立つことになります。
🔗ヨーロッパの皇帝とローマの歴史についてはこちらをどうぞ👇
このときに生まれたのが…
👑ローマ皇帝のことを単数であっても複数形で呼ぶ
――という慣習です。
これには――
- 皇帝が2人いたことで vos(あなたたち皇帝)と呼ぶ
- 皇帝が1人称を nos(我々皇帝) と称する
――という背景がありました。
この東西ローマの時代における――
✅「権力=複数」という発想が「敬称=複数」のルーツになった!
――というわけです。
こうしてラテン語では2人称単数への呼びかけに違いが生まれした👇
- 親しい間の呼びかけ(親称)
⇒ 単数 tu - 敬意を示す呼びかけ(敬称)
⇒ 複数 vos
そして、このような使いわけをラテン語の tu と vos の頭文字にちなんで、
✅T-V distinction(親称 tu と 敬称 vos の区分)
――と呼びます。
この経緯を英語 Wikipedia から引用します。
In classical Latin, tu was originally the singular, and vos the plural, with no distinction for honorific or familiar. According to Brown and Gilman, usage of the plural to refer to the Roman emperor began in the 4th century AD. They mention the possibility that this was because there were two emperors at that time (in Constantinople and Rome), but also mention that “plurality is a very old and ubiquitous metaphor for power”.
『古典ラテン語では、(二人称代名詞の) tu はもともと単数形であり、vos は複数形であり、敬称や親称として区別はありませんでした。 (社会心理学者)ブラウンと(シェイクスピアの研究者)ギルマンによると、ローマ皇帝を指す複数形の使用は4世紀に始まりました。 彼らは、これが当時(コンスタンティノープルとローマに)2人の皇帝がいたためである可能性について言及していますが、「権力を象徴する複数性は非常に歴史が古く、どこにでもみられる」とも述べています。』
T-V distinction – Wikipedia
「権威=複数」を意味する表現
そしてこの「権力者による一人称複数」には特別な呼び方もあります。
👑majestic plural(威厳の複数)
⇒ 王や皇帝は “majesty” と表現される
実際に皇帝に対する呼びかけをみていみましょう👇
- Your Imperial Majesty
⇒2人称(会話相手の場合) - His/Her Imperial Majesty
- ⇒3人称(会話ではない場合)
人称は変わっても「皇帝陛下」という意味で使えます。
そして王の場合は “Imperial” を省きます👇
- Your Majesty
⇒2人称(会話相手の場合) - His/Her Majesty
- ⇒3人称(会話ではない場合)
これらも人称に関係なく「陛下」という理解でOKです。
このように majestic という用語そのものが「最高権威」を意味します。
だから majestic plural(威厳の複数) という呼び方が、皇帝や王の「複数=権威」を解説する学術用語として定着しているんです。
そしてもう一つの特別な表現があります。
👑royal we(君主の我々)
⇒ 君主による一人称複数 “we”
本来なら “I” で使うケースで王族の発話では “we” が使われることを意味します。
つまり権威者による「複数を一人称単数」として使うパターンです。
この「royal we」 は現代でも王族や女王のスピーチに使われています。
🔗”royal we” についてはウィキペディアをご確認ください👇

ここで注意点があります。
さきほどのウィキペディアの記述にもあったように――
✅言語一般における「複数=敬称」という特徴は、ラテン語のほかにもみられる現象です。
――という点を留意下さい。
あくまでも、
⚠️フランス語などへの影響に関しては、2人のローマ皇帝が大きいという説が有力である
――という理解でお願いします😊
🟡英語にも存在した「敬称の you」
この「複数=権威」という伝統はラテン語を経て中世ヨーロッパに広がり、特にフランス語に強く残りました。
- 親称 tu
⇒ 親しい呼びかけ(familiar form) - 敬称 vous
⇒ 敬意を示す呼びかけ(polite form)
現代フランス語でも、この区別はしっかり生きています。
そしてこの vous が、英語における you 敬称化 の直接的なモデルになりました。
確認をためリストにしてみましょう👇
- 古典ラテン語:tu – vos
- フランス語:tu – vous
- 初期近代英語:thou – you
つまり、英語の you 敬称化は――
ラテン語 → フランス語 → 英語
――という長い歴史のバトンリレーの結果だったのです。
そして、英語にも確かに 「thou(親称) vs you(敬称)」 の区別は存在していました。
では Wikipedia をみてみましょう👇
In the grammar of several languages, plural forms tend to be perceived as deferential and more polite than singular forms. This grammatical feature is common in languages that have the T–V distinction. English used to have this feature but lost it over time, largely by the end of the 17th century.
『いくつかの言語の文法では、複数形は単数形と比べてより敬意や礼儀をよく強く示すものと認識される傾向があります。 この文法上の特徴は “T–V distinction” が存在する言語でよく見られます。英語はかつてこの特徴をもっていましたが、17世紀の終わりまでに時間の経過とともに多くは失われました。』
Royal we – Wikipedia
つまり――
🫡単数形よりも複数形のほうが丁寧とみなされる(T–V distinction)
――という特徴は英語にも確かにあったのです。
しかし17世紀以降、社会の変化とともに you が守備範囲を拡大 し、次第に thou が衰退 していきました。
こうして最終的に、
✅現代英語では you が単数・複数の両方を意味するようになった!
――というわけなんです。
もともと二人称には「親称」「敬称」の区別があり、さらに「数」の区別もありました。
それら全てが英語の歴史の流れのなかで you という一語に集約されてしまったのです。
ただし “you 一強” になったとはいえ、地域ごとに工夫が生まれました。
実際に「複数専用の you」を意味する表現は各地に存在しています。
たとえば…
- アメリカ南部 ⇒ “y’all”
- アイルランド ⇒ “ye”
――などです。
また一般的な英語でも――
- you two
- you both
- you all
- you guys
――など「複数と明示する表現」とのペアリングは自然に行われます。
そう考えると…
「あなた」と「あなたたち」が自然に区別される部分は日本語は便利ですね😊
ここまでお読み下さった皆さん、ありがとうございました😌
英語は最終的に you を単数・複数とも兼ねるようにしたため、この区別は見えなくなりました。
しかし「丁寧さを複数形に託す」という文化は、please という単語の奥にしっかり残っているのです。
もしフランスの影響がもっと大きな歴史になっていたら
- if it please thee
- if it please you
――なんて表現があるパラレルワールドが生まれたかもしれませんね!
ではまた、別の記事でお会いしましょう🫡
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