「ロジカル・シンキング Logical Thinking」という言葉はビジネスの分野でもよく目にするようになりました。
さて英語に限らず、小論文や英作文をする際には「論理的」であることが求められます。
もちろん「議論 discussion」や「討論 debate」でも論理的なことは必要不可欠です。
しかし英語と日本語の小論文では書き方が大きく違います。
これは「論理展開」に関する枠組みが大きく違うことを意味します。
今回、論理的な文章の中心部分である「根拠」を掘り下げていきます。
よく「結論から先に言う」などという論理的思考の指導などもあります。
しかし私見では「結論を先に言う」のは論理性にはほとんど関係ありません。
その理由はカンタン簡単です。
結論の順番ではなく「主張をサポートする『根拠』の妥当性」が論理性を決定するからです。
つまり「根拠に納得できる?できないか?」で「論理的思考力」が評価されてしまうということです。
根拠って英語でなんていうの?
さて「根拠」とはカンタンにいうと「理由」のことです。
まずは、この「根拠」に関して英語で知っておくと便利な表現がありますので紹介します。
日本語でいう「根拠」の英語訳を調べるといろいろ出てきます。
- evidence
- reason
- basis
- ground
実は「論理的な文章における根拠」というぴったりの意味を持つ英単語があります。
その英単語を “rationale“ といいます。
Weblio 英和辞典による意味だと「理論的解釈」「理論的根拠」と載っていました。
しかし Oxford Dictionary の説明だともう少し踏み込んだ理解ができます。
“a set of reasons or a logical basis for a course of action or belief.”
Oxford English Dictionary
つまり rationale をこのように理解することができます。
先ほど列挙したように evidence / reason / basis / ground は「根拠」以外の意味でもよく使います。
論理に関係なく evidence は「物的証拠」も意味します。
実際、形容詞の evident は「誰の目にも明白だ」という意味ですから、論理は必ずしも必要ではありません。
また reason は「理性(的に考える力)」や「道理をもって説得する」という意味でも使います。
ですので「論理的根拠」と意味をピンポイントで示したいときに rationale は便利です。
論理的な根拠に必要なのは valid であること
どんな主張をするのであれ、根拠があれば論理的です。
ですが、その根拠も何でもいいわけではありません。
根拠は「主張を裏付けるのに十分なもの」である必要があります。
どんな主張をしても結構です!
しかし、どこかで矛盾が生じては意味がありません。
例えば、高速道路の自動車の速度のデータだけを根拠に「日本では時速100kmで公道を走行してよい」などと結論してはいけません
根拠は「自分の主張を矛盾なく説明する」必要があります。
つまり「誰に何を言われても、納得いく説明ができるもの」である必要があります。
これを英語で valid(妥当性がある)といいます。
参考に Oxford English Dictionary から valid の意味を引用します。
(of an argument or point) having a sound basis in logic or fact; reasonable or cogent.
Oxford English Dictionary
また Weblio 英和辞典にはこうあります。
“1〈議論・理由など〉根拠の確実な,確かな,正当な,妥当な”
Weblio 英和辞典
このように valid とは「論理の根拠が十分なものである」という意味に軸が置かれた言葉です。
自分の主張することに対して「あんたのいうことは筋が通っとる!」と理解してもらえたら大丈夫です。
なんだか難しそうですが、ご心配には及びません。
大切なことはシンプルです。
・どんな主張であれ、根拠があれば論理的です。
・根拠が valid(妥当)であれば、その主張は有効だと認められます。
・validity(妥当性)とは「矛盾を生じない説明が可能」ということです。
ここは必要条件として押さえておきましょう。
小論文の場合は相手はいませんが、議論や討論になると目の前に相手がいます。
周りに自分の意見をしっかりと聞いている人たちがいます。
自分の「論理的思考」の力量を試すチャンスです!
齟齬を指摘してもらえたら成長するチャンスです!
どちらに転んでもプラスにしかなりません!
とはいえ、いきなり挑戦するのは不安だと思います。
ご心配なく、論理的思考にはパターンがあります。
論文とは決まった形式で主張と根拠を提示するもの
論文とは「主張を論理的に述べる文」のことです。
そして、実際に論文を書くときは、つぎの2つが大切になります。
- 演繹(deduction / deductive reasoning)
- 帰納(induction / inductive reasoning)
- 仮説形成(abduction / hypothesis)
まず1つ目ですが、これは冒頭でも述べた内容と同じです。
英語の小論文のかたちは決まっているので、ネットで調べればすぐにわかります。
私もブログを書いているで参考にどうぞ。
そして2つ目が今回のテーマである「論理的根拠」です。
論理的根拠はそれぞれが独立しているものではなく、いろいろ組み合わせて根拠を強化します。
いろいろな論理的根拠を学ぼう
Nature is the source of all true knowledge. She has her own logic, her own laws, she has no effect without cause nor invention without necessity.
Leonardo da Vinci
自分の主張を成立させるために、なにかしら妥当性のある論理的根拠が必要になります。
それらの代表的なものが以下になります。
- 推論(演繹法、帰納法、仮説形成)
- 具体例
- 事実
- 統計
- 類推
- 論駁(ろんばく)
小論文などに「根拠」を書くときは、これらのうちいくつかを組み合わせて使うことになります。
それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。
推論 Reasoning
Reason is not automatic. Those who deny it cannot be conquered by it. Do not count on them. Leave them alone.
Ayn Rand
論理的根拠として最も一般的なものに「推論 reasoning」があります。
一般的に「推理」や「論理展開」そして「論理的思考」と呼ばれるものはほぼこれです。
「どうしてそう言えるのか?」
「なぜそれが正しいと判断できるのか?」
といった疑問に対して、回答を導く手段が推論です。
また推論には inference という訳があてられることもあります。
これは「前提から結論」へとつながる過程のことです。
つまり reasoning に含まれるひとつの過程として inference があると考えてください。
そして「推論」には以下の3つのパターンに分かれます。
- 演繹(deduction / deductive reasoning)
- 帰納(induction / inductive reasoning)
- 仮説形成(abduction / hypothesis)
これらは「結果 Result」「法則 Rule」「事例 Case」の組み合わせ方によって決まります。
詳しくはこちらをどうぞ。
具体例 Examples
It has been my experience that folks who have no vices have very few virtues.
Abraham Lincoln
体験談、事例など「具体例 example」をあげることで根拠にします。
「実際にこうなってるもん」と言えるものは説得力が上がります。
英語だと文頭に for example や for instance を置いて、具体例を提示することがよくあります。
でもそれでは、文字数稼げませんし、ワンパターンになりがちですよね?
こんなのはどうでしょう。
“What I personally experienced is that SV”
私が個人的に経験したのは(SVってこと)です。
“The story I heard from (人の名前) is that SV”
私が(人の名前)から聞いた話では(SVってこと)なんです。
こういう表現も定型パターンで持っておくとよいと思います。
事実 facts
The great tragedy of science – the slaying of a beautiful hypothesis by an ugly fact.
Thomas Huxley
事実(fact)とは何か?
だれもが「実際に存在を認識できること」です。
(例)日本の最高峰は富士山である。
推論よりも具体性が高いので、事実が提示できれば、根拠は一気に強化されます。
しかし「事実」とはそんなに簡単ではありません。
富士山のように実際に物理的に存在している場合は、事実として提示しやすいです。
ただ信仰や感情のように物理的に認識しづらいものは要注意です。
哲学者のフリードリッヒ・ニーチェはこう言っています。
There are no facts, only interpretations.
『事実は存在しない、存在するのは解釈だけである。』
Friedrich Nietzsche
みんなが「事実であると信じて」いても、それが「事実である」という保証はありません。
いまだに宇宙がどれだけ広いのかわかっていません。
宇宙に存在するとされる物質の半分も正体がわかっていません。
世の中、まだまだ分からないことだらけなんです。
もうすでに起こった「歴史上の事実」でも同様です。
歴史書は当時の権力者の視点から書かれていたり、時代背景を色濃く反映しています。
歴史の教科書ですら新事実の発見でどんどん書き換えられていっています。
たとえ「今の事実」であっても「未来の事実」である保証はありません。
「事実」を提示するときは「みんなが事実と信じているが、まだ変化する可能性のあるもの」には留意する習慣をつけましょう。
さて英語で「事実」を表現するのはカンタンです。
動詞を “It is ~” や “they were ~” そして “he knew “のように 「現在形と過去形」で言い切ってしまえばいいです。
英語は「動詞の形」で「事実 realis / 非事実 irrealis」を表現します。
いわゆる「普通の文章」は「直説法 indicative mood」といって「事実モード」を発動できます。
英語では would や can など助動詞を使うと「推量」や「仮定法」といった「事実から離れる」というニュアンスが少なからず働きます。
この話はとても難しいのでこれだけ覚えておいてください。
ほかにあえて「実際のところは~」とか「事実としては~」などを追加したい場合は以下の表現がつかえます。
- actually(実際には)
- in fact(事実上)
- The fact is (that) SV ~ (事実としては SV~ である)
- The reality is (that) SV ~ (現実としては SV~ である)
このテーマとはすこし離れますが、あとはラテン語由来の表現で de facto で「事実上の」という言い方を抑えておけばよいかと思います。
統計 Statistics
According to statistics, a normal person has one breast and one testicle.
a joke
事実と同じく「統計 Statistics」も強力な武器になります。
データや数字をだすことで、客観性を持たせることができるからです。
よく「日本は高齢化社会である」と言われています。
ところが「ホンマかいな!?」と突っ込まれたときに困ります。
ここで「統計」を使ってみましょう。
データは「世界銀行 The World Bank」から拝借した、2019年の高齢者の全人口に占める割合の上位の国からのランキングです。
- Japan 28%
- Italy 23%
- Portugal 22%
- Finland 22%
- Greece 22%
- Germany 22%
- Bulgaria 21%
- Croatia 21%
- Malta 21%
Population ages 65 and above (% of total population) – The World Bank
こういうデータがあれば「確かに日本は高齢化社会やな~、それも2019年時点で世界一の!」という見解を共有できるはずです。
統計データを導く際に、英語でよく使うフレーズはこんなものがあります。
- The statistics says ~(統計は示している)
- The study shows ~(研究は示している)
もし「according to ~(~によれば)」がワンパターンになりがちなら、こういった別の表現を使って語調を変えましょう。
さて、統計には注意しなければならない点があります。
それは、恣意的にデータを抽出できることです。
公式なデータであっても都合よく編集されているかもしれません。
統計やデータは誰がどうやって持ってきたのか見えにくいものも多くあります。
統計やデータを出すのは必要なことです。しかし、その統計やデータが導くものには留意が必要です。
それはこちらが根拠として使う場合も同様です。
然るべき立場の研究者ですら、データ改ざんや捏造を行います。
周りがどうであれ、それぞれが可能な限り客観的にデータを扱うべきだとおもいます。
もちろん悪意のないミスや間違いもありますので、データを迅速に修正・訂正をするのは誠意の一つだと思います。
類推 Analogy
It’s like déjà vu all over again.
Yogi Berra
「類推(Analogy)」とは類似したケースをもちだすことで、自分の主張をより身近なのものとして説明する方法です。
それでは analogy を Oxford Dictionary で調べてみると・・・
a comparison between one thing and another, typically for the purpose of explanation or clarification.
Oxford English Dictionary
つまり「類推」とは・・・
おそらく高校の英語でこんな表現を習っているはずです。
“A is to B what C is to D“
『A の B に対する関係は C の D に対する関係に等しい』
これこそまさに「類推」の代表例です。
似ているものを引き合いにだすことで、自分の主張をより身近な例を利用して説明することができます。
そして「比喩 metaphor」もこの類推の仲間に入れることができます。
ただ、類推は「2つの事柄の関係性を利用」します。
一方で比喩は「まるで~のように」といったように単独で使うことができます。
類推はデータや事実に比べると根拠として弱いのは否めません。
ですので、自分の主張の軸にするよりは「理解しやすいように説明する」ためにうまく使うとよいと思います。
論駁 Refutation
We could never learn to be brave and patient, if there were only joy in the world.
Helen Keller
日本では「論駁 ろんばく」ってあまり聞かない言葉ではないでしょうか?
論駁(refutation)とは「あえて自分とは逆の立場をとり、その不合理性を指摘する」です。
小論文だと、反対意見に対する牽制として使えるでしょう。
「~もいいけど、こんなネガティブな面が考えられます。なぜかというと・・・」
という感じで使えます。
しかし論駁の本領はディスカッションで発揮されます。
私見ですが、論駁はディスカッションにおいては最強武器といっても過言ではありません。
バランスを欠く極端な主張は、ほぼ論駁で制圧できます。
相手が自信満々に、居丈高に来る場合は、ぜひとも狙ってください!
根拠のコンビネーションプレーで主張をサポート
ここまでいろいろな「根拠」をみてきましたが、いかがだったでしょうか?
論理性というのはルール・システムがすでに決まっているものです。
論文にもフォーマットがあり、形はどれも同じようものです。
だからこそ主張を「どのような根拠で下支えしていくのか?」にこそ意義がある、と言えます。
こういった訓練は授業やテストでいきなりできるものでありません。
普段から、いろんなことを考えて、論理的に話をできる人たちと意見を交換しておくことが大切です。
論理的な考え方の流れが自然にできるようになれば、英語力もあとからついてくると思います。
ちょっとユニークな英語塾
志塾あるま・まーたは英語が苦手が困っている人が、英語を明るく楽しく学べるオンライン英語塾です。
塾長が高校を半年で中退後に、アメリカの大学に4年間留学して習得したゼロから始めて世界で通用する英語力の習得法をみなさまにお伝えしています。
英語の仕組みを正しく見切る「統語論文法 Syntax」を使うので、シンプルなのに素早く、正確に英語が理解できます。
また現代文・小論文の対策なども、アメリカの大学で採用されている論理的思考力や批判的思考力(logical and critical thinking)のトレーニングを基準にして行っています。
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